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引退騎士の世界紀行譚 〜勇者になれなかった加護なしは、少女が救った『平和』を巡る〜  作者: 稗田


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第8話 加護なしの大隊長

「それで、セリシールさんはジンクさんとどこで会ったんですか!」


 ガタガタと揺れる馬車に乗り、5人は目的地へ向かっている。

 

 ゴブリンの夜襲もあり、仮眠をとりつつ街へ向かうこととした。

 ウルたっての希望により、男3人が先に仮眠をとる。


「ううんと、学校で会ったんだ。国立教育機関って知ってるかな?」


「ああ、2人ともあのエリート学校だったんだ。納得かも……」


 そこでふと、ウルに疑問が浮かぶ。


「あれ、でも2人って結構歳が違いませんか?」


 ジンクの歳は25歳と聞いたことがあるが、セリシールは少なくとも20歳を超えているようには見えない。

 

「私、戦闘教育だけ飛び級だったんだ!」


 ふふんとセリシールは胸を張る。

 昨日の魔法を思い返し、ウルは納得した。


「もし国立教育機関で相手になる人がいなかったら騎士団で訓練をすることになってたんだけど、そこにジンクがいてね……」


 遮音魔法の中でキャイキャイと女子会を開く2人をジンクは横目で見る。

 年相応にお喋りに興じるセリシールを見て少しホッとする。

 そんな中でも、セリシールはもちろん周囲の警戒は怠っていなかった。


「商人さーん、魔物が出るけど、気にせず進んでくださーい!」


 セリシールが遮音結界から顔を出して女商人に呼びかける。


「今まで囲まれそうだから駆け抜けろって指示は受けたことあるけど、気にせず進めって指示ははじめてだね!」


 豪快に笑う女商人の前に、大型の猪のような魔物、ビックボアが突っ込んでくる。

 ビックボアはC級だが、その巨体と体当たりでBランクの冒険者も轢き殺し、何台もの馬車を破壊する危険な魔物だ。


 くん、とセリシールが指を振ると、ビックボアは横から何かに轢かれたように横の草原に弾き飛ばされた。

 詠唱もなく魔法を放つ姿に、2人は唖然とする。


「こりゃ、こんな馬車を守るには過剰戦力だね……」


 その後も危なげなく馬車は進み、残り半分の地点で仮眠を交代する。


「ジンク、私寝なくても……」


「だめだ、ちゃんと寝てもらうよ」


 魔王の城から2週間で踏破したセリシール、まともに寝ていないことは明らかだった。


「それとも俺の護衛では心配かな?」


 首を振るセリシールをほらほらと促し、眠りにつかせる。

 気の張りが取れたのか、すぐにすうすうと寝息をたてはじめた。


 目的地まであと半分、ジンクはセリシールの寝顔を見て、改めて気合を入れるのだった。


ーーー


『ワヌタ』


 王都ソリーデと貿易都市ポルトの間にある宿場町。

 貿易の拠点として宿屋や酒場を中心に栄え始め、今では居住者もおり、ギルド、駐屯地、学校などで栄えている。

 港町と農村の中間にあるため、海鮮と酪農品を組み合わせた料理が特徴。

 北にはイオル草原があり、風が吹くたびキラキラと輝く美しい景色を見ることができる。

 さらに北には惑いの森があり、子どもが神隠しにあうと言われている。


「ジンク、何それ?」


 ジンクが読んでいる本を指差しセリシールが訪ねる。


「これか、俺が旅に出ようと考えたきっかけの本」


 本を閉じ表紙をセリシールに見せる。

 重厚な装丁がされた本は、辞書のような分厚さをしており、読み切るのにどれほどかかるか見当もつかない。

 タイトルに『マルストヴィラの歩き方』と達筆な字体で書かれている。

 

