表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

その7

 籐也君の顔が、ますます見れなくなった。籐也君は私の髪を撫でていたが、その手を離して、しばらく黙っている。

 なんでかな。やっぱり、私とんでもないこと言ったんだよね?


「花…」

 ドキン!

 ふわ…。籐也君が、両手で私のことを、優しく抱きしめてきた。


 う、うわ~~~。

 カチコ~~~ン!


「で、できるだけ、優しく…するけど」

 え?!

「本当は今も、こうやって、優しく抱きしめようって、思ってはいるけど」

 ドキン。


「でも、ギュって抱きしめたいって、そんな衝動にも駆られて…」

 え?え?え?!

「花を思い切り抱きしめたいって、そう思ってる自分もいて…」

 きゃ~~~~。お、思い切りって?!


「だけど、花を怖がらせたくないから…」

 と、籐也君の手、なんとなく震えてない?それに、声も。なんで?

 まさか、籐也君も緊張とかしてる?籐也君もドキドキしていたりする?


「………」

 籐也君が黙ってしまった。ど、どうしたらいいんだ。私…。体は硬直したままだし、何を言っていいかもわからないし、これからどうしたらいいかもわかんないよ。


 わわわ。籐也君が顔を近づけてきた。キス?

 ドキドキドキドキ。キスだ。いつもの優しいキスだ。それから、私を見つめている。私は視線をそらして、うつむいた。


 わわわわ。今度は、頬にキスしてきた。と思ったら、耳にも?!

 って、え?え?く、首筋にも?!!


 きゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~。ダメ!でも言えない。声が出ない!

 と、と、と、籐也君、ダメ!なんで、私のバスローブ、脱がそうとしてるの?

 どどど、どうしたらいいんだ。思わず、両手を前にして力を入れてしまった。でも、籐也君はバスローブを私の肩からずらし、今度は肩にキスをしてきた。


 ど、どひゃ~~~~~~!!!!

 このままバスローブ脱がされたら、私、ぜ、全裸なんだけど!!どうしよう。


「花…」

 え?

 また、キス…。って、え?


 籐也君。いつもと違う。キス、長い。ダメだ。頭がぼ~~~っとする。

 バサッ…。何かが床に落ちた音がした。と思ったら、籐也君の手が、私の背中に直に触れていることに気がついた。


 それから、ギュって抱きしめられた。籐也君の肌のぬくもりを直に感じた。でも、籐也君はまだ、キスをしていた。

 私はまだ、頭がクラクラしていた。力が抜け、ぼ~~っとしている。


 籐也君が唇を離したと同時くらいに、私はそのままベッドに押し倒された。

 あ?あれ?なんで?すぐ後ろにベッド?私、部屋の隅にいたよ。まさか、キスをしながら私は移動してた?

  

 籐也君が私を見つめ、またキスをしてきた。

 ダメだ~~~。

 私は、このまま、籐也君のものになっちゃうんだ。


 でも、それでもいい。


 なんでかわかんない。だけど、そう思えた。籐也君のキスがあまりにも、甘くて、気持ちよくて。

 ドキドキはしていた。恥ずかしかった。でも、籐也君の手のぬくもりやキスが、優しくて甘くって、それにどんどん私が溶けていく気がした。


 籐也君が、私、ものすごく好きだ。

 籐也君のぬくもりも、優しさも、あったかさも、全部。



 籐也君が、私の髪を優しく撫でている。それから、起き上がると、私と籐也君に布団を掛けた。


しばらく私は、横を向いて、ぼ~~っとしていた。

「花?」

 籐也君が、私の肩に優しくキスをして、

「大丈夫?」

と聞いてきた。


「……」

 私はまだ、トロンととろけたままだった。

「花?」

 あ、心配そうに顔を覗き込んできた。

「…」

 私は黙って、籐也君のほうに顔を向け、それから籐也君の胸にそっと触れた。


「ん?」

「………」

 籐也君の「ん?」って言う声も、ぬくもりも全部が優しいよ~~。

 じわ。涙が出そうになった。


「大丈夫?花」

「うん」

 ちょっとだけ、籐也君の胸に顔をうずめてみた。すると、籐也君が優しくまた私の髪を撫でてきた。


 ああ、その手も指も優しくって、またとろけちゃうよ~~~。

 また、泣きそうになった。


「ごめんね?」

「え?」

 なんで謝ったの。

「俺、ちょっと強引だったかな?」


「ううん」

「俺、優しくなかったかな」

「ううん。そんなこと…」

 優しかったって言おうとしたけど、なんだか急に照れくさくなって言えなかった。でも、その代わり、もっと籐也君の胸に顔をうずめてみた。


「と、籐也君」

「ん?」

「大好き」

「………うん。俺も」


 籐也君はそう言うと、私を抱きしめてくれた。ギュって抱きしめられたその腕の力が、嬉しかった。

 

