表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よむシリカ  作者: RiTSRane(ヨメナイ)
5/18

第5章「シリカと服飾教師」

 魔法学園には魔法理論と実技以外に一般教養の授業もある。また、魔法へのアプローチによって学科を選択することができる。教養として最低限の魔法習得から初級の魔術師を目指す魔法学科、魔獣や生物全般の専門家を目指す生物学科、魔法の歴史を研究する魔術史科などが存在する。魔法のすべてを極める魔導士を目指す者は、全ての学科を履修するまで卒業しては再入学を繰り返すこともあり、受験資格に年齢の制限は無い。


 学園は様々な実験機材や防災設備を備えている関係で学費が高く、志願者に占める富裕層の割合も多かった。だが経済的な理由で入学が困難な志願者への救済措置として各地の貴族が奨学金制度を設けているほか、学園の学生課ではアルバイトの斡旋も行っている。


 一般教養だからではないが、この魔法学校の1年次には一見魔法と無関係そうな裁縫の授業に少なくない時間が割かれている。

 これは学園の特殊な制服事情に起因している。


 魔法学園の制服。学園の生徒であることが社会的ステータスであり校則でも「誇りをもって着用すること」が推奨されていたが、この制服自体も普通ではなく、魔法事故から生徒を守るための特別な処置が施された魔法服であった。


 火傷、刃傷など、魔法の失敗から受ける傷は多様だが、学園制服は授業中に起きる魔法事故から生徒を防護するために開発された。特製の専用生地は「受動的防御布」とも呼ばれ、詳細は秘密だが、衝撃を受けるとそれを相殺する衝撃波を発生させダメージを軽減する、感応装甲の一種だと思っていいだろう。

 緊急時にはマジックスクロールの原理で防御魔法を展開することができる他、少々の擦れくらいなら自己修復する機能がある。肩から背中まで届く大きな後襟をフードの様に被ることで更に防御力を高めることもできる。


 そんな生地で作られた制服はなかなかに高価な代物であり、余程の金持ちでなければ在学中の3年間、2,3着の制服を直しながら着るのが普通のことだった。しかし、この制服は卒業後は仕立て直して私服として、或いは冒険者の服として擦り切れるまで着られるタフな代物である。老齢の魔法使いが経済状態に関係なく纏っているくたびれたローブというのは、実はそうして着続けた制服だったりするのだ。


 レイラ達が入学する以前には、傷ついた制服の修繕は生徒自身が行っていたが、裁縫の得意でない生徒が他の生徒に対価を支払って修繕を依頼することも多く、心得がある生徒には有望な収入源であった。こうした依頼のやり取りはもっぱら個人の伝手だったが、工賃が統一されていないなどの問題を解決するため学生課に修繕依頼・募集用の掲示板が設置され、工賃の目安が制定された。この掲示板と、管理を担当する職員を総称して「裁縫ギルド」と呼んだ。


 この掲示板の利用者があまりに多かったため学園理事会は裁縫を魔術師に必須の技能と認め、教養科目に裁縫の授業を取り入れ、後に服飾科を設置することになるのである。現在では裁縫ギルドも服飾科の管轄に移動しているが、掲示板は学生課にも設置されている。


 服飾科では実践的な縫製の授業に加えて、学科として魔法服の変遷と時代的背景、個々人の魔法適性に合わせたより強力で効率の良い魔法服の研究などを行っている。比較的新設の学科のためまだ生徒は少なく、卒業後はそのまま研究者として学園に残ったり、「城下町」や各地の魔術師ギルドで修繕を請け負ったりしているが、いずれ大きな産業になると見られている。



 生物教師がシリカを解剖しようとした日から数日。


 先述したように魔法学園の制服は特別製であり、どれだけ傷もうとも捨てるという選択はまずない。

「限度がありますよ、大事な制服をこんなにするなんて何をどうしたんですか!」

「すまない、私がうっかり透明化の魔法をかけてしまって」

「透明化!?生徒の制服を透明にして何をしていたんですか?!」


 怒気のこもった声で追及された生物教師は堂々と答えた。

「もちろん内部を透視しようとしたのだ。透視魔法が効かなかったので服の方を・・・」

「何てこと!前から変な人だと思っていましたが生徒に手を出すなんてッ」

「待て、何か誤解をしているぞ。」

 先日は確か「冗談だ。」と言っていたが、もしかしてこの生物教師、前科があるのか?