「分厚い本だね、何が書いてあるの?」


「ただの観光書だよ。魔法のね」


 この世界の本には、編集者が新たに書き込むと他の本にも反映されるものがある。

 ジンクはその本を2冊持っており、そのうちの1冊がこの『マルストヴィラの歩き方』だ。


「依頼が終わったら宿を取ってご飯を食べに行こうか、ここにも美味しそうな名産がありそうだ」


 ジンクの言葉にセリシールは肩をピョンと跳ねさせ目を輝かせている。

 美味しい食事というのもあるが、ジンクと一緒に食べるという喜びが強いのだろう。


「俺たちも一緒に……」


 ギルが夕飯を一緒に食べる提案をしようとするが、ウルの魔法でギルの声が聞こえなくなる。

 不満を訴えるようにウルを見るが、眼光鋭く睨み返され、ギルは小さくなる。


「用事を済ませますので、私たちのことは気にしないでくださいね!」


 ウルはジンクとセリシールを見てにっこりと笑いながら提案する。

 ギルはしょんぼりとし、レイに肩を叩かれ慰められていた。


「わかった、ありがとうな」


 ウルの配慮にジンクは笑いながら答える。

 セリシールは申し訳なさそうにしているが、ウルに目配せし、ぺこりと頭を少し下げる。

 

「さあさあみんな、お疲れ様! 間も無く街に入るよ!」


 女商人の声に、ジンクは馬車から顔を出し、 街を見た。

 太い丸太が組まれ囲まれた街は商人の馬車が行き交い、賑わいを見せている。

 馬車に揺られ門に近づくにつれ、ガヤガヤとした声が大きく響き渡ってくる。


「おお、おかえり!」


 門の前には衛兵が立っている。

 顔見知りなのか、女商人の顔を見て気軽に挨拶を交わす。


「ずいぶん大所帯だな、採算はとれるのかい?」


「B級のお兄さんC級の代金で雇えたし、こっちのお嬢さんはただでB級以上の強さだよ! 道中快適すぎてびっくりだったね!」


 商人の街らしい挨拶を交わし街へ入っていく。

 街の中を進むと、干された魚が香草とともに焼ける匂いや、チーズの濃厚な香りが鼻腔をくすぐり、自然と空腹を感じた。

 門を超えた少しひらけた広場で馬車から全員が降りる。

 護衛契約もこれで終わりだ。


「護衛ありがとうね、これまでで1番快適な旅だったよ!」


 そう言い、懐から依頼書を取り出し、さらさらと何かを書いていく。


「最高評価にしておいたよ! もしまた依頼が貼られてたらよろしくね!」


 バンバンとジンクの肩を叩き、女商人は依頼書を渡す。

 評価欄にはジンクと3人にS評価がついていた。


「ありがとうございます、またその時はよろしくお願いします」


 女商人はジンクと握手を交わし、馬車を連れ街の雑踏に消えていった。


「やったぁ、護衛でS評価なんてなかなか無いぜ!」


 ギルが跳ね上がり喜ぶ。

 ウルとレイは自制しているが、それでも嬉しそうな様子は隠しきれていない。


「さて、俺らもここでお別れかな」


 ジンクが言うと、ギルは目に涙を浮かべ鼻を啜る。


「道中ありがとうございました! 遠くに行くみたいで、しばらく会えないのが残念です……」


 袖でゴシゴシと涙を拭い、ジンクに向き合う。

 一生の別れではないと思いたいが、何が起こるかわからない冒険者業。

 2度と会えない可能性も考え、ギルは涙が止まらなくなった。


「俺もここまで慕ってくれるやつがいて嬉しいよ」

 

