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ねこの手、貸します。 冬  作者: 白月 仄
にゃん一章 時の旅人(?)
6/12

いちのご

 ──さて、午後もクリスマスシーズンに突入したといっても普段と差して変わらず、常連さんがいつも通りにカフェに来たり、依頼の舞い込みはこれといってなかったり。あー、そろそろ、カレンちゃんや歌音ちゃんたちが帰ってくる時間です。同時に、猫カフェが学校帰りの生徒達で賑わう平日のピークの時間帯に。


 ──コロンカラン~♪


「いらっしゃいませ」

 早速、学校帰りの生徒達が猫との戯れやケーキ等を求めて続々と来店してきます。

 『にゃんてSHOP』は教育機関が集中している西区と清美市の玄関口にして観光の拠点となる宿泊施設が多い南区のほぼ中間の南西の区画にあり、更に東区にお店を構えている全国区に名が知れているケーキ屋『Melodia』のケーキを扱っている事も相まってケーキに眼がない女子高生等の呼び水になり、更に更にそんな女子高生をはじめとした女性との出会いを求める男性諸氏等までもがやってきて賑わいが増します。

 特に色恋沙汰を絡めたイベント事が近付くと、出会いを求めるお客さんの数は倍増。

 現に学校帰りの女子高生のグループが3組ほど来店した直ぐ後に同じく学校帰りの男子高生が来店してきてカフェのカウンター席に陣取ると先に来店していた女子高生グループをチラチラと眺めていたりします。

 そして、アタシがそんな彼等を横目に観察している合間にも次々と学校帰りの生徒達が来店てしてきていて、猫カフェはあっという間に八割方の席が埋まってしまいました。


 ──コロンカラン~♪


「こんにちは~♪ 来店早々不躾ですが、メアリ、いる~?」

「いらっしゃいませ──って、芽呂めろ君!?」

 新たに来店したお客さんに普段通りに対応をと思ったら、そのお客さんはアタシの知り合いで友人の井出いで 芽呂君。確か、芽呂君の現自宅は隣県の大宮辺りだったはず。それに、芽呂君の仕事はモデル業で、しかも芽呂君がマネージメント契約している事務所は“本格派を謳っている”とかでモデルを用いた商品等の広告写真や動画撮影の依頼に於いて背景合成なんて当たり前の今のご時世に態々背景に選んだ現地にまで出張って撮影を執り行うという時間とお金の掛かることをしているらしく、普段は日本中はおろか世界中を飛び回っていて、「家にはなかなか帰れない」と今年の夏に此処──清美市にアタシ訪ねて遊びにきた時に愚痴ってました。

「やあ、メアリ♪ 来ちゃった♪」

「はい? 「来ちゃった」って言われても……???」

 芽呂君の発言にアタシは意味不明で混乱をきたします。なにしろ“何故?”・“如何して?”が完全に抜け落ちているので。

「あ! そうだった、そうだった。実はね、俺、前の事務所との契約が満了したから今度この清美市にあるモデル事務所とマネージメント契約を結んだんだよ。それでついでに清美市ココに引っ越してきたんだ。そして今日がその引っ越しで、引っ越し作業が一段落ついたところで、急にメアリに会いたくなってね、こうして“来ちゃった♪”んだ」

「……な、なる程……。そうだったのね……」

 ……そういえば、芽呂君は大学生時代に出会った当初からヴァイタリティがスゴく、資格や免許の取得をいの一番にしていて交友や他者とのコミュニケーションを二の次にしていた当時のアタシに、周りが引くくらいにグイグイと声を掛けてきて終には根負けしたアタシは芽呂君と交流するに至ったことは現在いまでもまざまざと思い出すことのできる思い出の1つです。

「──あれ、もしかして、井出さん?」

 声の聞こえた方を向くと、メェ~君が『お店』の受付カウンター──こちらへと顔を出して、芽呂君を見て顔を綻ばせます。

「!? ……おや? やあ……日立君じゃないか! まさか、詩音しおんさんのライブやサイン会会場以外で会うとは奇遇だね」

 芽呂君もまたメェ~君の顔を見て、顔が綻びます。

「ん、ああ、そうだな」

 なともまあ、芽呂君とメェ~君が顔見知りとは! でも、確か芽呂君もメェ~君も詩音さんの熱烈なファン。今し方も「──ライブやサイン会会場──」と芽呂君が言ってたので2人が顔見知りなのは確かのようです。

