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さんぽ(川の散歩道 編)

作者: 鯰川 由良
掲載日:2026/03/01

 久しぶりに、散歩をしてみようと思った。


 午後二時まえ。

 お日様のあたたかい時間。

 わたしはシャワーを浴びて、歯を磨いて、家を出た。


 ポケットには、わずかな小銭。スマートフォンは置いてきた。

 じぶんの推進力が気持ちがよい。

 頭上には青く澄んだ空。

 スキップと歩行のあいだ、流れる白い雲とおなじ軽やかさで進んでいく。

 

 自宅から十分ほど歩くと、車のエンジン音に紛れて、水の流れる音がきこえはじめた。

 そしてすぐに、河川が見えてくる。

 そこそこ大きな川。近くの看板によると、一級河川なのだそう。


 わたしは進路を変え、河畔の散歩道をのんびり進んでいく。

 川のせせらぎが心をおちつかせる。

 

 さて、これをしばらく聞いていると、音が複雑な構成をしていることに気づき始める。

 わたしは目をつむり、耳を澄ます。

 音をみずからの内側にとりこむ感覚。内と外がとけていく感覚。

 そして、わたしはつきとめた。

 川の音が三重奏であること。多分もっと重なっているのだろうけれど、これがわたしの能力の限界。

 聞こえた音は以下のとおり。


・こぽこぽ

・ザァーッ

・チョロチョロ


 これらの音が、場所によって割合を変えてきこえるので、飽きることがない。

 たとえば、石の多いところでは、「ザァーッ」がメインで、穏やかなところでは「こぽこぽ」「チョロチョロ」がメイン。

(私的しらべによる)



 さて、歩いていてきこえてくるのは、なにも水の音だけじゃない。

 たまにきこえる音。少し低い音。これは、何かのなきごえ。

 川面に視線をむけると、その声のぬしが判明する。

 水面をただよう、いくつもの、ふっくらしたシルエット。


 ──カモだ。

 カルガモと、マガモもいる。

 マガモのオスはあざやかな緑色をしていて、特にわかりやすい。

 親子づれのカモや、ひとりのカモもちらほら。


 みな、のんびりと水面をただよっている

 ──ように見えるのだが

 わたしはふと気づく。

 水の中、オレンジ色した足のうごき。

 けんめいなバタ足

 これが、かなりのスピード。

 しかし、川の流れのほうがいささか勝る……!

 下流にながされては、羽をはばたかせてもとの場所にもどり、流されてはまた戻り──をくりかえす。

 そして、こどものカモ。身体が小さいぶん、大人よりも一生懸命。


 のんびりしているように見えて、かなり過酷な環境。

 こっそりと、かれらに心からの称賛を。



 さて、ふたたび川に沿って歩みをすすめる。

 そろそろ散歩も折りかえし。


 風が吹くと、ススキがゆれる。さらさらと軽い音。

 ときおり吹く、つよい風。となりの竹林が鳴る。乾いた猛々しい音。

 木々のざわめき。

 歓迎されているような、拒絶されているような、そのあいだを進んでいく。


 しばらくして、みえた散歩道の終点。

 そこで待ちかまえていたのは、白サギ。

 長くしなやかな首。たおやかな立ち姿。

 ひなたになった川辺を、長い首を前後に大きくゆらしながら歩いている。

 ひときわ目立つその姿に、おもわず息をのむ。

 

 わたしは、その景色に名残おしさをおぼえつつ、折りかえしを決意する。


 今度は、河川の反対側を歩いていく。

 ふと見つけた、野鳥研究会の掲示板。

 さっきの道にはなかった。

 いわく、ここには、カワセミやシジュウカラなんかも生息しているんだとか。

 空に注目することを心にとめて、ふたたび歩き出す。


 途中、アタマムシ(ユスリカ)に絡まれながら、着々と家は近づいていく。

 カモに別れを告げ、川辺を離れる。


 帰り際、通りかかったコンビニ。

 手元の小銭で、アールグレイ茶と、クッキーを買う。小さな贅沢。

 足取りは軽い。靴ひもも跳ねているよう。


 家に帰ると、わたしは今日見たものをメモにとる。川の音や、カモとサギのことなど、できるだけ鮮明なうちに。


 気がつくと、ちょうどおやつの時間になっていた。

 わたしは、買ってきたクッキーをひとつ、口のなかに頬張った。


カモ、泳ぐときも首を前後に動かすんですね。


私小説?エッセイ?純文学ではなさそう。

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― 新着の感想 ―
川の音いいですよね、おあばちゃんの家を思い出します
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