 ジンクはすっと指輪からマジックバッグを取り出し、ギルに渡した。


「お下がりで悪いが受け取ってくれ、プレゼントだ。これからもソリーデを頼むよ」


 涙を堪えてギルはマジックバッグを受け取る。

 その瞳は芯の通った戦士の目をしていた。

 最後となるかもわからない挨拶を交わし、ジンク達はそれぞれの道を進んでいった。


ーーー


「さて、今日はギルドに報告してからご飯にしようかな? あとは宿を取らないといけないか」


 ジンクの提案にセリシールは頷いてニコニコと答える。

 その喜びようは、そのままスキップでもしそうなほどであった。

 昔と変わらない表情に、ジンクも自然と軽快な足取りとなる。


「えへへ、みんなでいるのも楽しいけど、2人でいるのも楽しいね!」


 ふとセリシールの表情に違和感を覚える。

 夕焼けに照らされるその横顔に、どこか寂寥せきりょうを感じさせる。

 その違和感の正体はわからず、ジンクはそうだなと、曖昧な返事しかできなかった。


ーーー


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご用件でしょうか?」


 しばらく歩き、ジンクとセリシールはギルドに到着した。

 建物の中はソリーデと違い、商人が多く護衛を探しているようであった。

 依頼の掲示板も、討伐依頼よりも魔物や植物の採集依頼が多く貼り出されている。


「護衛依頼を終えたので、その報告に」


 ジンクは依頼書を取り出し、受付嬢に渡す。


「ああ、あの女商人さんの! とても喜んでいましたよ、素晴らしい活躍だったそうですね」


 受付嬢の口振りから、女商人のほうがジンクより先にギルドへ顔を出していたようだ。


「それを見込んで、ご依頼が1件入っているのですが……お話だけでも聞いていただけませんか?」


 受付嬢の伺うような視線にジンクとセリシールは目配せをする。


「わかりました、その前に報告を終わらせて明日でも良いでしょうか?」


 その言葉に受付嬢はパッと笑顔になる。


「ええ、構いません! 依頼書を見ると、ジンクさんは仮B級ですね? 更新のため水晶玉に手をかざしてください!」


 先ほどよりも数段ハキハキした動きでジンクに手をかざすようすすめる。

 ジンクが手をかざすと水晶玉は光るが、やはりその光は不安定に揺らめいていた。


「えっ……加護なし?」


 その言葉にギルドはしんと静まりかえる。

 一拍おき、いたるところから笑い声が起こった。


「加護なしなんて存在するのか!」

「B級? そこの女に寄生したんじゃないか!」


 ギルドのそこらからそんなヤジが飛んでくる。

 受付嬢はやってしまったと青い顔をしてジンクを見るが、ジンクもセリシールも一切気にした様子はなかった。

 しかし、セリシールの周囲にはチリチリとした圧力が感じられた。


「それで、加護以外は特に問題ないですね?」


 ジンクの言葉にはっと受付嬢は我に帰り、手続きを進める。


「はい……今回の功績で、正式にB級となりました……こちらが報奨金です」


 差し出された銀貨を受け取り、ジンクはギルドを後にしようとする。

 しかし大柄な男がジンクの前に立ちはだかる


「俺はC級だが、B級を超える実力を持っていると自負している! 加護は剛力と拳闘士、手合わせ願おう!」


 ギルドの真ん中で男が大声を上げる。

 商人が多くいるギルドで腕前を見せ、護衛として雇ってもらおうとする算段らしい。

 加護のないB級はちょうどいいカモに見えたのだろう。

 他の男達がやられたと呟く様子から、手合わせはよくあることだとわかった。


 しかし、ソリーデに近いだけあり、ジンクのことを知っている者も多くいた。

 彼らはジンクが負けるとは思っておらず、どんな戦いをするのかと楽しみにしている様子だった。


 チラリとジンクは受付嬢を見る。 

 受付嬢は申し訳なさそうに頭を軽く下げる。

 つまり止める気はないということだ。


 次にセリシールを見る。

 グッと拳を前に出し、やってしまえと言外に伝えてくる。


「……まあ、怪我しても文句言うなよ」


 スラリと腰に下げた脇差を鞘ごと抜きとる。

 淡く光る華の意匠が妖しく輝き、武器としての格が高いことを周囲に知らしめる。

 

 抜き取った脇差を正眼に構える。

 たったそれだけの動作にピンと空気が張り詰めた。


「元王国騎士団遊撃大隊長ジンク=クラッド、いざ」


 ジンクの名乗りに、構えに男は気圧され、額から汗が一筋流れた。

 ぽたりと落ちた汗は床に音を立て落ち、シミを作る。

 足は地面に張り付き一歩も動けない。

 勝負は始まった時にはすでに終わっていた。


 

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