 それにしても、なんとも奇妙な縁ですね……。片や大学生時代からの友人と片や中学生時代の友人がアタシの与り知らないところで知り合いだったとは、先にも述べた通りホント奇妙な縁です。

「それにしても、いいな~、日立君は。──確か、少し前から日立君が働いているカフェの方で詩音さんが時たま生歌を披露してくれる事があるらしいから、日立君は聴き放題だね」

「──え!? そうなの?!」

 芽呂君が振った話題にメェ~君は過敏に反応して真偽をアタシに問い掛けきます。

「え、ええ。副店長──詩音さん、依頼がなくて暇なときに偶にカフェフロアでギターを持って弾き語りをやってるわよ。ただ、ここ最近は少し忙しかったから……」

 そのメェ~君の問い掛けにアタシは芽呂君が話した内容が合っていることを肯定。

 すると、メェ~君はなにやら滾ってきたようで、突如、

「──く~っ-!! マジか!! そういや、僕の歓迎会の時に生歌を聴かせてもらって以来、まだ、詩音さんが唄の練習している姿さえも見掛けてねー!!」

 周囲のことなどお構いなしに吼えました! ──って、仕事中だよ、メェ~君……。

「これこれ、なる君。時分は忙しい時間帯ですから、友人とバッタリ会えて話に華を咲かせるのは、ご友人には悪いですが後にして下さい」

 突然の咆哮にカフェフロアのお客さん達までもがメェ~君に注目する中、マスターさんがメェ~君を窘めます。

 マスターさんのよく通る慇懃にみちた声に、

「──!? す、すみませんでした! 仕事に戻ります!」

 メェ~君は我に返り、そそくさとカフェフロアの方へ戻っていきます。

「──……いやはや、日立君に悪いことしたかな……」

 戻っていったメェ~君の後ろ姿を見て芽呂君はそう零します。

「──やあ、そこのキミ。今度一緒に御茶しない?」

 メェ~君の後ろ姿を見詰める芽呂君に声を──というよりはナンパする誰か。

 声の主の方に視線を向けると其処には詩音さん──副店長と音色さんの姿があります。そして、芽呂君をナンパしたのは案の定──音色さん。

 聞けば、音色さんのナンパ失敗率は現在進行形で100%だとかで、希ちゃんから聞いた何処が出所か分からない都市伝説によれば『音色さんがナンパに成功したら、明日は槍が降る』というモノがあるんだとか。

 まあ、それだけ音色さんのナンパが失敗するのは規定事項らしいです。

 さて、そんな音色さんにナンパされた芽呂君の返答は如何に?

「──おいおい、かなで。あの子は──」

 しかし、芽呂君が返答をするより先に副店長が音色さんのナンパを止めに入ります。

 音色さんは副店長の制止に、

「──男のってヤツなんだろ──んなことは分かってるよ!」



「「「「ええー!」」」」



 音色さんの口にしたなんでもない一言に驚愕の唱和を響かせるお客さん達──って、はい?

 カフェフロアにいるお客さん全員が“驚愕の事実や信じられないモノを視た”的な眼になっていて、その光景にアタシをはじめ『お店』のみんなも音色さんも、そして、驚愕の視線の的になっている芽呂君も呆気にとられます。

 そんな異様な雰囲気に満ちた空間の中で、お客さん達の中の1人の女子高生がお客さん達の代表としてか次の質疑を芽呂君に向けて投げ掛けてきます。

「……あ、あの、モデルのM.E.L.O.さんって、女性……ですよね? ね?」

 質問をしてきた女子高生の声は震えていて、更に声の中には不安の色が濃く出ています。

 さて、ここで少しばかり芽呂君に関しての補足説明をすると、今日の芽呂君の見た目は冬定番のゆったりとしたニットのセーターに足下に届くほどのロングスカート。髪は少し伸ばしたショートで目鼻立ちはすぅーっと通った美人顔。テレビ等の表立ったメディアへの露出は少ないですが、ネット上では芽呂君のファンの数は既に其処らの有名モデルと肩を並べるかそれ以上ほどには十二分にいて、2年連続で“モデル人気投票”の“『()()()()』”で獲得票数差が2位とダブルスコアで1位という快挙を成し遂げてしまったほどの超人気のモデル。されど、芽呂君は列記とした男性。夏に先の結果の事を話してくれた時の芽呂君の顔はなんとも複雑な形容し難いものであったことは記憶に新しいです。

