第16話 もう二度と会わない
「という訳で、婚約は破棄で宜しいわよ。ナルク、貴方もダリアと結婚したらいいわ」
「な、な、な、どこの馬の骨とも分からぬ男の子を妊娠するようなあばずれはこちらから願い下げだーー!」
作戦通り、ナリスは書類にあっさりサインしてくれたし、デニス侯爵も婚約破棄を認めた。私とナルクの婚約はきれいになくなった……お金はなくても見栄だけは人一倍だものね。ついでに私からの婚約破棄としたので、違約金や貸付金も払わなくてよいとデニス侯爵はすぐに納得したというのもある。
「ナルク君もあちこちの女性に手を出しているらしいが、こちらの事もある。今まで君に貸し付けていた金は慰謝料として差し上げよう。これ以上我が家とはかかわりにならないよう。もしこの約束を破るようなら、こちらからも迷惑料として違約金を請求させていただくことになりますぞ、ゆめゆめ忘れず」
「当然だ!!」
デニス侯爵とナルクは二度とウィンフィールド公爵家と私に関わらないと誓約書にサインをし、違えた場合は多額の違約金を払うと約束し帰って行った。やっときれいにナルクとの関係は終わり、私達は過去と違う世界に一歩踏み出せたのだった。
「ははうえ~」
「ディー!」
とてとて、という言葉が良く似合う程可愛い足さばきで息子のディルフィルが走ってくる。
「ディ様~お早いですわ~」
「おお、ディは足も速いか、流石ワシの孫じゃ!」
「おじいちゃまぁ~! るしー!」
「か、かわゆいのう!」
あれから二年たち、私達は幸せに暮らしていた。初産にも関わらず、あの時の子供のディルフィルはあまり苦しまずにするんと生まれてくれたし、大きな病気や怪我もなくスクスクと成長している。ディルフィルが生まれた直後に
「も、もしかして私の子供では……」
と、ナルクが世迷言を言っていたけれど、私はナルクと肌を重ねたことはない。似ても似つかぬ可愛らしい赤ちゃんのディを一目みて退散していった。ナルクは赤い髪、ディはきれいなさらさらに金髪。顔立ちも全然違う、私の直感の勝利だった。近づいたら違約金だと書面にも認めたのに、ノコノコやってくるからびっくりした。当然違約金はむしり取る予定。
それからしばらくは見たこともない男達が変な名乗りを上げて来て、追い払うのが大変だった。ディの父親が自分だと言い張る金髪の男達。面倒くさかったが、適当に話を聞いていれば全然違うことがすぐにわかった。
「あ、あの時アネモネは私に一度でいいから思い出が欲しいと泣き縋り」
「お願い迎えにきて、と言っていました」
「一夜の思い出にこのネックレスを」
「子供が産まれたら一緒になろうと」
凄く適当なことを皆口々にする。私が仕方がなく身を任せたとか、愛し合っていたとか都合があったのだとか引き裂かれた愛し合う二人みたいな構図を持ってくるから、簡単に全員ディルフィルの父親を語る嘘つきと判別できた。
「最後に二人で約束をしたとアネモネから聞いている。二人の約束はなんだったか覚えているかね?」
ディルフィルの父親候補達と面談をしたお父様が最後に投げかける質問に正しい答えを出せるものは一人もいなかった。
「必ず一緒に暮らそう、です」
「愛している、です」
「今は一緒にいられないけれど……時が来たらです!」
「帰れ」
正解はこう。
「もう二度と会わない。その方がお互いに助かるでしょ?」
打算しかない一夜なんだから、当然じゃない? その荒いふるいにかけられ詐欺師達は全員ふるい落とされて消えていった。




