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プロローグ1

空は曇っていた。周辺には崩れた家屋が炎に包まれ黒煙が空に昇っていく。



「一雨来ますね」



その空を眺めながら黒い少女は一言呟いた。

黒い長髪のポニーテール。怜悧な印象を与える吊り上がった目と黒い瞳。黒いアーミーコートに黒いスカート。黒いグローブに黒いポーチをぶら下げる黒いベルトと黒い革製のブーツ。

全身を黒一色に染めた少女は視線を空から遥か彼方の地平線へと移す。



「増援ですか」



遠くから響く地鳴りのような音と微かに見える土埃を見て少女は手のグローブを嵌め直す。



「ま……数十分ぐらいなら一人でもなんとかなるでしょう」



少女が一歩踏み出す。その度にぐちゃり、っと不快な音が響く。

足元にあったのは肉塊だった。人間の……。

鎧を着込んだ者。丈夫な灰色のコートやズボンなどを着た者。原形を殆ど留めていない死体。黒焦げになって転がる死体。周囲を埋め尽くす剣や槍という凶器――――。



「〜〜♪ 〜〜♪」



そこは地獄という名の戦場だった。そして少女は敵味方入り乱れる戦場で一人闘い抜き生き残った勝利者だった。

ただし、その場限りの。



「〜〜♪ 〜〜♪」



遠くには軍馬に跨がった白い鎧を纏った騎士が何十人と押し寄せてくる。

少女は向かって来る者達を敵と認識していた。たった一人で数十人の敵と相対する。絶望的な状況に、しかし少女はまったく恐怖を抱いていなかった。



「♪〜〜 ♪〜〜」



口笛を吹きながら向かって来る軍勢目指して少女は歩く。

その周りでパチンッ、っと青い光が一瞬煌めいた。





・――・――・――・――





「ライディール! ライディール! 来てくれ!」



荒野に張られた幾つもの天幕の間を一人の男が叫びながら駆け抜けていく。



「どうしました!?」



名を呼ぶ声に反応して一人の青年が天幕の中から飛び出してくる。

まだ青年と少年の間ぐらいのあどけない顔。鮮やかな金髪と赤い瞳。



「アグリスの街を攻めていた部隊が街の守備隊と交戦し、相打ちになって全滅した」



「ッ……」



「ただ、向かった援軍からの報告だと守備隊の生き残りが猛戦してるらしく、苦戦を強いられてる。そいつさえ突破できればオーリア要塞は目と鼻の先だ。

連戦で疲れているかもしれんが、時間も掛けられない……頼む」



「分かりました……!」



男の言葉にライディールが頷くと自分の装備を着けるために天幕へと戻っていった。





・――・――・――・――





「う……あぁ……」



「ば……化け物め……!」



何十人の騎士が剣や槍を携えたった一人の少女を包囲し、しかし少しずつ後退りを始めていた。



「ここまで来ておいて逃げる気ですか?」



騎士達を見回して少女が呆れたように呟いて、片手に握っていた“物“を放り捨てた。真っ黒に焼け焦げ、白煙を吹き出すそれは人間だった。その周りにも同じく焼け焦げ、四肢を欠いた人間が数十人と倒れていた。



「逃げるなら好きにしていいですよ。戦意を無くした雑魚に興味ありませんから」



そう言って少女はアーミーコートのポケットに片手を突っ込む。その姿は明らかにやる気を感じさせず、騎士達の神経を逆撫でした。



「ッ……! 餓鬼が! 舐めるな!!」



「待て!」



激昂した騎士が数人。仲間の静止を振り切り、包囲を抜け出して少女に向かっていく。



突撃してくる騎士達を見て少女は口端を吊り上げるとポケットに入れていた手を抜くと、頭上に掲げ――――。



「やる気があるなら結構です。死んだら自分の貧弱さを呪ってください!!」



明滅する光と共に、向かってくる騎士達に向けて掲げた手を薙ぎ払った。





・――・――・――・――





「あれは……!?」



馬に乗って戦域にたどり着いたライディールが見たのは地上を走る青い光――――雷光と、それを包囲しようとして逆に弾き飛ばされる騎士隊だった。



「くっ……!」



騎士隊に隠れて敵は見えないが、例えどんな敵でも味方がやられているなら黙っているわけにはいかない。

馬から降り、銀色の胴当てや篭手、脚甲の具合を確かめて、ライディールは腰に吊っていた鞘から白銀に煌めく両刃の長剣を引き抜いた。





・――・――・――・――





「ぎいいいいいいっ……!」



身体を灼く電撃に、男が悲鳴を上げるが、それもすぐに止まり、両手で男の首を締め上げていた少女は続けて向かってきた騎士に黒く焼けた男を放り投げ――――。



「おっ――――ぐごっ!?」



飛んできた身体を騎士が受け止めた瞬間、間合いを詰めた少女の突き出した拳――――そこから発した雷光が甲冑ごと騎士の身体を貫き吹き飛ばした。



「ふっ……!」



更に少女は踊るように反転し、雷光を纏った腕を振る。集束された雷は少女の腕を離れ、槍を持って突撃しようとした騎士の腹を撃ち抜いた。



「ひっ……」



飛来した電撃に灼かれ吹き飛んでいく仲間を見て、その隣にいた騎士が悲鳴を漏らす。そうしている間にも少女は体中から雷光を発し一気に敵との間合いを詰め――――。



「…………!」



ようとしてバックステップ。少女の目の前を、上空から薙ぎ払われた“何か“が地面に横一文字の傷跡を残す。



「魔法……」



一言呟いた少女の前に空から降りてきた人影が着地した。



「そこまでだ……!」



人影――――ライディールが立ち上がり、剣の切っ先を少女に向ける。



「魔法に聖剣……聖騎士ですか……。こんな辺境まで来られて……ご苦労様ですね」



少女が銀色の剣……そこに刻まれた象形文字を見て呆れたように溜め息をつく。



「そうだ……アルスナット王国聖騎士団、ライディール・アスベルト。そういう君は……魔剣使いか?」



「それが何か?」



「何故君みたいな女の子が……魔剣がどういうものか――――」



「知ってます。生憎……それは余計なお世話というやつです。それより……」



ライディールの言葉を苛立ち気味に遮って少女が構える。



「そんなくだらないお喋りをしにきたわけではないでしょう?」



「やるしか……ないのか?」



「くどい……っと言っておきます……。

あぁ……そういえば名乗ってませんでしたね」



ライディールが突き付けていた剣を下段に構え直す。



「シルメリア帝国第六特務戦部隊所属……レオーネ・グランカイトと申します。短い間かもしれませんが……よろしくお願いします!!」



そう言って少女――――レオーネは雷光を纏い、弾丸のように飛び出した。




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