 そんなふうに抱きしめられたら、ドキドキして硬直してしまったのに、今は嬉しいなんて。

 それから籐也君が私の髪にキスをした。


 なんだか、一気に私は変わった気がする。

 籐也君に触れられるのが嬉しいとか、籐也君にキスをしてもらうのが嬉しいとか、籐也君のぬくもりをまだまだ感じていたいとか、ずっとこのまま離れたくないとか、そんな気持ちでいっぱいだ。


 私は籐也君の胸に顔をうずめたまま、眠りについた。籐也君の心臓の音がして、思い切り安心しながら。


 籐也君が、私が眠りにつくちょっと前、優しく、

「おやすみ、花」

と言ってくれた。それから髪に優しくキスをしてくれた。


 でも、そのあとも、なにか言ってくれた気がする。夢心地の中、聞こえたのは、

「愛してるよ…」

 だったような…。だけど、もう私は半分夢の中にいた。


 籐也君のあったかいぬくもりに包まれ、私は幸せな気持ちで夢の中にいた。

 夢の中で思っていた。籐也君と結ばれたのは、きっと夢。

 明日、朝になったら、きっと私はいつものように自分の家のベッドで目が覚める。そして、ああ、なんて幸せな夢を見たんだろうって、そう思うんだ。


 きっと、そうだ。全部、夢だった。


 パチ…。なんとなく、目が覚めた。すると、私の髪を優しく誰かが撫でているのに気がついた。

「目、覚めた?花」

 ドキン!籐也君。

 目が合って、恥ずかしくなって、布団の中に顔を隠した。


「どうしたの?」

「…ゆ、夢…じゃなかった」

「え?」

「なんだか、夢なのか現実なのか、わかんなくなって」


「クス。おはよう。夢じゃないよ?」

「お、おはよう」

 そうだった。昨日、籐也君と、ホテルに泊まったんだった。


「よく寝てたね?」

「え?籐也君は?」

 そっと籐也君の顔を見てそう聞いた。

「俺?あんまり寝てない」


「そうなの?」

「うん。なんか、目が冴えてたっていうか、寝るのがもったいないっていうか」

「な、なんで?」

「花のこと、見ていたかったから」


 う、うわ~~~~。じゃあ、寝顔とか見られたの?

「それに、なんだか、感激してて」

「感激?」

「花が隣にいることとか、花と朝を迎えることとか、花が…」


 ドクン。籐也君の目が、なんだか、熱いよ?

「花が…、もう俺のものになったんだなあって、感激してた」

 う、うわ~~~。

 私はまた恥ずかしくなって、布団で顔を隠した。


 それからしばらく、籐也君は私の髪を撫でたりキスしたり、私を抱きしめたり、私の肩にキスをしたり、私の手をとってつないできたり、私に長いとろけそうなキスをしてきたり。

