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その3

 桃ちゃんからメールが来た。

>私、変なの。聖君が歌う練習しているのを見てから、聖君にドキドキしてるの。変でしょ?

 それを読んで、同じだって思って、

>変じゃないよ。私もだもん!

と返信した。


>花ちゃんも?まだ、籐也君見て、ドキドキしてるの?

>してるよ。ライブでも、テレビに映ってる籐也君を見ても。

>一緒にいるときも?

>ずっとドキドキしてるよ。


>そうなんだ。花ちゃん、可愛いね!

 可愛い?可愛いのかな。ドキドキして、キスすら避けてしまうのって、きっと籐也君にとっては、あんまり嬉しいことじゃないよね。可愛いことでもないよね。


>でも、聖君から変だって言われた。自分の旦那に今さら、何をドキドキしているの?って。

 あ、そうか。桃ちゃんはもう、奥さんなんだもんね。

>だけど、いつまでも旦那さんにときめいているなんて、理想的なことだと思うよ。

 そう返信すると、桃ちゃんは、

>きっと、花ちゃんもずっと、籐也君にときめいちゃうんだね!

と、そんなメールをくれた。


 私はずうっと、きっと籐也君を思っていると思う。

 自分でも不思議なの。


 この前、本当に偶然にも、電車の中で桐太に会った。彼女と一緒に、桐太の実家に行く途中だったらしい。

 桐太は、今の彼女とは真剣に付き合っている。結婚まで考えているのかもしれない。だって、自分の実家にまで連れて行くんだもん。

 だけど、お姉ちゃんとは遊びで付き合っていた。


 お姉ちゃんも、本気じゃなかった。桐太は平気で浮気もしたし、お姉ちゃんはそんな桐太と平気で付き合っていたから。

 お姉ちゃんを泣かせるひどい男だって、私はずっと桐太のことを憎んでいた。最低な男だって。


 桐太のことは許せなかったし、さっさとお姉ちゃんと別れて欲しかったのに、なんだって、女の子と付き合うのをゲーム感覚で楽しんでいるような、籐也君のことは好きになっていたのかな。

 自分でも、やっぱり、わからない。


 でも、モデルの時、私と話をしている籐也君の言葉は、全部本心だったように思えたし、素のままの籐也君だったって、今でも思うんだ。

 そんな籐也君を私は、好きになったんじゃないかなって。


 モデルの仕事をこれから先、どうしたらいいかとか、進学のことを真剣に悩んでいた籐也君。あの籐也君は、私に心を開いてくれて、そんな話をしてくれたんじゃないかって。


 ショーのステージの上の、籐也君もかっこよくて好きだった。でもきっと私は、素を見せてくれた籐也君が、弱くても、悩んでいたとしても、好きだったのかもしれない。


 籐也君は、あのオフの日以来、本当に忙しくなった。秋には大学祭にもいくつか呼ばれているし、ライブもある。それも、東京だけではなく、大阪や福岡でのライブまで予定が入っている。


 テレビ出演や、ラジオ出演もある。雑誌のインタビュー、カレンダー作成、そのうえ、新しいCDの制作まであって、今年いっぱい、スケジュールはぎっちりと詰まっている。

 クリスマスもライブだから、二人では過ごせない。


 だけど、ライブには行ける。だから、籐也君には会える。二人ではないけれど、ちゃんとプレゼントも渡せる。

 少しだけ、寂しいと思うこともある。でも、籐也君はメールも電話もくれるし、だから、これ以上を望んだりしたら、贅沢っていうものだと思う。


 ただ…。ただね、ずっと会えないでいる日が続いて、テレビやラジオ、雑誌の中の籐也君を見ているだけの日々になると、本当に私の彼氏なのかって、疑いだしちゃうんだよね。


「昨日、見た?ウィステリア。かっこよかったね」

 専門学校のカフェテリアで、そんな声が聞こえると、異常に私は反応してしまう。

 耳がダンボになり、目ざとくその話をしている人を見つける。そして、その人の方がずっと私より可愛く見えてきて心配になってくる。


「ライブのチケット、取れたんでしょ?」

「取れたよ。籐也にプレゼント持っていこうと思って」

「何あげるの?」

 籐也君のフアンなんだ。


「何がいいと思う?アクセサリーか、洋服か」

 え?そんな高価なものをあげるの?私、あげたことないよ。

「ヨウコをあげたら~~?リボンまいて」

 え、え~~~?!!!


