にのいち
どこもかしこも街中はクリスマス一色。
まあ、現在は十二月上旬なのだから、それは当然のこと。
俺がこの街──清美市に来たのは春真っ盛りの三月下旬。来た理由は、四月から通う大学のキャンバスがこの街にあるからである。
そして、いざ、この街に着いてから俺は途方に暮れた。何故なら、約一週間後から大学生生活が始まるというのに、住む場所の確保をド忘れしていのだ。なにしろ、引っ越しの荷物は手にしたずた袋の中身だけ。前以て荷物を運ぶ事がなかったので失念していたのだ。
俺は駅を出て直ぐに不動産屋を探して、周囲をキョロキョロしていると、奇妙な“もの”が目に留まったのだ。
それは、年の頃十代半ばと思しきぶかぶかの服を着た少年と歩く巨大な二足歩行をする猫。
「──マジか……、アレ。……着ぐるみ……だよな……?」
俺は知らずうちにその少年と巨大な猫を追い掛けて、歩き出していた。
少年と巨大猫の後を追うこと暫し。
ふと、我に返り周囲を見渡すと、不気味な路地にいた。
其処は、コンクリート塀に挟まれた一本道で、先を歩く少年と巨大猫以外の人影が一つも無い。
俺は心の内に生じた“言いようのない恐怖感”に急き立てられて、先を行く少年と巨大猫の後を必死に追った。
そして、気付くと俺は『にゃんてSHOP』──現在の『下宿先』に辿り着いたのだ。
そこからは、この世界を覗き見ている諸氏らが知っている通り、俺は『にゃんてSHOP』の店長──音恋さんと出会って、なんやかんやあって、“住み込みアルバイト”として下宿させてもらうことに──。
──キキキッ。
乗車していた車の停車音に意識は現在に戻る。
本日は十二月二週目の土曜日。
俺は『にゃんてSHOP』のアルバイト店員として、ご近所の子ども会が行うクリスマスパーティーの会場の公民館に来ている。
目的は『子ども会のクリスマスパーティーの手伝い』──要は『依頼』だ。
この依頼には店長の音恋さん・副店長の詩音さんを含めた“街の何でも屋『にゃんてSHOP』”の店員の全員が関わっている。
さて、俺の担当は基本雑用係だ。
『お店』の車から降りると俺は、
「それじゃ、君は子どもたちのパーティー会場の飾り付けの仕上げを手伝ってあげて」
「わかりました」
音恋さん──店長の指示を受けて、公民館の中庭へ。
公民館の中庭と中庭に面している公民館の建物内の多目的スペースが今回の子ども会のクリスマスパーティーの会場だ。
「おはようございます、『にゃんてSHOP』です。お手伝いに参りました。」
俺は多目的スペース内で作業している子どもとその親御さんたちに挨拶し、多目的スペースの中へと足を踏み入れる。
多目的スペースの床にはシートが敷かれており土足でも大丈夫になっている。
「あ、『にゃんてSHOP』のお兄さん、いいところに!
この飾り、あそこに付けたいんだけど──」
さっさく、お声掛かりだ。
俺は声を掛けてきた子どものところへ向かい、声を掛けてきた子どもから飾りを受け取ると、パーティー会場の飾り付けを手伝う。
「おう、任せな」
──昼に差し掛かる少し前。
公民館の中庭と多目的スペースに設けられた“子ども会のクリスマスパーティー会場”は完成した。
子どもたちはまだクリスマスパーティーが始まってないのに大はしゃぎし、親御さんたちもはしゃぐ子どもたちを見て微笑んでいる。
「お疲れさまのところ悪いんだけど、君、料理を運ぶの手伝ってもらっていい?」
「はい、大丈夫です」
店長の次の指示に俺は“まだまだ力は有り余ってます”とアピール。
「ありがとう。それじゃ、間もなく“子ども会のクリスマスパーティー”が始まるから、とっとと運びましょう」
俺は店長の言葉に頷くと、店長と共に料理をせっせとクリスマスパーティー会場のテーブルの上へと運ぶのだった。
「「「「メリー、クリスマス!」」」」
子ども会の子どもたちの掛け声が上がり、クリスマスパーティーが始まる。
俺ら『にゃんてSHOP』の面々は会場の隅に待機し、料理やケーキや飲み物等の補充を担う。
子どもたちの朗らかな笑顔と笑い声で、賑やかな雰囲気に包まれるクリスマスパーティー会場。
「……あ?」
そんな中、ふと頬に冷たさを感じた俺は空を見上げる。
どんよりな曇り空。
その曇り空の雲から“白い粒”が降りてくる。
「──雪だ!」
そう、それは『雪』。
声をあげた子どもにつられて他の子どもたちも空を見上げる。
しんしんと降り出した雪。
それと、同時に──
──シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン……♪
──鈴の音が響いた。
実にドンピシャのグッドタイミング!
鈴の音は『子ども会のクリスマスパーティー会場』へと徐々に近付いてくる。
子どもたちが耳を澄ませて、鈴の音の出所を探しにかかる。
なにせ、クリスマスのメインキャラであるサンタクロースのご登場なのだ。子どもたちが色めき立つのは致し方ないこと。
俺にも、幼少の頃のクリスマスにサンタを待ち侘びた思い出があるからな。
「──あ! トナカイとソリが──!?」
「──お空、飛んでる!」
どうやら、子どもたちは鈴の音の出所を見付けたようで、皆、空を見上げていた。親御さんたちも、子どもたちにつられて空を見上げ、信じられないモノを見たような表情に。
然もありなん。
なにしろ、マジでトナカイ──本物そっくりのロボット──一頭と、そのトナカイに牽かれたサンタが乗ったソリが空を飛んでこの“クリスマスパーティー会場”に向かってきているのだ。
鈴の音と共に空から降りてくるサンタを乗せたソリ。
「ホッホッホッ、メリークリスマス!」
クリスマスパーティー会場の空きスペースに無事に着陸したサンタのソリ。
サンタはソリから降りると、サンタコスをしている助手のサンタガールたち──きびさん、希ちゃん、叶ちゃん、カレンちゃんの四人──から、子どもたちへのプレゼントが入った袋を受け取ると、先の掛け声を子どもたちへと向けて発した。
因みに、サンタは特殊メイクを施した詩音さん──副店長である。声もボイスチェンジャーで老人風に変えて、見た目もサンタ服の中に綿を詰めてふくよかになっている。
子どもたちは我先にと空から登場したサンタに群がり、プレゼントをねだる。宴もたけなわというヤツだ。
そこからは見てるだけのこちら側も思わずホッコリするような、子ども会のクリスマスパーティーだった。
やがて、クリスマスパーティーも終盤。
副店長が扮するサンタが、
「──来年もまた、いい子にしてるんだよ。」
と、子どもたちに声を掛け、空の袋をソリの荷台に載せ、ロボットのトナカイとソリを空に浮かせるのに必須な希ちゃんとカレンちゃんを伴い御者台に座ると、子どもたちに手を振るサンタを乗せたソリは颯爽と空へと帰っていた。
サンタに手を振り見送る子どもたち。
因みに、サンタと一緒に登場した時はサンタガールをしていた、きびさんと叶ちゃんは子どもたちへのプレゼント配りを終えた後は『お店』の制服に着替えて、俺や店長と同様に雑用係に徹していた。
子どもたちはクリスマスパーティーお開き後は親御さんと共に家に帰る。
そして、俺たちはパーティー会場の後片付けだ。