「このまま、ずっと花といたいな」

「うん」


「でも、今日仕事だ。もう行かないと」

「うん」

「家までは車で送っていくよ」

「時間大丈夫なの?」


「大丈夫。俺がチェックアウトしている間、またどっかで待ってて」

「うん、わかった」

 籐也君は、ベッドから出ると、そのままバスタオルを腰に巻いて、バスルームに入っていった。


 私は、まだ布団に潜っていた。籐也君のぬくもりや匂いの残るベッドにいたくって。でも、籐也君が出てくる前に、バスローブくらい着なくっちゃ、裸見られちゃうし。

 でででも、もう昨日見られちゃったよね。籐也君、電気消してくれたけど、バスローブ脱がされたあとだった気がする。


 恥ずかしい!いきなり、恥ずかしくなってきた。

 私、もう、籐也君と結ばれちゃったんだよね。

 きゃ~~~~~~~。


 きゃ~~~~~。きゃ~~~~~~。って、ものすごく恥ずかしがっていると、籐也君がガチャリとドアを開け、また腰にバスタオルを巻いて、バスルームから出てきた。

 ああ、昨日はなんだか、恥ずかしさのほうが勝っていて、よく見れなかったけど、籐也君って、体引き締まってるんだ。


 って、いけない。今、見とれてた。

「私も、シャワー浴びてくる」

「うん」


 服や下着を持って、バスルームに入った。そして鏡を見た。

 どこか違ってる?私。自分ではわからない。だけど、なんとなく違っている気がする。


 バスルームを出ると、籐也君はすでに着替えていた。そして、窓際に立ち、ぼけっと窓の外を見ている。

 それから、私の方をゆっくりと見た。


「もう、出れる?支度済んだ?」

「う、うん。もう大丈夫」

「……」

 籐也君が黙って私の方に来た。


「花」

「うん」

 うわ。抱きしめてきた!それも、ギューって…。


「花…。俺、大事にしていくから」

「え?」

「なんか、花がすごく大事で…。俺、これから忙しくなるかもしれないし、あんまり会えないかもしれないけど、でも、花を泣かせるようなことだけはしたくない」


「う、うん」

「ずっと、花を思ってるから」

「うん」

 嬉しい、その言葉。


「昨日、聖さんが歌った歌、あれ、本当に俺、花のこと思いながら書いたんだ」

「……」

 ドキ。そうだった。昨日のあの歌、歌詞を思い出しちゃった。


「いつか、花にそう言おうと思っていたのに、聖さんに昨日、言われちゃった」

「び、びっくりした。あれ、聞いて」

「…でも、まじで、本心だから。昨日、花を抱いて、ますます大事だって、花がすごく大事だって痛感した」

 ドキン!


「だから、花、不安になったり、俺が遠くに行っちゃうかもなんて、そんなこと思わないでもいいからね?」

「うん」

「俺、ずっと花のこと思っているから…。ね?」

「うん」


 ギュって抱きしめられるのが嬉しかった。籐也君の腕の力も、ぬくもりも全部嬉しかった。



 その後、籐也君が言うように、会える日はなくなった。ウィステリアはツアーが始まり、スタジオで練習する時間も減り、私のバイト先に籐也君が来ることもなくなった。


 でも、籐也君は、メールや電話をくれた。そして、

「花。俺と会えなくて寂しいからって、浮気してないよな?」

 なんて、冗談を言ってくる。


 それをなんとなく、電話で桃ちゃんに言ったことがある。すると桃ちゃんは、

「あ、それ、冗談じゃないよ。聖君に、花、俺と会えない間に浮気しちゃったらどうしようって、そうメールが来たことあったし」

「え?と、籐也君から?」


「花ちゃん。今だから言っちゃうけど、籐也君って本当に、花ちゃんのことでけっこう悩んでみたり、聖君に相談しに来たりしてたんだよ」

「…。あの、籐也君が?」

「うん。それだけ、花ちゃんのことは、大好きみたい」


 うわ~~~~。

「それで、花ちゃん。泊まったときは、思い切って籐也君の胸に飛び込んでみたの?」

 桃ちゃんが聞いてきた。

「う、うん」


 ああ、顔が熱い。ここに桃ちゃんがいたら、真っ赤なのを見られていたかも。

「籐也君、優しかった?」

 どひゃ。そんなこと聞いてきちゃったよ、桃ちゃん。


「え、え、えっと。うん」

 うわ~~~~。思い出すだけで恥ずかしい!

「良かったね?」

「うん」


 なんだか、桃ちゃんが、すっごく大人な感じがする。私よりもずっと年上みたいな…。

「でもね、桃ちゃん。私、いまだに信じられないっていうか。昨日もテレビに籐也君出てたでしょ?籐也君が歌う姿見て、本当に私、この人と一晩過ごしちゃったのかなあって、日にちが経てば経つほど、夢を見ていたような、そんな気になっちゃうの」