「あげたいけど!籐也って、クールなんでしょ?あんまりメンバーの中でも、フアンの子としゃべらないって聞いたよ」

「そうそう。クールなんだよね。そこがいいんじゃない?」

「そうなんだよねえ。どうやったら、仲良くなれるかなあ。やっぱり、ライブ通いつめるしかないかなあ」


 うわ~。そんな話を聞いちゃうと、もっと自信がなくなってくる。私って、本当に籐也君の彼女?

「花ちゃん」

 カフェテリアで、ぼけっとその人たちの話に耳を傾けている間に、隣に仲のいい季実子ちゃんが座ってきていた。


「季実子ちゃん。今日、これからバイト?」

「ううん。花ちゃんは?」

「私はバイト入っているけど」

「じゃ、ここでコーヒー飲まないで、花ちゃんのバイト先まで行こうっと」


 季実子ちゃんは、私のバイトのお店のある駅からバスで10分のところに住んでいる。だから、ちょくちょくお店に顔も出してくれる。それに、季実子ちゃんは、ウィステリアのメンバーのファンだ。だから、ライブにも一緒に行く。


「今度のライブ、うちの学校の生徒も行くみたいだね」 

 カフェテリアで聞いた話を、私は季実子ちゃんにしてみた。

「ウィステリア、人気あるもん。私のいとこも好きになって、クリスマスのライブのチケットは取るって息巻いてたよ」

「その人、いくつ?」


「高校1年」

「誰のフアン?」

「籐也君」

 うわ。籐也君の?


「その子、可愛い?」

「もう~~。花ちゃんはさあ、その籐也君の彼女なんだよ?もっと、堂々としていたらいいのに」

「そ、そうなんだけど」

「まあ、鼻にかけたり、天狗にならないところが花ちゃんのいいところなんだけどね」


 季実子ちゃんには、一緒にライブに行って私が籐也君の彼女だっていうことがばれてしまった。季実子ちゃんはすごく驚いていた。籐也君の彼女はもっと派手な感じの女性かと思っていたらしい。


 ウィステリアのメンバーは、謎に包まれているところがあるらしい。名前くらいしか公表していなくて、出身地、出身校も隠したままになっている。でも、藤沢でライブ活動をしていたんだから、藤沢あたりに住んでいたことは、フアンの間ではバレバレだ。


 ただ、今はメンバーみんな、東京に住んでいる。マンションは事務所の持ち物で、まあ、言い方を変えたら、事務所の寮みたいなものだ。

 かなりそこは、事務所の人の監視が厳しいらしく、女性は母親しか入れないらしい。だから、もっぱら私が籐也君に会うとなると、スタジオか、バイト先か、たま~~に、籐也君の実家か…。


 籐也君の家は、江ノ島にある。れいんどろっぷすの近くだ。だから、れいんどろっぷすに二人で行きたいような気もするが、家の外にオチオチ二人で出てぶらついていたら、誰に見られるかわからないからと、一緒にれいんどろっぷすに行くこともできない。


 家に行くのも、お母さんと合流して、まるでお母さんの知り合いなのよ、みたいなカモフラージュをして遊びに行っている。お母さんは、幼稚園の預かり保育の仕事で夕方から仕事に行っているが、昼間は家でピアノを教えたりしているので、私もその教え子のフリをして行っているのだ。


 籐也君は、どんどん有名になっていっている。フアンも増え、東京のマンションはフアンの子達にもバレてしまい、マンションの周りにたまに、フアンの子が待ち伏せをしていることもあるらしい。