 見えなくなっていることに気づかず何度も切り付けた結果、レイラがシリカに着せていた制服は傷んだというより端切れの山になってしまっていた。上半身、特に胸部と腹部の損傷がひどく、逆に両袖やスカートの損傷は少ないがこれはもう制服として着用可能なレベルに修繕するのは不可能な状態だった。


 元々シリカは学園の生徒ではないので制服そのものを着用させるのは実は適当ではない。一方で学園長の承認を得て学内に滞在する「学園所属の何か」であり、学園に関わりのある服装であることが望まれる。


「既成の服が合わないというのもあるが、学園内で生活するなら相応の服装という物が必要だろう。期せずしてここに着られなくなった制服があるから、これでもって学園に馴染む服を作ってもらえないだろうか、と」

「それを私に依頼しようと?」


 生物教師は割と安易に服飾教師に依頼することを考えていたが、服飾科の卒業生としては制服を粗末に扱うことは許せず、透明化や解剖の一件を聞いてますます怒ってしまった。だが、


「そこを何とかお願いできないでしょうか、この子を私服のまま連れて歩くのも限度がありますし。」

 ほかでもない本件の被害者に言われてしまっては仕方がない。


「デザインは任せて頂くとして・・・こうまでズタズタだと制服並みの防護性能はさすがに無理だと思いますよ?それを承知していただいた上で、特急仕上げで10日から2週間という感じでしょう。足りなかった材料代と工賃は先生に請求しますからね!」

「ううむ、仕方ない。」

「よろしくお願いいたします。」


 着られなくなった制服、という表現はだいぶ控えめである。上半身に関しては服の形をしているのは背中だけで、あとは端切れの山だ。だがなんとかこれを使って、魔法学園にいても不自然に見えない服を作る。学生ではないが学園に属する者の服、或いは魔人服という概念はこのとき生まれた。


 その日は服飾教師がシリカの採寸をするのを手伝った後、レイラ達は一枚一枚丁寧に洗濯された制服の残骸を服飾教師に託して帰った。


 そして今日、レイラは服飾教師から呼び出しを受けてシリカを伴い服飾科に出向いたのだった。


「そもそもあんな状態から直すのも無理な話でしたが、魔人に着せる服なんて初めて作りました。」

「お手間を取らせてしまって申し訳ありません、先生。」

「本当、大変だったんですから。まあ、まずは見ていただきましょうか。」

 服飾教師は言葉とは裏腹に、自信満々の表情で横のマネキンを指さした。

「これが、魔法学園服飾科特製、女子制服のようでいてそうでない制服。通称魔人服第一号です。」


 結局3割くらいの布は使えず、損傷の少ない所から布を取って継いであったが、かけはぎという技術で継ぎ目が全く分からなくなるまでに修復されていた。三角形の大きな襟はかなり小さくなり胸元が大きく開いてしまったし、黒基調だった制服に白い部分が増えたが、背面の損傷が少なかったため後姿は元の制服とさほど変わっていない。


「魔人さんは体型がヒトとは少しちがうからそのまま直しても結局着られる物にはならなかったでしょうね。」

 幼児体型とは違うのだが、胸から腰にかけて標準体型より少し前後幅がある。寸法を信じてヒトに合わせて仕立てると形が崩れてしまっただろう。


「騎馬戦を拝見しましたが、あの運動能力ならスカートよりキュロッツの方が合いそうだったのでここは生地から仕立てて・・・」

 下は膝上くらいの乗馬スカートになっていた。騎馬戦でレイラ達女子生徒が穿いていた物は黒だったが、シリカ用はエンジ色の生地で作られていた。魔人を見分けるのに好適な目印になるだろう。チラ見え対策で同じ色のパンツも数枚用意されていた。


「キュロッツの後は尻尾を通す窓です。魔人さんの尻尾は毛が多くて芯が太目ですからベルトも使えるように・・・」

 獣人の生徒も珍しくない魔法学園では尻尾を持つ種族のための標準制服もある。尻尾はズボン、またはスカートの腰のところに種族に合わせた窓を設けてそこに通すようになっている。尻尾の動きでずり落ちることも少なくないのでサスペンダーを使うのが主流だが、ベルト用のループも付けられていた。


「魔人さんの腕毛は珍しい生え方で、見たところ動きそうでしたので肘から先を大きく開いて袖口をカフスで閉じるようにしました。手頸を回したときに腕毛の擦れが気になるようならカフスの中にあるループに親指を通してください。袖が一緒に回るようになります。」

 手首周りに体毛がある種族はあるが、シリカのようにそれが前腕の外側だけ半ばまで続いているのは珍しい。しかも動くとはどういうことなのか?


