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華蘭の咲く処  作者: 夜見風 そなた
第一章 天翔る使者
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1-(2) 山賊の襲撃



 西青川の市場を出発してから丸三日が経った。

 途中で雨に見舞われるという事故はあったが、それ以外は順調に旅は続いていた。

(山賊にでも襲われるかと思っていたけど……出たっていう噂も聞かないしなあ)

 通り掛かった住宅地の食堂で早めの夕食を摂りながら、天真は夕焼けを眺めていた。

「いらっしゃい」

 若い大工二人組が奥の席に座ると、女性店員は彼らの元に冷たい水を持ってくる。

「お仕事お疲れ様です。今日は早いですね?」

 常連客なのだろう、店員は気さくに話し掛ける。

「ああ、今日は上がりが早かったんだ。柳天に向かう峠道で山賊が出たらしくてさぁ」

 "山賊"という言葉に、天真は思わず聞き耳を立てる。

「すでに、柳天の郊外では被害が出てるらしいぜ。奴らがそのまま峠を越えてくれば、俺らの職場も襲われかねないからな。早く上がりになったって訳だ」

「やだ、こっちにも来るかしら」

 盆を胸にかかえ、店員が心配そうにつぶやくと、もう一人の大工が「大丈夫だろう、」と答える。

「ここまで下りてきたら、治安官に捕まってしまうからな。山賊も、その辺はちゃんと心得ているさ。――まあ、それでも、今日は早く上がらせてもらうべきだな」

「そうですね、頼んでみます」

 二人の注文を聞くと、店員は小走りで厨房に消えた。

 しばらくの間、二人の大工は山賊の話をしていたが、

「――おい、そこの槍使いさんよ、」

 不意に、窓際の席にいる天真に声をかけてきた。

「あんた、その格好から察するところ、旅をしているんだろう。どこへ向かうつもりだ?」

 先程とは打って変わって真剣な顔を向けてくる大工達に、天真は体を向けた。

「最終的な目的地は天弓京ですが……とりあえず柳天に向かうつもりです」

「やめておけ、やめておけ、」

 すかさず大工は言った。

「ここらで宿を探しな。それか、違う道を行くべきだ。旅人がそれなりの金と食料を持っていること、山賊は知っているのさ」

 山賊も必死だからな、ともう一人の大工も頷く。

「山賊が襲撃してくるのは仕方のないことだ。諦めろ」

 彼らにさとされ、天真は小さく息を吐く。

「そうですね……別の行き方を考えます」

 残っていた水を飲み干すと、店員に勘定をし、大工達に礼を言いながら食堂を出る。

 紫がかった西の空をちらっと見ながら、天真は歩きだした。


 * * *


「暗くなってきたな……」

 先を急ぐ旅ではないが、天弓京に早く着いたほうがいいに越したことはない。結局、天真は大工の忠告を無視することにした。今はすでに、峠道の中腹に差し掛かっている。

「真っ暗になる前には、山小屋に着きたいんだけどなぁ……」

 峠を避けなかったからといって、山賊を全く恐れていない訳ではない。彼らの強奪は己の命に関わっていると言っても過言ではないため、文字通り物凄い勢いで襲って来る。さすがの天真も、山賊との遭遇は避けたいのだ。

