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見難い火傷の子  作者: 清風
179/184

冒険者中の一年生

挿絵(By みてみん)

見難い火傷の子179


冒険者中の一年生


――青銅の時代。

深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世エリア。


この地では、生物すべてが八倍サイズで存在する。


アオは冒険者中の一年生。

初等科を主席で卒業した有望株だ。


今年から冒険者中へ進学した彼の特筆すべき能力――それは「逃げ足」。

危険回避能力において、彼は群を抜いていた。


教師陣は“爆炎先生”。

見た目は愛らしいが、その実、苛烈にして最強。


「どんな状況でも生きて帰れ」

それが彼らの教えだった。


仲間全員で帰還できれば、なお良し。

そのときだけ、先生たちはほんの少しだけ優しく笑う。


――今日は森での実地訓練。


受付嬢のダリアが言っていた。

「期末テストはワイバーン討伐になる予定です」


……正気とは思えない。

ここは八倍世界だ。


ワイバーンなど、遭遇すれば即死の災害級魔物。

それをテストにするなど、狂気の沙汰だった。


だが今回の訓練はさらに異常だった。


爆炎先生がテイムしたワイバーンを相手に――

素手での格闘戦。


「……え?」


間の抜けた声を漏らした次の瞬間。


ワイバーンは、地面に組み伏せられていた。


爆炎先生が、二、三手触れただけ。

それだけで、巨大な魔物は完全に制圧されていた。


ワイバーンはおとなしく体を叩く。

降参の合図。


その後は見取り稽古。


――そして実戦。


だが当然、生徒たちは再現できない。

形だけ真似て、全員が玉砕した。


そこへ爆炎先生が現れる。


「ここを、こう」


手を取り、足を導き、体の使い方を叩き込む。


――コツを掴んだ者が現れる。

――一人、また一人と成功者が増える。


訓練の終わりには。


全員がワイバーンを組み伏せていた。


みんなが力技でワイバーンをねじ伏せる中、アオだけは、

ワイバーンの予備動作を0.1秒早く察知して、ノーダメージでいなすこつを得た。


――そして、テスト当日。


現れたのは野良のワイバーン。


だが――弱い。


体つきは緩み、気配も鈍い。


爆炎先生のワイバーンとは雲泥の差だった。


あれは日々鍛えられた“精鋭”。


対して目の前のそれは、

シュメールの農民を襲うだけの――ただのチンピラ。


結果は言うまでもない。


生徒たちにとってワイバーン討伐は、

いつの間にか「素手で対処可能な相手」へと変わっていた。


その日。

アオの記憶に、爆炎先生への憧れが刻まれた。


――夜。


宴会場には、笑い声が満ちていた。湯気の立つスープ、黒パンをちぎる音、誰かの武勇伝に被さる爆炎先生の短い鼻笑い。先生は炎を指先で丸めては消し、丸めては消し、子どもたちの皿が空になるたびに「食え」とだけ言う。


アオは隅の席で、今日の感触を反芻していた。組み伏せた瞬間の、鱗の継ぎ目がずれる微かな手応え。予備動作の0.1秒——翼の付け根がわずかに沈み、尾の先が半歩ぶん流れる、あの予兆。


「アオ」

呼ばれて顔を上げると、受付嬢のダリアが成績表を差し出していた。羊皮紙には赤インクで一文だけ。


『逃げるな、躱せ。』


爆炎先生の筆跡だった。


「……はい」

返事は短い。けれど胸の奥で、憧れは熱に変わっていた。生きて帰るだけじゃない。いつか先生のように、誰かを生かして帰らせる側になる。ワイバーンをねじ伏せる腕ではなく、0.1秒を読み切る目で。


そのとき、広間の扉が内側から叩かれた。風が冷たい。使いの子が息を切らしている。


「第十七エリアで遭難。三年生の班、帰還せず」


笑い声が薄く引く。爆炎先生は立ち上がり、指先の炎を握り潰した。暗がりに残光が尾を引く。


「行くぞ」

先生の視線が一瞬だけアオに触れた。


「お前は、逃げ足の使い所を見せろ」


アオは頷いた。怖い。でも、足はもう震えていない。

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