 どんどん、手の届かない存在になったりしないだろうか。

 もっと素敵な女性が籐也君のそばに来て、私なんて飽きられたりしないだろうか。

 不安要素はたくさんあって、たまに私は暗くなっている。


 そして、あえない日が続くと、さらにその不安要素は私の中で大きくなり、自分は籐也君の彼女なんかじゃないかもしれないなんて、そんな妄想まで出てくるほどだ。


「花ちゃんさあ、籐也君とどうやって付き合うようになったの?」

 季実子ちゃんは、この質問を何回してきたかな。

「わかんないよ。自分でも…」

「なんで、わかんないの?」


「だって…」

 わかんないんだもん。久しぶりに会って、練習見に行って、メール来て、映画とか江ノ島水族館に行くようにもなって、いつの間にか私は籐也君の彼女になっていたようだから。


 籐也君は、ずっと好きだったって言ってくれている。中学の時からだ。でも、あの時だって、私はただ遠くで見ていたフアンの一人だったのにな。


 季実子ちゃんとバイト先についた。季実子ちゃんはカウンター席につき、私はお店の奥へと入ってエプロンをつけた。

「いらっしゃいませ!」

 カフェの店員の一人が、そう声を一オクターブ高くして言った。あ、こういう声の時は、ウィステリアのメンバーが来た時だ。


 私は慌てて、ホールに出た。ああ!籐也君だ~~。嬉しい!

 籐也君は一人で来ていて、カウンター席についた。季実子ちゃんの隣の隣の席だ。季実子ちゃんも気がつき、籐也君に挨拶をしている。


「籐也君、今日一人?」

「あ、うん。一人でごめん」

「え?そ、そう言う意味じゃないけど」

 そんな会話が聞こえてきた。


「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」

 私がトレイを持ってオーダーを聞きに行こうとしたが、その前にほかの店員が行ってしまった。

「あ、コーヒー」

「ブレンドでよろしいですか?」

「はい」


 籐也君は、帽子を深くかぶったままそう答えた。

「ブレンド、ワンです」

 その店員は、にこやかにそう言いながら、戻ってきた。

 あ~あ、せっかく来てくれたのに、オーダー聞きに行けなかった。きっと、ブレンドも、この店員が持って行っちゃうんだ。


 この人とはあまり仲良くない。3つ上だけど、上から目線でいつも見られているし、ウィステリアのフアンでもないくせに、メンバーが来ると我先にとオーダーを聞きに行ってしまうのだ。


「小野さん、レジお願い」

 店長がそう言って、その人をレジに行かせてしまった。やった~。レジには2組もお客さんが並んでいるから、ブレンドは私が持っていくことになるかも。


「はい、アイスティとブレンド。花ちゃん、カウンター席のお友達に持って行って」

「はい」

 店長に言われ、私はトレイに乗せてカウンター席に行った。アイスティは季実子ちゃんに、ブレンドは籐也君の前に置いた。店長は季実子ちゃんが私の友達だということを知っている。


「今日も終わるの8時?」

 籐也君がそっと聞いてきた。

「うん」

「…練習もそのくらいに終わるから、スタジオくる?」

「いいの?」


「いいよ」

 籐也君は小声でそう言ってくれた。嬉しい!

「飯も食ってく?」

「うん」


 スタジオでは、時々出前やピザを取る。私もちゃっかりと一緒に食べて帰ることもあったりする。

「いいな~~、私も行きたかった」

「来る?別にいいけど?」

 籐也君が季実子ちゃんにそう言った。季実子ちゃんは、

「いいの?じゃ、一回家に帰ってからまた出てくるよ」

と喜んだ。


 季実子ちゃんは、メンバーの藤堂潤一君のフアンだ。でも、潤一君は、友達なんだか、恋人なんだか、いまいちはっきりしない女の子がいて、その辺は、籐也君もよくわからないって言っている。