 天真は感覚を研ぎ澄まし、薄暗い道をひたすら歩く。

 遥か後ろで狼の遠吠えが、右の方から虫の声が、四方八方から風が草木を撫でていく音が聞こえる。人間が枯れ草を踏む音は、天真のもの以外は無い。

 ――はずだったのだが。


 一瞬、風の音の間に小さな空白が生じた。天真は"魔槍"の柄を斜め後方に突き出す。

 "魔槍"を握る手に伝わる感触と、三歩後ろから聞こえたうめき声。天真は「やはり……」と息を吐いた。

「良い大人六人が旅人を襲うとは……非常識というか、汚くはありませんか?」

 周囲から、息を呑む気配がした。姿を現してもいないのに、人数を知られていることに驚いた、というところだろう。

「あなた方のお目当ては、おそらく金か食糧でしょう。ですが、残念ながら、あげられるほど大層なものはありません」

 天真はわざとらしく肩を竦めると、再び歩き出そうとした。

「おい、待ちやがれ」

 真後ろから、低い声が天真を呼び止める。

「俺達も、手ぶらで帰る訳にはいかねぇんだ。持っているものを大人しく差し出せ。そうすれば、何もしないで逃がしてやる」

 決まり文句で天真を脅す山賊。もちろん、それで動じる天真ではない。

「そう言われて、二つ返事で金を渡すとでも? 僕には、何としても行きたい場所があるんです」

「それなら……力ずくでも奪ってやる」

 いつの間にか、草木の影に隠れていた山賊達が天真を取り囲んでいた。短剣や棍棒など、それぞれ思い思いの武器を手にして睨んでいる。

「そうですか……しょうがないですね」

 荷物を足元に下ろすと、天真は"魔槍"の先の革布を取り、刃を前方の山賊に向ける。

「槍を振るときが、こんなに早く来るとは思いませんでした。言っておきますが、僕は強いですよ? あなた方に敵う相手では無いと思いますが」

「生意気なっ」

 山賊は顔を赤くし、矛先を前に向けたままの天真に向かって短剣を振り上げる。

 右腕を振り下ろそうと山賊が足を踏み込んだその次の瞬間。

「ぐっ」

 低く濁ったうめき声と共に、山賊は脇腹を押さえながらその場に倒れた。

 仲間の名を叫ぶ山賊を横目に、天真は"魔槍"を両手に握り直し、山賊達の頭らしき大男を睨んだ。

「ひるむな、()れ!」

 頭のその一声をきっかけに、残りの山賊達は雄叫びを上げる。そして、ほぼ一斉に天真に襲いかかってきた。

 天真は、斜め後ろから振り下ろされてきた棍棒を柄で跳ね上げ、山賊の腹を強く蹴り飛ばす。その振り向きざまに、隣にいた山賊の腹に柄の先を押し込み、短剣を避けながら別の山賊の背中に柄を打ち込む。それでも懲りずに立ち上がろうとする山賊を、天真はすかさず柄で押さえる。

 そんなことをしているうちに、あっという間に山賊の頭以外の五人が起き上がらなくなった。

 天真は"魔槍"を頭の大男の喉元に向けた。

「毎日のように強奪を働いている割には、弱いんじゃないですか?」

「何を……っ」

 男は、右手に持っていた長剣を両手に持ち直した。

「俺達は、この辺りでは特に名の知られた山賊だ。そんじょそこらの盗賊とは違う。さっきは、偶然、お前の攻撃が上手く命中しただけだ」

 しかし、彼には分かっていた。山賊達と対峙していた時、天真には常に余裕があったことを。

 山賊達は刃や鈍器を向けて襲って来たが、天真は敢えて刃を向けず、木でできた柄を使って五人の大男を戦闘不能にした。「山賊が命を落とさないように」という配慮だったのだ。

「でも……俺は違う」

 山賊は剣先を天真に向けた。

「俺に歯向かったこと、後悔させてやるっ」

 男は勢いよく長剣を振り上げ、一歩踏み出して腕を振り下ろす。

 全体重をかけた渾身の一撃。しかし、山賊に手応えは何も無く、長剣は暗闇を斬っていた。

「消えた!?」

 呟いた時にはもう手遅れだった。彼の相手は、その頭上に跳び上がっていた。

 天真は男の右肩に踵落としを食らわせ、そのまま背後に着地する。男がふらつきながら振り向いたと同時に、鳩尾に"魔槍"の柄を突き立てる。

 くぐもった低いうめき声を上げ、ついに山賊の頭もその場に崩れ落ちた。

 天真は小さく息を吐き、"魔槍"の刃に革袋を被せる。無事、強奪されずに済んだ荷物を背負うと、彼は倒れている山賊達を見た。

(六人とも気絶しているだけだから、あと十分くらいで気が付くだろうな)

 早くこの場を離れようと、天真は早足で道を進み出した。



実は、今回の話は、さほど物語に影響するわけでは無いです(^^;


というのも、前回の西青川での話から柳天での話(次回執筆予定)に行くのが早過ぎたため、自分の中でも調子を整えるために今回の話を書いたんです…


ご理解お願いしますm(__)m


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