「わかる!それ、わかるよ、花ちゃん」

「え?わかる?も、桃ちゃんもそう?」

「うん!夢だったみたいな、そんな気になるよね。それに、いつまでたっても、聖君がかっこよくって、ドキドキしちゃったり」


「え?い、いまだに?」

「うん!だって、2次会の時の聖君、超かっこよかったし。それに、紋付袴も、タキシードも、すっごくかっこよくって、私、その日以来、また聖君といるとドキドキしちゃって…」

 桃ちゃん…、結婚してもそうなんだね。


「桃子ちゃん、もしかして、花ちゃんと電話?」

 あ、今の、聖君の声だ。

「うん、そう」

「桃子ちゃん、また、俺に惚れちゃったって、そんな話?」

「うん、そう。花ちゃんも、籐也君をテレビで見てると、彼女だってことが信じられなくなるみたいで」


「え?か、代わって、電話」

 聖君の焦った声がして、聖君が電話に出てきた。な、なんでだろう。

「花ちゃん?一言言っておくけど」

「え?う、うん」


「あいつ、花ちゃんのこと本気だから、ちゃんとあいつの彼女なんだってこと、自覚しないとダメだよ?」

「え?」

「ああ見えて籐也、たまに自信喪失したり、花ちゃんにふられたらどうしようなんて、すげえ暗いこと考え出したりするから。ちゃんと、いつでも、籐也君が好きっていうメールとか、電話とかしてやって」


「え?わ、私から?」

「そう。そういうメールしてくれないと、あいつ、すぐに俺のところに泣きついてくるから。頼んだよ?俺も、そうそう籐也のことばっかり面倒見れないからさ」


「………う、うん」

「じゃね。あ、桃子ちゃんに代わるね」

「花ちゃん、聖君の言うとおり、素直に、寂しいとか、好きとか、メールしたほうがいいと私も思うよ」

「え?」


「花ちゃんのことだから、忙しいのに寂しいだなんて言ったら、籐也君困るだろうな、なんて配慮いらないから。どうも、籐也君って、そういう配慮わかんないみたいで、寂しいって言ってもらったほうが嬉しいみたい。だから、本心をいつでも伝えてあげてね?」

「う、うん。わかった。ありがとう、桃ちゃん」


 私は電話を切ってから、すぐさま、籐也君にメールした。実は、ツアーの間、忙しいだろうからって、メールも控えてたんだ。

 本当はメールしたかった。もっと、いっぱい。


>籐也君、昨日テレビで見たよ。籐也君、かっこよかった。ツアー、あと何箇所だっけ?頑張ってね。体に気をつけてね。

 それから、こんなこと言ったら、籐也君を困らせるだけだけど、やっぱり、会えないのは寂しいよ。


 メールの返信は、その日の夜中に来た。今か今かと待ち続けた。もしかして、迷惑なメールをしたのかなって、そんな思いも湧いてきて、送らない方がよかったかもって、後悔もした。


 だけど、籐也君からのメールは…。

>花、俺も、今すぐに会いたい!会って、花を抱きしめたいよ!

 うわ~~~~~~~~~~~~!それを読んで、体中から火が出るくらい、照れまくった。でも、嬉しかった。


 なんて返信しよう。まさか、私も抱きしめられたい、なんて返事できないし。

 でも、一番、素直に思っていることを…。


>籐也君、大好き!

 それだけ書いて送った。送ってから、また恥ずかしくなって、ベッドに寝転んで、枕に顔をうずめていた。

 でも、すぐに携帯が鳴り、私は慌てて携帯を開いた。


>俺も、大好きだよ、花。

 きゃわ~~~~~~~~~~~~~~~。嬉しい!!!


 そのあと、すぐにキュンって胸が締め付けられた。切ない。会いたい。

 私も、籐也君のぬくもりが恋しいよ。


>籐也君のぬくもり、恋しいな。

 そのまま素直に送ってみた。すると、

>ほんと?でも、寂しいからって浮気はダメだよ?花。

と、そんなメールが来た。これ、冗談だと思っていたけど、本気で言っていたんだよね。


>しないよ。籐也君だけしか好きになれないから。籐也君のぬくもりしか、欲しくないから。

 そうメールを送ると、ちょっとたってから、返信が来た。

>クリスマスはライブがあって、二人で過ごせないけど、年末は仕事ないから、二人で過ごそう。


 籐也君としばらくメールを送り合って、携帯を握り締めたまま、私は眠りについた。



 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