「あなた、そんなことができましたの?」

「にや!」

「わっ!」

 シリカの腕毛が起立展開し、三角形の鰭の様になった。


「べぅ・るぅ・・」

 両手を額の前で交差させると、その手を前に突き出した。

「びぅえっ!」


 鰭が触手の様に前方へ伸び、室内を飛びまわった後、特に何もしないで戻ってきた。

「まあ・・・すごいですけれど、それってどんな役に立ちますの?」

 棚や織機を器用に避けて飛んだのはすごいことだが、それだけでは・・・

「めぅ!」


 ぴら・・・

「・・・ッ!」

 レイラはシリカが手にした白いものをひったくり、

「試着室をお借りしますわ!」


「魔人さんは下着がお好きでしたか。」

「ぬぅ?」

 というかこの服飾教師、散々文句を言っておいて、服の説明になると舌の回る事よ。


 スカートを気にしながらレイラが戻ってきたので、説明が再開される。


「全体に前側の傷みが酷かったのですが、身長が低くなって背面の丈が余った分を前に持ってきて継ぎました。それでも襟が大きく開いてしまったので胸当てを延長しています。」


 元の制服でも結構大きく開いた襟だったが更に開き、エンジ色の胸当ての上に白い布を追加して延長してあった。上方へ三角の布を追加したので胸当てが「V」字型に見える。上部に紐が通っていて締め具合を調節できるようだ。この布も先生の私物だろうか?何か見覚えが・・・


「制服に混じって別の衣類も入っていたのだけれど、丁度ここに合いそうだったので」

 真ん中に蝶結びにしたリボンが付いた白い布で、シリカがあの日着ていた物。


「先生、これって・・・」

「ここの形で魔人さん専用の目印にもなります。」

 元の形を知っているレイラには、このリボンのおかげでますますそれにしか見えない。


「いえそこではなくて、この布」

「大丈夫、そうそう気づかないし気づいても言えないわよ。」

「知ってて使ったんですの?!」



「学長の口利きもありましたのでなんとか仕上げましたが、特急仕上げでこんな細切れになった服を直すとか、正直、生地を預かって一着仕立てた方が楽だったかもしれません。」

「う・・・」

 自分に責任のあるところではない、というかレイラは被害者なのだが、多忙な所に無理なお願いをしてしまった上、この修繕・改造費は全額生物教師持ちで、一銭も出していないレイラは強く出にくい。


 そもそも文句を言うべき相手は生物教師なのだが、ここはレイラが大人になって引き下がった。

「そうですね、忙しい中ありがとうございました先生。」

「いえいえ、なかなかやりがいのある仕事でしたよ。追加で使った生地の分はサービスしておきますわ。」


 キュロッツ一本分だけでもそこそこしただろう。生地代サービスの件とかは生物教師に言ってもらいたいところだが、後で伝えておくとしよう。

 結局元の制服は半分くらいしか残らなかったが、少なくとも服は完璧に出来上がっている。制服風だがはっきり区別できる服という注文通り。

「それではさっそく着替えてもらって、行きましょうか。」

「はい。」



 魔法学園は魔法の専門家が素人を教育するという性質上、適性の高い若者が力を暴走させてしまう事故が毎年何件か発生する。そうした事故の影響を封じ込めるため敷地は魔法で補強された高い石壁で囲まれている。また街自体が災害対策仕様で、辻々に消火栓が設置され区画ごと結界で隔離する仕掛けなどで生徒や職員を守っている。アランなどに言わせればその備えは王国首都以上、武装が無いだけで砦並みだとか。

 一般人が立ち入る際には主要街道毎に設置された門で警備員から入場許可証を受け取る必要があり、立ち入り制限区域に近づくとこの許可証から警告音が出るなど、魔法学園ならではのセキュリティを備えている。


