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見難い火傷の子  作者: 清風
611/658

残りの賊のお片付け

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子611


残りの賊のお片付け


深淵ダンジョン第十七エリア、第四紀完新世層

鉄の時代

この地では、人を除く多くの生きものが八倍の大きさで生きている。


行道尚書の言葉が落ちると、その場の誰もが二つ目の門の内側へ目を向けた。

見ている者がいる。

しかも外だけではない。

梁家の内側にまで、誰かの目が入り込んでいる。


周蓋の顔が険しくなる。


「どこです」


匠一は屋根筋を見たまま答えた。


「今はもう引いた。

でも、さっきまでいた」


行道尚書は周蓋を見た。

その一瞬で、言葉の重さを量ったのだろう。

周蓋は短くうなずく。


「この者たちの目は、当てになります」


「……そうか」


行道尚書はそれ以上問わなかった。

代わりに、門兵と家人たちを見回す。

誰が聞いているか分からぬ場で、余計な言葉は増やせない。


「玉玲を内へ」と彼は言った。

「医師をつけ、女中を増やせ。

賊は別牢。

周蓋、おまえが直に見ろ」


「はっ」


「それと――」


行道尚書の視線が、閉じた外門の方角へ向く。

厚い扉の向こうには、まだ騎馬五、徒歩七以上。

見ているだけではない。

追ってきた。

門前で伏せてもいた。

ここで放っておけば、散る。

散れば、口も足も増える。


「外の賊は、まだ残っているのだな」


「はい」と周蓋。

「騎馬五、徒歩七。

ほかにも潜んでいる可能性があります」


「門を固めて追い払うだけでは、足りぬか」


周蓋は答えを選びかけたが、その前に匠一が言った。


「逃がすと面倒」


行道尚書の目が匠一へ向く。


「捕らえられるか」


「できる」


短い返答だった。

だが迷いはなかった。

ダンたちも何も言わない。

できる前提で立っている。


周蓋はその横顔を見て、内心で苦く息を吐いた。

この子たちなら、本当にやる。

しかも大げさな戦いではなく、いつもの処理のように終わらせるだろう。


行道尚書は数息だけ考えた。

玉玲は戻った。

賊の頭目もいる。

だが外に残る者を放てば、別の口が動く。

内にも目があるなら、なおさら早いほうがいい。


「よし」と彼は言った。

「外の賊を捕らえよ。

できる限り生かして連れてこい」


周囲の兵がざわめく。

門を開けて打って出るのか。

しかも、目の前の子どもたちに任せるのか。

だが行道尚書は揺れなかった。


「梁家の兵は門を守る。

おまえたちは外へ出るか」


「出る」と匠一。


「周蓋」と行道尚書。

「門の開閉を預ける。

戻る道を切るな」


「はっ!」


玉玲の馬車が、女中と医師に囲まれて内側へ引かれていく。

布の向こうから、静かな声がした。


「匠一様」


匠一が少しだけ振り向く。


「なに」


「どうか、ご無理はなさらず」


匠一は少し考えてから答えた。


「無理はしない。

片付けるだけ」


布の向こうで、玉玲が小さく息をつく気配がした。

呆れたのか、安心したのかは分からない。

だが止めはしなかった。


ダンが肩を回す。


「じゃ、掃除だな」


「騎馬から」とニール。


「逃げ道も見る」とキール。


「怪我は増やさないで」とハナ。


「馬いないから楽」とマリー。


周蓋はその会話を聞きながら、また少しだけ引いた。

外には騎馬五、徒歩七以上。

普通なら門を閉じて増援を待つ数だ。

それを前にして、この温度で話せるのがもうおかしい。


匠一が短く言う。


「制限解除。

飛ぶ」


その一言で、空気が変わった。


門兵たちは意味を理解する前に、六人の足元に魔力の流れを見る。

ふわり、と衣の裾が浮く。

次の瞬間には、六人の体が地を離れていた。


「な――」


門将が声を失う。

周蓋も知ってはいたが、改めて目の前で見ると息が止まる。

飛ぶ。

本当に、何のためらいもなく。


「開けろ!」と周蓋が怒鳴る。

「戻りの幅を残せ!」


重い門が再び動く。

扉が開ききるより早く、爆炎パーティはその隙間を抜けた。

矢のように、ではない。

もっと静かで、もっと速い。

空へ滑り出し、そのまま門外の上空へ散る。


外にいた賊たちは、最初は何が起きたのか分からなかった。

門が開く。

兵が出ると思った。

だが出てきたのは、さっきまで馬車の周りにいた小さな六人。

しかも地を走らず、空から来る。


最初に崩れたのは騎馬だった。


ニールが上から位置を取り、短く言う。


「右二、左三」


「左」と匠一。


「右やる」とダン。


「下、逃げ道ある」とキール。


