いちのよん
さて、『お店』が開店してから早数時間。
時刻はそろそろお昼時。
『お店』自体は今日のところは普段と変わらず、平日故に依頼に来るお客さんは今のところナシ。ねこカフェの方はやはり平日なのでぼちぼちと、のんびりと時間が過ぎていきます。
「あ、きびちゃん、お昼を食べた後でいいんだけど、ネットで入ってきてる依頼の予約の整理をお願いできる?」
「はい、分かりました。じゃあ、先にお昼休憩にはいります」
「ええ。
あ! ついでで悪いんだけど、私や詩音くんたちのお昼ご飯も作ってもらえる?」
「はい、いいですよ。では、自分の分も含めてまとめて作っちゃいますから、皆さん、何がいいですか?」
「そうね……。私は、パスタなんかがいいかな。ソースは和風茸スープ仕立てで」
「んじゃあ、オレはペペロンチーノがいいな。確か、振り掛けタイプのがまだあったはずだから、ソイツを出しておいてくれ。そしたら、後は自分でやるから」
「はーい。店長が和風茸スープ仕立てで副店長がペペロンチーノ(振り掛けタイプ)ですね。
メェ~君は?」
「ん? ああ、じゃあ僕はスミスが食べるのと同じでいいよ」
「ん、わかった」
「『あ! オレ様はシーフードな!』」
「あー、はいはい、アサリのパスタソースにツナ缶和えね」
「『ちっが~うっ! シーフードだぞ、小娘!! エビにホタテにイカetc.……』」
「………あのねぇ……、そんな本格的なモノを作ってる時間なんてないの。食べたきゃ、自分自身で作ってよね」
「『ンだぁと!』」
アタシはペンギンの更なる抗議には取り合わず、『お店』と居住区の間仕切りになっているドアを開けてくぐり、居住区に入って直ぐにある台所へと移動すると、早速、皆の分を含めた昼食作りに取り掛かります。
ペンギンとの一波乱があった昼食もなんとか無事に終えて、昼食前に店長に頼まれた“ネットでの依頼の予約の整理”にアタシは従事します。
『お店』の受付兼レジカウンターに置かれている据え置き型──デスクトップパソコンのモニターを点けて、早速、『お店』のHPを開き“依頼受付”のタブをクリックして開くとズラリと着信している依頼予約が表示されます。
まずは其れ等を依頼のカテゴリで振り分け。
カテゴリは大きく分けて『クリスマス関係』の“イベントの手伝い関連”・“店頭販売の臨時店員等”・“その他”と“クリスマス関係ナシの普通の依頼”の4つ。
数秒と経たずとして、依頼の振り分けは完了し、各カテゴリ毎の依頼予約の数が表示されます。
……やはり、依頼数が一番多いのは“店頭販売の臨時店員等”の依頼で、次に多いのがなんとクリスマスに因んだ“その他”の依頼。
少し気になったので“その他”のカテゴリに振り分けられた依頼の内容を覗き見。
……えーっと、まずは、
──『イヴの夜を過ごす、1日彼氏になってください』──
副店長──詩音さんを指名しての依頼だ。しかし、意外と『アタシたち』って、街の皆に顔を覚えてもらっていたようで、私用で出掛けた際に初顔合わせの相手によく挨拶をされる。なので、『1日彼氏』といった所謂“レンタル○○”的な依頼は「顔バレしているので無理」と店長直々にお達しが出ている。
ついでに述べれば、詩音さんはイヴの夜とクリスマス当日の夜には歌手活動のディナーショーが入っているので、どのみち“1日彼氏”は無理だ。
そして、他の“その他”の依頼を覗いてみると、最初の1件と同様の依頼がわんさか。
何れも、残念ながら“依頼お断り”のボックスに移動して、“依頼お断りのメール”を自動送信。
これでよし。
途端に“その他”カテゴリの依頼数は激減し、“その他”の依頼の残りは数件。
さて、では残った“その他”のカテゴリの“依頼”は……と。
……。
…………。
………………。
他は…………うん。後回し──もしくはほったらかしにしておいても大丈夫な依頼ね。じゃあ、留意のボックスに移動と。
アタシは依頼予約の“その他”カテゴリの整理を終えて、次に“店頭販売の臨時店員等”のカテゴリの依頼の確認にはいります。
…………ふむ、やっぱ一番依頼予約の件数が多いだけであって、確認作業だけでもひと苦労。
ですが、取り敢えずは商店街毎に依頼を集約して、管理ソフトの恩恵を受けて時間指定がある依頼は一覧表にします。
ズラリと一覧表に並ぶ依頼の予約。
すると、なんということでしょう。出来上がった依頼予約の一覧表は各商店街できっちりと──というのは言い過ぎかもしれませんが、各商店街毎で時間指定のある依頼予約はすべて同じ商店街のお店とは被ってはいません!
大方、各商店街毎で前以て話し合っていた可能性がうかがえます。
さて、一先ず、これで店長に頼まれていた依頼予約の整理が一段落。残りのクリスマス関係のイベントの関連依頼予約は店長直々にやるから、後は通常の依頼予約。こちらは……、あー……うん……。特段、変わった依頼予約はなさそうですね。
よし。依頼予約の整理、完了──と。
──ピロピロリン♪
おや? 新着の依頼予約です。
早速、アタシは新着の依頼予約のメールを開けてみると、ソコには──
『今朝までに各商店街組合加入店舗からの当方へ入れた依頼予約に関して』
──と題されたいます。そして、メールの内容を読み進めてみると……、……これは……。
「店長ー! ちょっと来てもらえますかー?!」
アタシは新着のメールの内容に直ぐ様、店長を呼びます。何故なら、一店員のアタシでは判断しかねる内容だったのです。
「なーに? きびちゃん」
丁度、昼食を取り終えて居住区と『お店』の間仕切りになっている扉をくぐったところにいた店長はアタシの呼び声にすぐに応答してくれて駆け付けてきてくれました。
「店長、新着のメールなんですが……」
「どれどれ……」
アタシは店長に席を譲って、先の新着メールを見てもらいます。
「…………ふむふむ……、ナルホド……」
メールの文面を幾度となく繰り返し読んだ店長はしばし熟考すると、次なる指示を出します。
「……うん、分かったわ。先方に“了解”の返事をしておいて」
「分かりました。」
「それじゃあ、午後の業務も元気よく頑張っていきましょう♪」
「はい!」
──コロンカラン~♪
「いらっしゃいませ♪」
気合いを入れた直後、『お店』のドアが開かれ来客を告げます。
「ちわー。詩音の奴いる~?」
「あら、閑く……──」
「──奏! 頼むよ、店長、本名で呼ばないでくれって何度も言ってるだろ……」
「はいはい、いらっしゃい、奏くん。詩音くんならお昼食べてるから上がっていいわよ」
「そ。んじゃ、お邪魔します」
来客は世界的に有名な作曲家の音色 奏さん。副店長──詩音さんの旧知の仲の友人で、詩音さんが歌手活動で出している曲の何曲かは音色さんが作曲した曲なんだとか。
音恋さん──店長から許可を得た音色さんは基本的に関係者以外立ち入り禁止の居住区へと続く扉を開けてくぐり、現在昼食中の詩音さんがいる台所へと消えていきます。アタシはそんな音色さんの後ろ姿を見送ると、先程、店長から仰せ付かった事に取り掛かります。先ずは各商店街組合への返信から──