 現状、シリカは身分証を持っていないが、今後学園内で自由に行動できるように生徒でも職員でもない肩書で身分証を作ることになった。急遽設けられたその肩書の正当性は学園長が保証しているが、無用なトラブルを避けるため前もって警備部へ出向き顔を見せておこうというのだ。


 学園の生徒であれば学園内のほぼすべての施設に自由に出入りできるが、外出、外泊には届け出が必要である。生徒が貴族である場合などに同伴する使用人にも同様の身分証があって、こちらは外出外泊に届けは必要ないが授業中の教室に立ち入ることはできない。ステラのように生徒が使用人を兼ねる場合は身分証の肩書は生徒になり、生徒がアルバイトとして使用人をしているという扱いになる。教員、職員にはこれらの制限が無いが、学外へ出るときは日程などを申告することになっている。


 シリカの肩書は新設の「学園関係者」になる予定で、名前は職員のようだが実体は授業を免除される生徒という感じだ。それだけなら「聴講生」とか言いようはあると思うのだが、この名称には飽くまで生徒でなく学園側の所属にしたいという思惑が感じられる。

 シリカは授業を免除されていても受ける分には自由なので、レイラは学園内のどこへでもシリカを連れていくことができる。逆に教員の誰か、生物教師であることが多いが、研究のためにシリカを呼び出すと自動的にレイラも付いてくることになり、事実上のシリカの管理責任者になっている。これは学業成績の芳しくないレイラにとっては自習時間を削られてしまうためあまり喜ばしくない仕組みと言えるだろう。


 ちなみに生徒、教員に隷属する魔獣として登録しても学園内に立ち入りが許されるが、校舎に入ることはできない。



「これが噂の・・・魔人、ですか?」

 服飾教師はレイラ達を伴って正門、西門など、学園の主要な警備詰所を一通り回り、行く先々でレイラはシリカの素性と発行予定の身分証の事を話した。通達そのものは各部署に届いていたが、紹介された魔人の予想外の外見に警備員たちは驚いていた。


 学園の敷地を外周に沿って一周したので、帰ってくる頃にはすっかり陽が暮れていた。

 今のところ魔人服の一部がレイラの下着でできていることを指摘する者はいなかった。



 その夜。

「レイラ・ブラッドベリー殿。当学園は魔人シリカをその希少性から重要な研究対象と認め、その制御のため貴女に対し該当の魔人の隷属契約を継続することを要望するものである。また、魔人の管理については貴女に一任する。早速だが魔人の身分証を作成するため同封の書類に必要事項を記入、署名し明日中に教務課に提出すること。

 追記:契約の維持に起因する経済的、身体的な負担については支援を惜しまない。要望ある時は書面にて教務課に申請すること。」


「レイラ様・・・」

「また学長から通達ですわ。」

 これはレイラ個人に届いた物で、書類の提出など個人あての伝達事項を含む場合は掲示板と同じ内容の書面がこうして届けられるのだ。そのため既に知っている内容が改めて送られてくることがある。


 だが学園長の通達といえば大体懲罰的な内容の時に使われるイメージがあり、短期間に連発されるとレイラの素行が悪いかのように思われそうだ。

「ステラも読んでおいて。あなたにも関係のあることだから。」

「これは・・・レイラ様!」

「要するに私に魔人の機嫌取りをさせて、更に先生方が魔人の研究をする手伝いをしろ、ということね。」

 レイラは改めて書簡を読み返した。何度読んでも同じにしか読み取れなかった。


「しかも学費免除とかの特典は無くて、飽くまで負担に感じたら学園が手を貸す、と。」

 既に生物教師からの協力要請を受けている状況で今更な話だが、他の学科からも同じような要請がくるのだろうか。金銭的な負担という事であれば正直レイラにはどうという事も無いのだが、相手が負担できるところはきっちり負担してもらった方がお互いのためだろう。


