からくり競艇人物外伝第2話:篠田篤編
大分支部の元ナンバー2で現在トップレーサーの篠田篤の昔話を書いてみました
本編もよろしくお願いします
外伝:『不敗の影、不滅の灯』
――大分・別府の静かなる反旗
別府の夜は、硫黄の香りと共に更けていく。
からくり野球、大分支部の専用ピットには、深夜まで金属音が響いていた。
「……まだ、ここが甘い」
篠田篤は、愛機の蒸気タービンの出力系統を微調整しながら、独りごちた。
昼間のG1レース。勝ったのは大峰幸太郎だった。観客は大峰の「日」属性の眩いマブイに熱狂し、その影で準優勝に終わった篠田を振り返る者は少ない。
大峰は太陽だ。その光が強ければ強いほど、隣に立つ篠田の影は濃くなる。
「俺はいつまで、あの人の背中を眺めているんだろうな」
そんな時、ピットの重い扉が開いた。
「篤、まだやっとったんか。お前さんは真面目すぎるばい」
聞き慣れた佐賀弁。大峰幸太郎だ。彼はタオルで汗を拭きながら、篠田の機体の横に立った。
「大峰さん……。勝者はさっさと祝杯を挙げに行けばいいでしょう」
「ハハッ、弟子たちがうるそうて逃げてきたよ。……篤、お前のプロペラ(羽根)、少し見せてみ」
大峰は篠田のからくりに手を置いた。瞬間、彼の「日」のマブイが流れ込み、機体がわずかに震える。
「……鋭すぎるな。お前の『嵐』は、今は自分を切り刻んどる。もっと外を、仲間を見ろ。お前の風は、誰かを守るために吹く時、本当の力を出す」
その数日後、衝撃のニュースが走った。
『大峰幸太郎、佐賀支部へ移籍』
大分から、絶対的な太陽が消える。
支部内は動揺に包まれた。若手の深田あみや米沢かなは、不安げな表情で立ち尽くしている。
太陽を失った大分は、このまま沈んでしまうのか――。
移籍当日。大峰は私物を持たず、ただ一つ、古びた**「マブイ伝導率極振りの試作プロペラ」**を篠田に手渡した。
「これは俺の忘れ物だ。いつか俺を倒して、これをゴミ箱に捨てに来い。……大分を、頼んだぞ」
大峰が去った後の静まり返ったピット。
篠田は、不安そうに自分を見つめる後輩たちの前に立った。
彼の背中には、大峰から託された重圧と、それ以上の覚悟が宿っていた。
「……あみ、かな。顔を上げろ」
篠田が初めて、リーダーとしてマブイを解放した。
それは大峰のような眩しい光ではない。低く、重く、しかし力強く周囲を包み込む**「嵐」の予兆**だった。
「俺は大峰さんの代わりにはなれない。だが、お前たちが泥をすする時は、俺がその隣でそれ以上の泥をすする。大峰さんが作ったこの場所を、俺たちの手でもっと強くするぞ」
篠田のマブイが、初めて「誰かのため」に渦を巻いた。
大分の「影のNo.2」が、不敗の覚悟を宿した「嵐のリーダー」へと変わった瞬間だった。




