冒険者高校、ミクロへの旅
見難い火傷の子175
冒険者高校、ミクロへの旅
――青銅の時代。
深淵ダンジョン第十六エリア、第四紀完新世エリア。
この地では、生物すべてが八倍サイズで存在する。
冒険者高校が森の訓練中、
突然病に倒れる者が現れた。
外傷なし。
毒の痕跡なし。
呪詛反応なし。
にもかかわらず、高熱。
三日目には歩行不能。
五日目には呼吸困難。
戦闘訓練よりも死亡率が高い。
「呪いか?」
貴族学校出身の生徒が言った。
神官科の生徒が結界を張る。
浄化魔法が施される。
――効果なし。
ポンが地面にしゃがみ込む。
倒れた生徒が飲んでいた水袋を嗅いだ。
「……森の匂いじゃねぇな」
ユキは周囲を見る。
同じ川。
同じ食料。
同じ野営地。
だが倒れる者と倒れない者がいる。
クロが短く言った。
「見えてない敵だ」
数日後。
魔導技術科に召集命令が出た。
リーダーが運び込ませたのは
磨き上げられた水晶と青銅の筒。
誰も用途を理解できない。
「観察器具だ」
リーダーは言った。
「もっと小さい世界を見る」
最初に覗いた生徒は笑った。
何も見えない。
ただの水だ。
しかし焦点が合った瞬間——
笑いが止まった。
水の中。
無数の点。
動いていた。
蠢き、分裂し、増えている。
「……生きてる」
教室が静まり返る。
魔物ではない。
精霊でもない。
呪いでもない。
肉眼では存在しない世界。
腐敗した肉を置く。
翌日。
観察鏡の中は埋め尽くされていた。
新鮮な肉には少ない。
ポンが腕を組む。
「森と同じだな」
「増える場所で増える」
その日、冒険者高校の教義が一つ変わった。
敵は巨大とは限らない。
剣で斬れぬ敵もいる。
水は煮沸されるようになった。
傷は洗われるようになった。
食料は隔離された。
そして——
病による死亡者が消えた。
貴族学校の教師は言った。
「目に見えぬものを信じるのか」
冒険者科の回答は単純だった。
「生き残った」
リーダーは観察鏡を閉じる。
静かに呟く。
「世界は、まだ浅いな」
人類は初めて。
ミクロへの旅を始めた。