 そうはいっても、その負担額を記録し申請するという事務的な手間が発生するので、学業を頑張りたい身としてはあまりありがたくない。


「これでは、レイラ様には負担しかないじゃありませんか。」

「一件一件費用を請求するのも、あまり件数が増えると、ちょっとね。」

「そういう事でしたら私が・・・」


 レイラの従者として同じクラスに通うステラは、実はレイラより成績が良い。

 事務的な部分を彼女に任せればレイラの負担も減るだろうが、

「これは言ってみれば余計な手間だし、それであなたの成績に影響したら申し訳が立たないわ。こういうところこそ学園に何とかしてもらいましょう。」

「レイラ様・・・」


「いまのところシリカは手のかかる妹のような感じでまあ、無害だし。ああ、でも、ベッドくらいは買ってもらってもいいかしらね?」

 楽天的な発言だが、実際シリカは自分の寝床が無いのを良いことに、レイラのベッドに上がっていた。ステラがベッドメイクをすると手伝ってくれるのだが、出来上がるとそのまま居座って、その後の一日の大半は眠っている。ただし場所は選ぶようだ。


「ですがこの文面はあまりに一方的で、しかも魔人と契約だなんてレイラ様のお命を危険に晒すような内容では?」

「多分それは、そのように口裏を合わせようという話なのよ。実は契約無しに魔人にあれこれ指図しているなんていうことを他の生徒に知られたら、それこそ一大事よ?」


 本来、魔人の隷属契約など一介の学生にできる物ではなく、相当に高位の魔法使いでもなければ不可能だ。だがレイラの魔力量の多さは学園で知らない者は無く、それを根拠に毎朝使役魔法を更新しているとでも言っておけば押し通せるだろう。


 魔人は世界を破壊する存在で普通なら即討伐対象だ。だが、ここに居る魔人はこんなに小さくて今のところ無害で自分の言うことをよく聞いて、偶に、というか結構な頻度でちょっとバカで、今だってこんなところで呑気に寝ていて・・・


「やっぱり、ちょっと引っかかる話ね。」

「学園の方針というのなら、やはり人を付けてくださるとかもう少しやり用があると思います。支援するといいながら実行面の負担は何もかも私達に背負わせるようなやり方は承服できません。」

 ステラがこんなに憤って見せるのは珍しい。ちょっと宥めた方が良いかもしれない。


「まあ、落ち着きなさい。学園側も魔人に興味はあるものの、迂闊に手を出せないのでしょう。私が見ている間は大人しいですし、万一何か起きても被害を私ひとりに抑えられるでしょうから、この決定は妥当と言えます。」

「ひとり・・・」

「ん?」

「あ・・・いえ、何でもありません。」


「それにこの状況は、私が学園に必要とされるようになったと言えなくも無いわ。それはたぶん良いことよ?」

「まあ、それはそう・・・ですが。」

(なんだか歯切れが悪いですわね。)


「ただ他の生徒の手前、あまり特別扱いされても・・・ね?自分でいうのもあれだけど、私こんな成績ですし。」

「やはり、一度学園長と直接お話になった方が良くはありませんか?」

「そうね・・・でもその前に、話を聞いておきたい人物がいるわ。」


 学園長は学園の最高権力者で尊敬すべき人物だが、シリカ出現からの一連の通達連発は反応の速さを称えるより意思決定の速さが不気味だった。署名は学園長だが、普通ならこれらの通達は理事会の誰かが発議し、議事を経て決定される物だ。レイラが時流に乗った、といえばそうなのかもしれないが、まるで事前に決めてあったかのようなペースで通達が出るのは不自然に思える。そんな人物のところに正面から乗り込んでもまともに話ができるだろうか。それよりまずは学園がシリカについて何を知っていて、そして何を知りたいのか、詳しそうな人物に話を聞いてみよう。

「では明日にでも」

「いいえ、それはまだ・・・」


 シリカはわざわざレイラのベッドの端で寝ている。反対側にレイラが座っているからというより、レイラが寝るための場所を空けている感じだ。毎晩この調子で、追い出すのも可哀そうなのでレイラは仕方なくそこに寝ている。生贄がどうのという話もあったが、まったく食われそうな気配は無い。

(もしかしてこれで生贄にしたつもりなのかしら?)

 こちらを向いている臍の横を人差し指で突くと、猫のような声を出して身を捩らせた。


「あの人と話すには少し準備が必要だわ。」


 レイラが指先で脇腹をなぞると

「んにゅん」

 シリカはベッドの向こう側へ落ちて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