第10話 もう二度と顔も見たくない
「アネモネ! 婚約解消とはどういう事だっ」
「調書に書いてある通りよ、ナルク。あなたは私の婚約者でありながらダリア・マリクス子爵令嬢と体の関係を持った。汚らわしいわ……!」
「あ、あれはダリアが君の事を相談したいと私を誘って来て」
「あなたは女性に誘われたら何も考えずに着いて行くのね? ますます嫌悪するわ。それにマリクス子爵令嬢は妊娠中らしいじゃない、責任を取ったら如何かしら? もちろん、我が家からの融資は返却して貰いますけど」
「ダリアはまだ妊娠していないし、融資は返せない!」
「……最低」
ナルクのデニス家へ婚約解消の書類と放蕩の調書を送りつけるとすぐさまナルクがやってきた。もちろん先触れなしだったけれど、お父様が通すように命じたのでこうしてお父様の前でナルクに会っている。個人的に二人っきりでに会う事は二度としない。
「ナルク君。私は君を信じていたのだが、君の行いは目に余る。我が家の婿として君を迎え入れるわけにはいかない。どこの馬の骨に産ませたか分からぬ子供を我が家門に入れかねん男は我が家に必要ない」
「そ、そんなお義父様……」
「義父と呼ばれる筋合いはもうない、帰りたまえ」
父に拒絶され、ナルクの顔は真っ青だ。当たり前だわ、誰がこんな無節操男と結婚したいと思うのかしら? 本格的に調べてみればナルクの「遊び」は本当に酷い物で、平民や下位の令嬢……両手からはみ出るくらいの女性達と関係を持っていた。本当に私は自分の見る目のなさに吐き気がする。
「ア、アネモネ……許してくれるよね? 気の迷いだったんだ、一時の気の迷い……君は優しくて包容力があって……素晴らしい淑女だ。夫の一時の気の迷いなんて気にしないおおらかな女性だろう?」
「ナルク」
「ああ、許してくれるんだね!? アネモネ……君はなんてすばらしい淑女なんだ、もうこんなことをしないと誓うよ……アネモネ……」
「その汚らわしい顔を二度と私の前に出さないで下さる? 一生会う事はないわ。消えて」
「ア、アネモネ、アネモネーーッ」
我が家の護衛と執事に引きずられてナルクはお父様の執務室、そして我が家からつまみ出された。本当に二度と会うつもりはない。
お父様の深い深いため息が静かになった執務室へ響き渡る。
「私の目は節穴だったらしいな……ナルク君の素行を調べて驚いたよ……ここまでとは」
「私もまさかここまでとは思いませんでした」
本当にナルクは私の目を盗んでやりたい放題だったのね……酷過ぎて笑いすらこみ上げて来そうだった。
「ただ、デニス家が応じるかどうか……かの家には金を貸し過ぎた。本当に見る目のない自分が情けない」
「例え……貸付金や融資金が戻らなくとも、ナルクと結婚は絶対に致しません。もし許せばこの程度はした金と言えるくらい馬鹿なことをあの男はやらかします」
「アネモネ、お前が目を光らせていてもか?」
「ええ。それに私はもう金輪際、あいつに何かしてやりたくないんです。顔も見たくないのも本心です……絶対に許しません」
目を閉じると、私に背を向けやけに粘着質な笑顔でにやりと笑った過去のナルクの最後の姿を思い出す。ナルクとの夫婦の思い出……真実を知るまでは楽しくやっていたと思ったのに、あれは全部演技で、ナルクは私がいない所で私以外の女性と「楽しく」やっていたんだ。私のことを馬鹿にし尽くして。絶対に許すわけがない。
「あいつ、少しでも甘い顔を見せると、どこで作って来たか知らない子供を養子にするとか行って連れてきますよ。そういう男です」
「あり得るな……アネモネの血を引いていない子供を我が家の子にすると厚顔無恥に言い放ちそうだ」
実際に過去でそう言ったしね。ダリアとの間の子供に我がウィンフィールド家を継がせるですって? 冗談じゃないわ。これからは徹底的に拒否させてもらう。