 話を戻すと、先の代表して質問をしてきた女子高生はじめ『この場』にいる大多数のお客さん達は、芽呂君が女性であると思い込んでいたのでしょう。

 アタシも出会った当時は“もしかして、芽呂君は実は女性なんじゃ……?”と疑ったことがありました。

 なにしろ、芽呂君の言葉遣いは普遍的な男性のモノで一人称も“俺”なのですが、声が一般平均的な男性よりもはるかに高く“明らかに女性の声”に聞こえるのです。その上、外見も女性と見紛うほどの美人ですから。

 音色さんの発言によって齎された驚愕に充ち満ちた場の雰囲気は、女子高生の質問により今度は緊張感に溢れ、ついさっきまでお客さん達の雑談や談笑の喧騒に溢れていた『店内』はシーンと静まり返っています。

 ──ゴクリ。

 お客さん達の中の誰かがツバを呑み込む音が異様なまでにやけに響き、場の緊張感を増長させます。

 そして、そんな静寂に支配された空間の中で芽呂君が徐に口を開きます。

「……あー、えーっと、別段、俺、自分が男であることを隠してたつもりは無いんだけどな……。名鑑にもちゃんと性別の欄には“男性”って表記してあるし……」

 ……………………

 場に落ちる言い様のない二度目の沈黙。ですが、その沈黙は直ぐ様、次なる様々な個人的感想・意見や怒号が『店内』に響き渡り、静寂が打ち破られます。

「──綺麗すぎる美人が実は男性って、よくある話よね──」

「──キャラ付けの演出かと思ってた──」

「──ウソだ!!──」

「──頼む! ウソだと言ってくれ!!──」

 「──黒歴史に新たな一ページが……──」etc....

 様々な反応を見せるお客さん達に芽呂君は苦笑いをしながら、

「っていうか、今時、女性と見紛う男性なんて差して珍しくはないじゃない?」

 そんな言葉を返します。

 アタシも芽呂君の意見には同意。今のご時世、女性と見紛う男性なんて「其処ら中に」とは言いはしませんが流行スポットなどに出向いて探せば1人や2人くらいは直ぐに見付かることでしょう。

 しかし、お客さん達はそうではなかったようで──


 ──フルフルフル……


 見事なまでにシンクロした首振りとジェスチャーで、芽呂君の言葉を“否”と断じます。

 その様はまるでフラッシュモブの如し。

 …………。

「……珍しくないと思うんだけどな、俺は……」

 そして、お客さん達のシンクロ首振り否定ジェスチャーの後に訪れた束の間の静謐は数秒と保たずに芽呂君のひとりごちりと共に終わりを告げ、お客さん達の大多数は雑談や談笑へと戻っていきます。

「──ま、ちとワンクッションあったが、どうだいM.E.L.O.君、おれと今度“御茶”してくれる?」

 場の雰囲気が常態復帰したところで、改めて芽呂君にアプローチを試みる音色さん。

 そんな音色さんのアプローチに芽呂君は、

「う~ん、そうですね……、詩音さんがご同席してくださるならオーケーです」

 実質『ノー』と音色さんの誘いをお断りします。

 されど、音色さんは食い下がり、

「ちょっ!? なんで、詩音の奴が同席じゃないとダメなの? 男同士なんだし、さしで御茶したって何も問題は──」

 芽呂君へのアプローチを続行。

 そんな音色さんに芽呂君がダメ押し──もしくは、トドメの一言を刺します。

「──世界的に有名な作曲家の音色さんからの御茶のお誘いは大変嬉しいのですが、ホラ、俺って見た目が“女性似こんなん”ですから、誤解を招いて音色さんの“ナンパ不勝ふしょう伝説”にキズがついてしまっては申し開きようがないので。ホント、すみません」

 頭を深々と下げてまでの芽呂君の“お断り”の返事。

 それに音色さんは、

「…………ああ…………、我が世の春は永遠に来ないのか……?」

 意気消沈してしまい、ふらふらと詩音さんへの挨拶もそこそこに『お店』を後にします。



 そんなこんなで今日も無事に営業は終了し、芽呂君との思わぬ再会以外には特にこれといった大事もなく、普段通りの1日が過ぎていきました。

 しかし、この時のアタシは正直言って、先々月後半から先月の初旬まで行われた街ぐるみでの“オータムフェス”の準備からフェス開催期間の多忙期を乗り切ったことに自信を得ていて“クリスマスシーズン”の本当の“多忙さ”の怖ろしさに気付いていませんでした────





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