さんぽ(川の散歩道 編)
久しぶりに、散歩をしてみようと思った。
午後二時まえ。
お日様のあたたかい時間。
わたしはシャワーを浴びて、歯を磨いて、家を出た。
ポケットには、わずかな小銭。スマートフォンは置いてきた。
じぶんの推進力が気持ちがよい。
頭上には青く澄んだ空。
スキップと歩行のあいだ、流れる白い雲とおなじ軽やかさで進んでいく。
自宅から十分ほど歩くと、車のエンジン音に紛れて、水の流れる音がきこえはじめた。
そしてすぐに、河川が見えてくる。
そこそこ大きな川。近くの看板によると、一級河川なのだそう。
わたしは進路を変え、河畔の散歩道をのんびり進んでいく。
川のせせらぎが心をおちつかせる。
さて、これをしばらく聞いていると、音が複雑な構成をしていることに気づき始める。
わたしは目をつむり、耳を澄ます。
音をみずからの内側にとりこむ感覚。内と外がとけていく感覚。
そして、わたしはつきとめた。
川の音が三重奏であること。多分もっと重なっているのだろうけれど、これがわたしの能力の限界。
聞こえた音は以下のとおり。
・こぽこぽ
・ザァーッ
・チョロチョロ
これらの音が、場所によって割合を変えてきこえるので、飽きることがない。
たとえば、石の多いところでは、「ザァーッ」がメインで、穏やかなところでは「こぽこぽ」「チョロチョロ」がメイン。
(私的しらべによる)
さて、歩いていてきこえてくるのは、なにも水の音だけじゃない。
たまにきこえる音。少し低い音。これは、何かのなきごえ。
川面に視線をむけると、その声のぬしが判明する。
水面をただよう、いくつもの、ふっくらしたシルエット。
──カモだ。
カルガモと、マガモもいる。
マガモのオスはあざやかな緑色をしていて、特にわかりやすい。
親子づれのカモや、ひとりのカモもちらほら。
みな、のんびりと水面をただよっている
──ように見えるのだが
わたしはふと気づく。
水の中、オレンジ色した足のうごき。
けんめいなバタ足
これが、かなりのスピード。
しかし、川の流れのほうがいささか勝る……!
下流にながされては、羽をはばたかせてもとの場所にもどり、流されてはまた戻り──をくりかえす。
そして、こどものカモ。身体が小さいぶん、大人よりも一生懸命。
のんびりしているように見えて、かなり過酷な環境。
こっそりと、かれらに心からの称賛を。
さて、ふたたび川に沿って歩みをすすめる。
そろそろ散歩も折りかえし。
風が吹くと、ススキがゆれる。さらさらと軽い音。
ときおり吹く、つよい風。となりの竹林が鳴る。乾いた猛々しい音。
木々のざわめき。
歓迎されているような、拒絶されているような、そのあいだを進んでいく。
しばらくして、みえた散歩道の終点。
そこで待ちかまえていたのは、白サギ。
長くしなやかな首。たおやかな立ち姿。
ひなたになった川辺を、長い首を前後に大きくゆらしながら歩いている。
ひときわ目立つその姿に、おもわず息をのむ。
わたしは、その景色に名残おしさをおぼえつつ、折りかえしを決意する。
今度は、河川の反対側を歩いていく。
ふと見つけた、野鳥研究会の掲示板。
さっきの道にはなかった。
いわく、ここには、カワセミやシジュウカラなんかも生息しているんだとか。
空に注目することを心にとめて、ふたたび歩き出す。
途中、アタマムシ(ユスリカ)に絡まれながら、着々と家は近づいていく。
カモに別れを告げ、川辺を離れる。
帰り際、通りかかったコンビニ。
手元の小銭で、アールグレイ茶と、クッキーを買う。小さな贅沢。
足取りは軽い。靴ひもも跳ねているよう。
家に帰ると、わたしは今日見たものをメモにとる。川の音や、カモとサギのことなど、できるだけ鮮明なうちに。
気がつくと、ちょうどおやつの時間になっていた。
わたしは、買ってきたクッキーをひとつ、口のなかに頬張った。
カモ、泳ぐときも首を前後に動かすんですね。
私小説?エッセイ?純文学ではなさそう。




