第22話 ここの馬の骨でした……
殿下が私に感謝の意を伝えに来てくれたことは分かった。それでもお父様の眉間の皺は一向に改善されない。他に何か気がかりなことがあるのだろうか?
「アネモネ嬢」
「は、はい」
私はお嬢様と呼ばれるのに相応しいかどうかわからないけど、名前を呼ばれたので返事はした。お父様の眉間の皺はどんどん深くなる。
「「もう2度と会わない。その方がお互いに助かるでしょ」」
「!?」
どうしてラナン殿下は私があのどこの誰とも知らない騎士風の人と一夜を過ごし、分かれる際にいった言葉を口にしたのかしら!?
きっと私は物凄く驚いた顔をしたんだと思う。それをみて、殿下は悪戯が成功した子供のような笑顔で笑った。
「ふふ、あの時私は部下と二人で息抜きで下町へ繰り出していたんだ。そうしたらどう見ても訳ありな令嬢が近づいてとんでもない提案をしてきたんだ……流石の私も凄く驚いたよ。あんな提案をしたんだ、遊び慣れているのかと了承してみればなんと初めてだったじゃないか……驚きで、ついどこの誰か調べてしまったよ。」
「え、ええええ……」
「そしたらそのご令嬢はしつこい酷い婚約者と別れる為に極端な手段に出たんだと判明したんだ。驚いたよ、良家の令嬢がそんな大胆な手段に出るなんてね。」
「そ、それは……」
普通のご令嬢ならそんな手段考えつくはずもない。でも私には前の人生の記憶がある。23歳までしか生きられなかったけれど、頼れるお父様を亡くし、放蕩三昧のナルクを抱え、借金で首も回らず……そんな散々な人生を歩まされたのだから、回避する為ならなんだってできた。
「本当はすぐに正体を明かすつもりだった。でもアネモネ嬢の婚約破棄が済んでからの方が良いかと思い待っていたら、トッドリア侯爵が強硬手段に出てね」
「あの噂は本当でしたか」
「ああ」
王太子殿下には三名の婚約者候補がいた。一人はアイビー・トッドリア侯爵令嬢だったのだが、他の二人が揃って候補の座を降りたのだ。勿論、社交界はざわついたがトッドリア侯爵家を牽制する立場であった我が家の名声が地に落ち……誰もトッドリア侯爵に口出しできなくなった。その隙に他の二つの家に圧力をかけたんだろう。
「あっという間に私の婚約者はアイビー嬢となり……やはりトッドリア家に押されあっという間に結婚してしまった」
「それは……」
王家とはいえ力ある家の意向を無視はできないものだ。
「そうしてこのザマだ。まさか子供を焦ったアイビーがおかしな薬を使うなんて思ってもみなかった」
自嘲気味に笑うラナン殿下になんと言葉をかければ良いか見当もつかなかった。