 籐也君は、ブレンドを飲むとレジに行き、また小野さんが我先にとレジに行ってしまい、私が会計をすることはできなかった。でも、

「じゃあな、花。あとで」

と私に向かって手を振ってから、籐也君はお店を出て行った。


「…ねえ、鈴木さん」

 小野さんが話しかけてきた。

「はい?」

「前から聞こうと思っていたの。籐也君って、あなたとお友達?」

「はい」


「…同じ高校だったとか?」

「いえ。学校は違うけど、中学からの知り合いで」

 もごもごと私はそう言った。

「なんだ。単なる知り合い」

 小野さんはそう言って、ちょっと鼻で笑った。


「小野さん、もう時間過ぎてるから、上がっていいですよ」

 店長がそう言うと、小野さんはあっという間に帰り支度をしてお店を出て行った。

「あの人、困るよね。この近くのスタジオって、割と有名人が使ってるじゃん。そう言う人がこの店に来ると、妙に張り切っちゃって、他の店員も手を焼いてるんだよね」


 店長がそう言った。小野さんは確か、春からこのお店にいるんだっけ。

「誰か特定のバンドのフアンではないみたいだけどね。で、花ちゃんは、ウィステリアの籐也の彼女なわけ?」

 店長が小声でそう聞いてきた。


「え?!」

「いいよ、隠さないでも。籐也見てりゃわかるって」

 店長は笑って、それからコーヒー豆を挽きに奥へと行ってしまった。

 い、いつばれたのかな。見ていたらわかるって、どういうところでわかったのかな。


 店長は、30代前半の独身男性。スタジオが出来た当時からこのカフェで店長をしているらしく、スタジオを使うバンドの人達とは、けっこう親しいようだ。籐也君も、店長には慕っているようで、たまに話をしたりしているし。


 でも、誰が誰と付き合っているとか、そういうのを知っても口外はしないでいてくれると、メンバーの晃さんが前に言ってたな。晃さんもたまに彼女とこの店に来るけど、それも見て見ぬふりをしていてくれるらしいし。


 8時。仕事が終わる頃、お店にまた季実子ちゃんが来た。季実子ちゃんは、しっかりとオシャレをしてきている。

「行こう、花ちゃん」

「うん。あ、店長、お先に失礼します」

「はい、お疲れ様」


 店長に挨拶をして、私は季実子ちゃんと、そこから2~3分もあれば着くスタジオに着いた。そしてスタジオに入っていくと、入口に潤一君がいた。

「いらっしゃい」

「潤一君、どうしたの?ここで」


「うん。電話してた。あ、どうぞ、もう練習終わったから、ピザとったんだ。食べていくでしょ?」

「うん」

 ビルの地下へと入っていった。そのスタジオの奥へと入ると、メンバーが椅子に座り休んでいた。


「あ、花ちゃん、季実ちゃん」

 ほかのメンバーが私たちを明るく出迎えてくれた。

「籐也君は?」

「ちょっと、出てるけど、すぐに戻るよ」

 出てる?なんでかな。


「やれやれ。電話でやっとつかまった」

 潤一君はそう言いながら、部屋に入ってきた。

「なんて言ってた?美枝ちゃん」

「うん。美枝ちゃんも知らなかったみたいだよ」


 ああ、美枝ちゃんっていうのが、潤一君の彼女なんだかどうなんだかわからない人。

「籐也、ちゃんときっぱり断ったかなあ」

「え?な、何ですか?」

 私は晃さんの言うことが気になり、聞いてみた。晃さんはほかのメンバーより2個上だ。だから、つい私はいつも、さん付けになって敬語になってしまう。


「籐也にね、最近つきまとってるフアンがいて、さっきも突然来ちゃったんだ。でも、美枝ちゃんからこのスタジオのことを聞いて、今日練習あることも教えてもらったって」

「美枝ちゃんって人の友達?」

「いや。友達っていうか、同じ花屋でバイトしている子らしいけど」


 潤一君がそう言った。

「み、美枝ちゃんって…?」

 季実子ちゃんが、潤一君に聞いた。うわ。季実子ちゃん、勇気ある。聞いちゃったよ。

「ああ、俺のいとこの彼女の友達」

 遠いっ!なんだか、遠い関係性?


