デストピアX
見難い火傷の子164
デストピアX
深淵ダンジョン
第十五エリア
第四紀更新世エリア
氷河の時代
※深淵ダンジョン第十五エリア
生物すべてが“8倍”の世界。
森の奥深い一角に幽霊屋敷があった。
ぽつんと幽霊屋敷。
そこは若者に人気の心霊スポットで有名だった。
だが、肝試しに出かけた者が帰らない。
不安に思う親たちや被害者の親たちの苦情で
ギルドの調査案件に「デストピアX」が貼られた…
調査依頼「デストピアX」
適合クラス:C
内容:ぽつんと幽霊屋敷(デストピアX)の調査
危険要因:不明
完了報酬:銀貨2枚
目的:地域の安全
エレクたちがこの話を聞いていた。
仲間内で肝試しにどうかと話になり、
幽霊屋敷を肝試しの場所に選んだ。
だれが一番勇気があるか競うという形式で。
それ以来、出かけたきり帰ってこなかった。
ギルドから帰ったギルド長ハビリは、妻に「エレクは?」と聞くと
「ギルドに行っている」と妻は答えたが、
「居なかったぞ」とハビリは首をかしげた。
またいつものかと気にも留めなかった。
いつもフラッと出かけ帰ってこないことが良くあった。
その度に友達が増えていた。
しかし二日たっても三日たっても帰ってこなかった。
ハビリはギルドに息子の捜索依頼を出した。
緊急捜索依頼
適合クラス:S
内容:エレクの捜索
危険要因:不明
完了報酬:金貨200枚
目的:地域の安全
完了報酬が親ばかかもしれない。
主要な冒険者に依頼していたことも親ばかを高めていたが…
リーダーも頼まれた。
ニール察知で場所を特定。ぽつんと幽霊屋敷だった。
ぽつんと幽霊屋敷前に集まった爆炎。
踏み込むとドアが閉まった。
幽霊屋敷で自動ドアとはおしゃれだねぇ。
リーダーは作りは古めかしいのに使われている機能が新しい。
ちょっと感動した。
カチリと音のするものを踏んだ感触があった。
とたんに響き渡る警報。
「ルールに違反しました。ルールに違反しました。…」
周りに壁が出来た。牢屋のように。閉じ込められてしまった。
爆炎にとって木だろうとレンガだろうと閉じ込める素材としては力不足。
簡単に壊せてしまった。
「ルールに違反しました。ルールに違反しました。…」
またうるさくなった。
ルールと言えば何でも縛れると思わない方がいい。
運用が雑なルールは有害なんだぞ。
囲む壁を壊しまくった。
ニール察知によって進んでゆくと、
エレクが居た。気絶していた。
その友達も一緒だった。
確保してさっさととんずら、
ドアは閉まっているので壁を壊して脱出。
ふと見ると幽霊屋敷は満身創痍になっていた。
お大事にと声掛けをしてギルドへ…
帰るとギルド長ハビリが満面の笑顔で迎えてくれた。
あの幽霊屋敷はおかしい事を伝えた。
関わらない方が巻き込まれは起きないとも。
「ルールに違反しました。ルールに違反しました。…」
と煩がったが
ルールって本来は
行動の予測可能性を与える
安心して活動できる土台になる
ためにあるのに、
具体例はなく、
判断基準は示されず、
処分と解除だけが先に来る。
だと、ルールは秩序じゃなくて
ランダムに人を傷つける装置になってしまう。
………
冤罪の服役で刑務所に入れられた者がいた。
刑期を終えて刑務所を出たら砂漠だった。
生きていけない状態に放りだされた。
無責任。
「無罪放免です」って扉を開けられて、
外に出たら迎えてくれる者は1人も居らず。
水もなく道もない。
出所後の支援はゼロ。
その男は住み着いた屋敷で地縛霊となり、
「あなたのためだから妖怪」へと変貌していた。
肝試しに訪れた若者が帰ってこないのは彼の所為だった。
生存者は「何もされていないのに、逃げ場がなかった」と証言。
建物自体は崩れておらず、罠も確認されていない。
魔力反応は“弱いが異常に粘着質”。
人を襲っている自覚がない
自分を「善良な管理者」だと思っている
「ここは安全だ」「忠告しているだけだ」と語る
でも実際には
逃げ道を塞ぐ
選択肢を奪う
近づいた者を“留める”
幽霊屋敷に縛られた
死んだことに気づいていない地縛霊。
若者が被害に遭う理由
屋敷の魔力が自然に散る
判断が常に一歩遅れる
後の調査で分かったことだが
幽霊屋敷を壊そうとした不正解体業者が居た。
不正解体業者も地縛霊になっていた…
幽霊屋敷には
新しい地縛霊は生まれない──はずだった。
でも例外が起きた。
不正解体業者たちは
死んだ瞬間すら、
「作業中断」と解釈した。
二重化する地縛霊
こうして幽霊屋敷には
二種類の地縛霊が存在する。
デストピアX(旧)
管理者
善意
秩序
停止させる者
不正解体業者(新)
作業者
合理性
進行
壊そうとする者
互いに矛盾しているのに、
完全に噛み合ってしまう。
「危険だから止める」
「必要だから進める」
どちらも
自分が正しいと信じて疑わない。
幽霊屋敷が“完成”する瞬間
この時、屋敷は変質する。
破壊されない
維持もされない
永遠に「工事中」
中では
解体計画が立てられ
却下され
修正され
また立て直される
終わらない会議。
終わらない作業。
終わらない善意。
肝試しの若者が戻れない理由
彼らは殺されていない。
「安全確認中です」
「立ち入り禁止です」
「順番をお待ちください」
その言葉に囲まれ、
前にも後ろにも行けなくなる。
誰も殴らない。
誰も縛らない。
ただ“許可”が下りない。
爆炎は撤退する。
勝利ログも、討伐証明もない。
ただ
近づかないという選択だけが残る。
そして爆炎も手を引く「えんがちょ案件」として討伐板に残り続けるのであった。
討伐板・最終更新
案件名:デストピアX
区分:えんがちょ案件
備考:
・接触非推奨
・交渉無効
・討伐実績なし
・関与した者、全員“帰っては来るが何かが欠ける”
なぜ残り続けるのか
討伐板から消えない理由は単純。
被害は出続ける
でも原因は分かっている
それでも誰も“正解”を出せない
だから
忘れられないように残す。
新米冒険者が聞く。
「この案件、何ですか?」
受付は答える。
「見なかったことにしなさい」
デストピアXの現在
幽霊屋敷は今もある。
解体計画は進行中
安全確認は未完了
立ち入り禁止は更新され続ける
中では
管理者と作業者が
今日も互いに“正しい仕事”をしている。
誰も悲鳴を上げない。
だから
誰も助けを呼ばない。
だから爆炎は引いた。
英雄であることを
一度、捨てて。
「討伐しない」という選択をした
リーダー「統治し始めた神は、もう神じゃない。管理者だしな……」
それは討伐でも、解決でもなかった。
ただの事故だった。
ある日、幽霊屋敷は通りすがりの
巨大ケレンケンに踏みつぶされた。