「塞ぐ」とマリー。


「落としたら縛る」とハナ。


言葉はそれだけ。

次の瞬間には、もう動いていた。


左の三騎へ匠一、キール、マリー。

右の二騎へダンとニール。

ハナは少し高く残り、全体を見る。


匠一は先頭の黒馬の上へ、ほとんど真上から落ちた。

騎手が見上げるより早く、手綱を持つ手首を打つ。

槍を持つ腕を押し込み、体勢を崩し、そのまま鞍から引き剥がす。

男は地へ落ちる前に、匠一に襟を掴まれていた。

落とすのではない。

制御して叩きつける。

息だけを奪う落とし方だった。


「一」


その横でキールが二騎目の馬の前へ低く滑り込み、鼻先の前で風を切る。

馬が驚いて首を振る。

騎手の意識が一瞬だけ散る。

その隙にキールの棒が肘を打ち、槍が落ちる。

次いで膝。

騎手は鞍から転げ落ちた。


「二」


三騎目は逃げようと馬首を返しかけたが、マリーがその前へ降りた。

真正面ではない。

馬が最も嫌がる角度へ、静かに立つ。

馬がたたらを踏む。

そこへマリーの手が手綱を取り、もう片方の手で騎手の胸を押した。

押しただけに見えた。

だが騎手はそのまま後ろへ落ちた。


「三」


右側ではもっと雑だった。


ダンが上から二騎目の肩へ降って、そのまままとめて馬から引きずり落とす。

一人は地面へ。

もう一人は馬の首へしがみつこうとして失敗し、転がる。

そこへニールの投げた石が額と手首へ順に当たる。

武器が飛ぶ。


「四、五」とニール。


騎馬は、そこで終わった。

本当に数息だった。

門上から見ていた梁家の兵たちは、誰も声を出せなかった。

五騎がいた。

次の瞬間には、全員地に落ちていた。


徒歩の伏兵たちは、それを見て散ろうとした。

だが遅い。


「左三、石垣裏」とキール。


「右二、林へ」とニール。


「古道側にもいる」とワイ忍の声がちちっと返る。


匠一は空中で向きを変えた。


「逃がさない」


今度は追う。

護送ではない。

列もない。

守るべき馬も馬車もない。

ただ捕らえるだけでいい。


ダンが林へ飛び込み、逃げるひとりの背を掴んで持ち上げる。

そのまま地面へ転がし、もうひとりの足首を払う。

二人まとめて倒れる。


「右二」


キールは石垣裏へ滑り込み、伏せていた男の首根っこを棒で押さえつける。

もうひとりが短刀を抜きかけたが、ニールの石が指を打ち、刃が落ちた。


「左二」


残るひとりは古道側へ走った。

だが上から降りたマリーが進路を切る。

男が止まる。

止まったところへハナが後ろから袖を絡め、膝裏を払った。

男は顔から土へ落ちる。


「七」


「まだいる」とニール。


木立の奥、斜面の影。

二つ、三つ。

逃げる気配。

匠一はそこへ飛ぶ。

上から見れば、隠れる場所は隠れ場所にならない。

枝の下へ潜った男の背を見つけ、襟を掴んで引きずり出す。

もうひとりは斜面を転げるように逃げたが、キールが先回りして足を払った。


「八、九」


最後のひとりは、最初から戦う気がなかったのだろう。

木の根元へ身を伏せ、息を殺していた。

だがワイ忍がその鼻先でち、と鳴く。

男が反射で顔を上げた瞬間、ニールの石が額に当たった。


「十」


静かになった。


本当に、一分もかからなかった。

門上の兵たちには、何がどう繋がったのか半分も分からない。

ただ、外にいた賊が次々と地へ落ち、逃げた者もすぐ止まり、気づけば全員転がっていた。


周蓋は門内からそれを見て、言葉を失っていた。

強いとは思っていた。

だがこれは、戦いというより処理だった。

位置を取り、崩し、落とし、縛る。

迷いがない。

無駄もない。

そして何より、誰も殺していない。


行道尚書もまた、黙って見ていた。

その目は細く、深い。

驚きはある。

だがそれ以上に、何を見たのかを正確に刻もうとしている目だった。


門外では、爆炎パーティがもう次の段に入っていた。

倒した賊の手足を縛り、武器をまとめ、逃げない形へ整えていく。

ダンが二人まとめて担ぎ、キールが縄を回し、ハナが息のある者を確認する。

マリーは暴れた馬を落ち着かせ、ニールは周囲の見張りを続ける。

匠一は最後に全体を見回した。


「終わり」


「十一」とニール。


匠一が振り向く。


「どこ」


「木の上」


全員の目が上がる。

街道脇の大木、その枝の陰。

ひとり、いた。

最初から見ていただけの者。

逃げるでもなく、降りるでもなく、ただ固まっている。


匠一は少しだけ首を傾けた。


「降りる?」


男は答えない。

だが次の瞬間、枝を蹴って飛んだ。

逃走だった。


「まだいたか」とダン。


「最後」と匠一。


そして爆炎パーティが、もう一度だけ空へ散った。

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