第20話 どうしても断れない来客
「アネモネ。来客がある……その、どうしても断れない方なのだ」
「どういうことですか?」
体を壊す男性用性欲増大薬が大々的に取り締まられて数か月後、お父様にそんな事をいわれて着飾らされてしまった。
伝え聞いた話によると、ナルクとダリアは大げんかになったようだ。そんな薬を使ってまでたくさんの女性と関係を持ち続け、女性達にお金を使っていたナルク。それを知ったダリアはナルクを思いっきり殴ったらしいけれど、まあ知ったことではない。
「あなたがアネモネの婚約者だったから誘ったのに! この役立たず!」
「黙れ、たかが子爵の娘が侯爵の息子である私と結婚できたんだからありがたいと思え」
「何よっ 借金持ちの次男が偉そうなこといわないで!」
「くそっお前が上手くやってアネモネに取り入っていればこんなことにはならなかったのに! 今頃公爵家の婿として輝かしい人生を送っていたはずなのに」
「お黙りなさいよ! 結局あんたが女性にだらしないからでしょうっ」
お似合いの夫婦じゃないかしら? 可哀想なのは子供で、そんな二人のやり取りを隅で小さくなりながら聞いていたそうだけど、どうかしてやろうという気は起きない。ダリアとナルクの子供はあの二人の血を良く引いていて、前の人生では私のことを見下してニヤニヤしていたあの目を私は忘れない。
私の可愛いディルフィルと年齢は少ししか違わないのに、環境というのは恐ろしいものだ。
「おかあさま、だいじなおきゃくさまがいらっしゃるの?」
「ええ、そうらしいわ。ディルフィル。もしお客様にあったらきちんとご挨拶できるかしら?」
「はい! できます」
「まあ! やっぱりディはいい子ね」
「えへへ~」
フリルの大きくついた真っ白なブラウスに子供らしい短めのズボンをはいたディルフィルの触り心地の良いきれいな金髪を撫でる。私も金髪だけど、ちょっと髪質が違って本当にサラサラしている。これは父親の血かしらね?
「お嬢様、ディルフィル様。お客様がお見えです」
「あら、ではいきましょうか、ディ」
「はい、おかあさま」
メイドのルシーに声をかけられ、私とディルフィルは手を繋いでエントランスへ向かう。お父様がどうしても断れないお客様って一体誰なのでしょう? しかも、あのいい方は断りたかったのに、断れなかったってことなのかしら?
「おかあさま。おきゃくさま、もういるよ」
「あら、本当ね。急ぎましょう」
お父様が見たことがない背の高い方と話をしている。あら、その方も金髪ね。
「遅くなり、申し訳ございません」
「もうしわけございません」
私とディルフィルが着くと、お父様は大っ嫌いなパプリーを食べた時の顔をしていた。そんなにお客様のことが嫌いなのかな?
「今日は無理をいってすまない」
「?」
随分背が高いが、私の方を向いたかなり痩せた男性はそれでもとてもサラサラした金髪に青い目の持ち主だった。会ったことはないはずなのに、その容姿に既視感がある、一体どこで見たのだろうか……。
「おかあさま?」
手をつないだディルフィルが一瞬考えこんだ私を心配したのか声をかけてくれた。大丈夫よ、と言おうとして可愛い息子に視線を下ろし、はっとする。
似ている。ディルフィルはこの目の前の男性に似ている……そっくりだといっても過言ではない。驚いて二人を見比べてしまった。どこをどうみても……似ていた!




