いちのに
昨日の、“『タイムトラベラー』”を自称する謎の少女による一騒動から明けて翌日。
音恋さんは、「ホント……、なんなのかしらね、あの自称タイムトラベラーさん……」と、一先ず『にゃんてSHOP』に居候させることにした件の少女をそう評しました。
ただ、アタシはそれよりも昨日にその彼女に付き添って図書館に行った時に何もせずにいた事による精神的な疲れが取れきれず、今日、朝起きたときに億劫な気分に。
しかし、そんな泣き言は言っていられません!
何故なら、
「はい、みんな! 今日から十二月! 今年最後の書き入れ時の到来です!!」
朝食後の場にて、音恋さんが食卓に居並ぶ、詩音さん・歌音ちゃん・カレンちゃん・アタシ・メェ~君・大学生さん・ペンギン・マスターさん・人よりも大きい巨大猫のみぃ・ねこカフェで飼われているねこ達──『にゃんてSHOP』の住人に向けて宣言します!
「例年もこの時期は、かなりの数の依頼が舞い込んでいましたが、今年は新たな仲間たちが増え、みんなの頑張りのお陰で『我らがお店』の認知度・信頼・信用は鰻上りとなり、事前の依頼の予約が例年の倍以上入っています!」
おおー! 『アタシたち』の努力が実ったというやつですね!
しかし、依頼が沢山入ったってことは店員のアタシたちは大忙しということ。これが俗に言う“嬉しい悲鳴”か。
「『ああ、その通りだぜ、小娘』」
……まったく、ペンギンは相も変わらず勝手に他人様の心の声を読み取るんだから……。
「そして、今現在も続々と“依頼の予約受付サイト”には依頼が舞い込んでいます!」
音恋さんは“ばぁーん!”といったSE音が鳴そうな所作で透明な板──超高性能タブレットPCを取り出して、『お店』のHPを開きます。すると、
「マジかよ! コイツは確かに軽く例年の倍以上だな!」
「うわー! どれもこれも、クリスマス関連だ」
「そりゃ、そうよ、だってクリスマスシーズンだもの」
タブレットに映し出された『お店』のHP画面には次々と新着のポップがひっきりなしに現れています。
音恋さんの近くに座っている詩音さんとカレンちゃんがタブレットの画面をのぞき見した感想に、音恋さんがそうなっている理由を口にします。
クリスマスか──。
思えば、資格や免許の取得に熱意を傾けていた中学三年生から去年に至るまでのアタシにはクリスマスは周囲や世間が騒ぐ催し事としか、写っていなかったな……。
「『クリスマスをガン無視とか、スゲェーな小娘! っつうか、小娘はヒトの枠の中じゃかなり良い見た目なんだから、こういった恋人云々を関連付けしているイベント事でコナ掛けてくる連中とかいなかったのか?』」
…………ああ、
「確かに、ペンギンが言うように、例年のそういったイベント事が迫ると、一度も口をきいたことのない男子から幾度も声を掛けられたことはあったわね。でも、資格や免許を取る為の勉強の邪魔でウザかったから、通信講座で段位を取った“竜の穴式格闘術”で追い払ってやったわ」
「『──なん……だと!? 小娘、あの伝説の竜の穴の格闘術を体得しているのか?!』」
ん? はて、ペンギンはいったいなににそんなに驚いているのだろうか? “竜の穴式格闘術”なんて、如何にもな名前が付いてるけど、昔からある空手やら柔術やらの技や動作を綯い交ぜにしたような格闘術で、一番下の初段を取得した時にふと疑問が生じて調べてみたら案の定、俗に言う“俺の考えた最強の格闘術”的なシロモノだってことが判明。
そこで、こういった素人考案の格闘術の段位を持っていても将来で役に立つ可能性は低そうだからと、辞めてしまったのだ。
ただ、初段を取得するのに体得した竜の穴式格闘術はどうやら確りと身に付いているようで、意識して使おうと思えば身体が勝手に動くので、ウザかった男子達を追い払うには大いに役立ってくれた。
「『──ほう、初段でもソコまでなのか!? やっぱ、竜の穴式格闘術はスゲェーな!』」
「そうなの?」
「『ああ。小娘は知らんだろうが、今現在の総合格闘技界のトップランカーの半数──しかも、男女共に──が、竜の穴式格闘術の免許皆伝者なんだぜ!』」
「へぇ~、なんかスゴいねー」
「『なんだ? 小娘は格闘技に興味無いのか?』」
「うん、無い」
「其処! いま、お仕事の話を為てるんだから、関係ない私語は後にしてちょうだい!」
「あ、はい、すみません」
「『おう、ワリぃ』」
ありゃりゃ、音恋さんに怒られてしまった。反省。
「さて、現在、舞い込んでいる依頼を大まかに分類すると『クリスマス商戦の手伝い』と『清美市市内の各所で催されるイベントの手伝い』になります。ちなみに、後者の『クリスマスイベントの手伝い』の殆どに関しては私と詩音くんとで前以て依頼者と打ち合わせをしているので、依頼を受けることは確定なので、みんなには悪いんだけど、土日とイヴとクリスマス当日に予定は入れないでほしいわ。あ、でも、カレンちゃんや歌音ちゃんは友達からの誘いがあった場合は、ソッチを優先していいわ。あ、それと、君も彼女とかいるならイヴか当日の何方か片方の夜は空けてあげるわよ。序でに、希と叶もね」
ん? 希ちゃんと叶ちゃん?
