第4話 馬車に同乗させるのは
「ジョー、今日は学園までまっすぐに行って。途中誰も乗せないで……いえ、これから卒業までずっとよ」
「っ!? わっかりました! お嬢様!」
学園へ向かう我が家の馬車に乗り込むとき、御者のジョーに声をかける。ジョーは弾んだ声を出し一緒に乗って学園まで送ってくれるルシーもぱあっと顔を輝かせた。
「お嬢様! もうあの無礼な令嬢とは関わらないことに決めたのですね!」
「ええ、目が覚めた気分よ。どうしてあんなことを許していたのかしら? 不思議よね」
「その通りです!」
学園へ向かう道のりは結構距離があり、私は何故か途中でダリアを拾って乗せていた。しかも遠回りまでして。今冷静に考えれば意味が分からないわ。そしてダリアは朝食まで食べてきていないダリアのためにルシーが持っている軽食のクッキーやら何やらを食べさせてやっていた……本当に意味が分からないわ。
遠回りをやめると、早めに学園へ着く。図書館へでもよってマナーの教本を見直した方が良さそうだ。ダリアに合わせたマナーでは上位貴族の中でやっていけないから。
「あら? ウィンフィールド公爵令嬢。今日はあの取り巻きはいないのかしら?」
「おはようございます、レンブラント侯爵令嬢。取り巻き? 私には取り巻きなどおりませんわ。ただ少し……ね?」
にこりと微笑むとレンブラント侯爵令嬢は驚いて目を見開いてから、きれいに笑った。そう、高位貴族の令嬢たるもの笑顔も完璧でなければいけない。レンブラント侯爵令嬢はやはり素晴らしい令嬢の品格がある。彼女から吸収できることは多そうだ……仲良くしていきたい。
「やっと目を覚ましていただけたのですね、ウィンフィールド公爵令嬢……」
「ええ、おかげさまで。あの、レンブラント侯爵令嬢? これからは、その……私の事はアネモネと」
「まあ! 嬉しいですわ。私の事はリリーベルとお呼びくださいな、アネモネ様」
「ありがとうございます、リリーベル様。そうそう、私ったら少しマナーの勉強をおろそかにしていましたでしょう? 何か良い本等ご存じでしたら……」
「そういうことでしたら、図書館へご一緒しても宜しいかしら?」
「嬉しいわ」
私とリリーベル様が連れ立って歩いていると、たくさんの高位貴族の令嬢達が声をかけてくれた。今まで私は低位貴族と仲良くする変わり者扱いだった……これからはそんな汚名はすべて捨てさせてもらうわ。我が家を乗っ取らせない、協力者を増やしていくのよ。
図書館から数冊本を借り、授業前の教室に戻ると、ダリアが頬を膨らませて走って来て私に詰め寄ってきた。以前はこんな様子も可愛らしいと思っていたけれど、これが淑女のやることかしら? 呆れてしまうわ。
「アネモネッどうして今日は迎えに来てくれなかったのよ! お陰で遅刻ギリギリだったわ!」
私はあなたのお迎え係じゃないわ。迎えに行く必要なんてないもの。今までお友達だから、ついでに乗せてあげていただけだけど、そんなことをする貴族はほとんどいないわよ。答える必要もないくらい当然の話だわ。私が答えないとダリアは責める言葉を吐き連ねる。
「なんでよ!」
「どうして私がマリクス子爵令嬢を迎えに行かなければならないのかしら? 理解に苦しむわ」
「だって友達でしょう?」
「友達は馬車で迎えに行くものかしら? そんなことないわよね」
私は静かに対応していたけれど、ダリアの大きな声は教室中に響き渡っている。私達の話の内容を聞いたクラスメイトはくすくす笑ったり小さく頷いたり……友達だから迎えに行く? 意味が分からない。もっと親しい兄弟や、一緒にいるべき婚約者なら別だけれど、なんて囁いている……私達に聞こえるように。
「うっううっ! 明日は来なさいよねっ」
「行かないわ。もう永遠にずっと。マリクス子爵も遅刻がお嫌なら馬車で通えばよいのでは? それかもう少し家を早く出ることをお勧めします」
「うーっ!」
マリクス子爵家は裕福じゃない。馬車を常時おいておけないほど落ちぶれかけている家だと分かっていても私はそう突き放した。人は平等じゃない……お金はある所にはあり、ない所にはないのだ。それは学生では覆せない仕方がないことなんだから。