「え?潤一君の彼女なんじゃ」

「ええ?!違うよ。美枝ちゃんは彼氏いるもん。一回別れたらしいけど、復活したらしい。年下の彼氏なんだってさ」

「彼女じゃないの?」

 季実子ちゃんの目が輝いた。


「え、うん。違うよ」

「じゃ、じゃあ」

「潤一はフリーだよ、季実ちゃん」

 晃さんが笑いながらそう教えてくれた。季実子ちゃんが真っ赤になった。


「………でも、俺」

 潤一君がなぜか、ゴニョゴニョと言葉を濁している。

「フアンは手を出さない?いいんじゃないの?季実ちゃんは、フアンっていうより、籐也の彼女の友達だから」

 晃さんはそう言うと、また笑った。


「え?」

 季実子ちゃんの顔が、引きつった。それからさらに、赤くなった。

「……いいのかな。そういうのって、マネージャーに知られたら」

「いいんじゃないの?晃も籐也も彼女いるの、マネージャーは黙認してるんだし。俺らだって彼女作ってもさ」


 そう言いながら、片手にペットボトルの水を持って、晴樹君が入ってきた。

「でも俺に彼女出来たら、晴樹だけじゃん、彼女いないの」

「そうだよ。ねえ、季実ちゃん、こんなやつじゃなくって、俺と付き合わない?こいつ、煮え切らないやつだから、きっと嫌になると思うよ?」


 晴樹君がそう言うと、季実子ちゃんは、ちょっと顔を引きつらせながら笑った。

「晴、やめろって。季美ちゃんはずっと潤一、一筋なんだからさ」

 晃さんがそう言った。すると、季実ちゃんは、慌てふためき、

「そ、そ、そういうわけでは」

と、必死に言い訳をしようとした。


「潤一もそろそろ、きっぱりと忘れてみたら?」

「もう、忘れてるっていうか、引きずってないって」

 ?なんのこと?

「美枝ちゃんからは、しっかりとふられてるんだろ?」


「ああ、そうだよ。それ、もう蒸し返すなよ」

 そうだったんだ。ふられちゃったんだ。うわ~~。

「顔がさ、タイプじゃないってさ。ひどいよな。顔やら、雰囲気が、従兄弟の司に似てるんだって。で、司のことが苦手だったから、俺もダメなんだってさ」


「あはは。そんな理由だったんだ」

「笑うなよ、晴樹!確かに顔は似てるけど、性格はまったく違うんだから。そんな理由で断られたりしたくなかったよ、俺はね」

 潤一君はそう言うと、頬を膨らませた。


「どんなやつなの?その司って」

 晃さんが聞いた。

「あいつの親、武道家で、司も弓道とか高校にしててさ、ポーカーフェイスで何考えてるかわからないような日本男児なやつ」

と、潤一君は答えた。


「ええ?お前とは全然違うじゃん、お前、軟弱だし」

「なんだよ、その軟弱ってのは。確かに俺も、司のオヤジに合気道習ってたけど、あんまり厳しいんですぐにやめたけどさ。その後もあのオヤジが苦手で、すぐ近くに住んでいるのに、司にもあいつの家族にも近寄らないようにしてたけどさ」

「軟弱~~~!こんなやつだけど、いいの~~?季実ちゃん」


 晴樹君がそう言うと、季実子ちゃんは黙って下を向いてしまった。

「……。それに、俺と付き合っても、デートとかあんまりできないよ。忙しいし、二人でもそうそう会えないだろうし」

「う、うん」

 季実子ちゃんは、潤一君の言う言葉に暗い顔をした。


「それでもいいなら、いいって言うなら」

 潤一君が、何やらまたモゴモゴと言っている。

 おや。もしかして、進展しちゃうのかな。なんて、人のことを気にしている場合じゃなかった。


 そうだよ。籐也君だよ。フアンだって言う子とどっかに行ってしまって、まだ帰ってこないんだよね。

 いったい、どこまで行っちゃったのかな。ああ、いきなり不安になってきた!

 


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