音恋さんの視線の先。辿ってみると、其処には星御海学園の冬服の制服に身を包んだ見た目瓜二つの双子の姉妹の希ちゃんと叶ちゃんがいました。
ふと、時計を見てると、そろそろカレンちゃんや歌音ちゃんは登校の時間だ。
「え? いいの? 去年なんて、詩音さんが突然の歌手の仕事で抜けた穴を有無を言わさず手伝わせたクセに……」
「大丈夫、大丈夫、今年はきびちゃんがいるし、もしもの時は彼や羊くんもかり出すから」
「ちょっ、音恋さん、僕はカフェの店員として雇われたのであって、『お店』の方の手伝いはしなくていいって……」
「そうだっけ? でもね、羊くん、状況は刻一刻と変化していくものなの。だから、以前に「『お店』の手伝いはいいから」って私が発言したからと、忙しく働くみんなをのほほんと見ているだけってのは薄情じゃないかなと、私は思うんだけど?」
「──うくっ! わ、わかりましたよ、僕も『お店』のお手伝いします!」
「いや~、わるいわね、羊くん。助かるわ」
言葉巧みにメェ~君に『お店』の手伝いを確約させる音恋さん。流石です。
さて、それはそうと、
「仕事の話し中悪いけど、カレンちゃんも歌音ちゃんも早く着替えないと、遅刻よ!」
『お店』にやってきた希ちゃんと叶ちゃんはカレンちゃんと歌音ちゃんと一緒に登校する為、迎えに来くるのがここ最近の日課になっている。
なので、2人に登校の準備をせっつくも、カレンちゃんと歌音ちゃんは余裕をみせ、そして、希ちゃんたちに衝撃の事実を告げます。
「希さん、今日から冬時間──始業時間が三十分遅くなる──ですよ」
「…………あ! そういえば、そうだったわね。あたしとしたことが、抜けてわ」
はて? 歌音ちゃんが口にした冬時間とは何ぞ?
「あの、歌音ちゃん。歌音ちゃんが言った冬時間って?」
「あれ? きびさんが小中高生時代にはありませんでした?」
「うん、アタシが小中高生の時代に無かった」
「そうなんですか。じゃあ、説明しますと、雪が降る地方では雪が降ると、交通機関に支障がでたり、積もった雪で足元が悪くなって、登校するのに大変にります。なので、そういったことを考慮して、雪の降りやすい十二月から冬休みを挟んだ一月末まで学校の始業時間を公立私立問わずに遅くするんです。ちなみにここら辺は三十分遅くなるんです。」
「へぇ~、そうだったの。アタシの実家は南の方だから、雪なんて降ってもすぐに溶けちゃうから、冬時間なんて無かったわ」
そういうことか。冬時間ね。時計の針自体を弄くる外国のサマータイムと違って、物事を始める時間をズラすだけで効率的ね。なんで、サマータイムを考えた人は時計の針自体を弄くることに思い至ったのかしら? 時計の針をいちいち弄くるとか面倒よね……。




