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よむシリカ  作者: RiTSRane(ヨメナイ)
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第4章「シリカとしりあすな話」

「これは・・・」

「私も驚きましたけど、本当にこうなんです」

 生物教師はレイラが作成した2枚のスケッチを見比べて言葉を失った。

 1枚はまあ、こんな物だろう。図鑑を見ながらだったので上手くはないがタッチを似せようとした跡が窺える。そして2枚目。

 白紙のまま、だが微妙に黒ずんだところがあったり何かを描いて消した跡なのか、用紙がボコボコしていてとにかく描こうと苦心した跡が見える。


「シリカのは、なんというか・・・」

 空白。

 昨夜の高揚した空気はどこかへ吹き飛んで、生物研究室はお通夜とはいかないまでも微妙に冷めた空気に包まれていた。


 生物教師の依頼でステラとシリカの陰部比較をした翌日。

 レイラはいつも通りに授業を受けていたが、昨夜の衝撃的な光景のせいで授業の内容が全く頭に入らなかった。

 いや、いつも大体そうだったが、今日は特にそうだった。


 今は午後の授業が終わって、レイラはシリカを伴って例の研究室を訪れている。

 生物教師も昨日の今日で報告に来るとは思っていなかったようだが、急いで人払いをして二人を研究室に通し、レイラの報告を受けていた。

 だがその内容に生物教師は困惑していた。


 あり得ない現実にレイラも説明に困っている。

「中はステラ・・・ヒトのように襞とか穴とか無くて、本当に何も無くてすぐ壁なんです。それが、」

 表現するのに適当な言葉を探すが正しく通じるだろうか。かつて人類が観測したことのない光景をどう説明したものやら。

「ヘラで押すとすぐ壁に突き当たって、何もない皮膚なんですけど、これが押すと少し押せて・・・」

 昨晩の状況をできるだけ具体的に説明するが、肝心の部分が上手く言語化できない。

「更に奥なら何かあるかもと思って、もうちょっと、って思ったら全部中に入ってしまって!」

 シリカのそこは、押せば押すほど広がってとうとうヘラを取り出せなくなってしまったのだった。


 当のシリカが平気そうな顔をしているのでうっかりしていた。

 というか、歴史的な偉業とは、1万年の謎とは何だったのか?!!!

 この・・・虚無のような空間がその答えでいいのか!?


 人類が1万年待った結果が??


 観察できた範囲だけで言えば、シリカの陰部は何もない空間だった。

 宇宙のような真っ暗な世界ではなく口腔に似た、肉色と呼ばれる濃いピンク色の腔間、いや、やはり空間と呼ぶべきだ。もちろんそこに光り輝く星は無い。

 まあ、大発見ではある。そんな事実を観測したものは人類史上レイラとステラ、そしてこのまま行けば3人目は生物教師になるだろう。

 レイラは生物教師の期待に十分に応え、この異様な現実を見てもそれを冷静に記録し、自分の言葉で説明しようとしている。ただ惜しいことに前のめり過ぎて事故を起こしてしまった。


 今のレイラはそれを認識し、反省している顔だ。生物教師としてはレイラの不安を取り除き、導くことが必要なのだが、さてこれはどうしたものか。

「見えているのに届かないんです。先生、何とかなりませんか!」

「何とかって・・・何とか。」

 ため息まじりにそう言うと生物教師はシリカの方へ向き直った。藪をつついて藪より大きいドラゴンを出してしまった心境だ。

「一応、詳しく診せてくれるかね?」


 シリカはまた全裸で、診察台に脚を開いた形で座っている。この診察台は実は先日の机である。検体を載せた後落下防止バンドで固定し、天板のロックを外すと見易いように高さや角度を様々に変化させられる可変寝台だったのだ。天板をヒト型に変形させた後シリカを載せ、観察しやすい高さに上昇させる。普段は生きている動物を載せることは無いらしい。


 服については、レイラは下を脱げとしか言っていないのだが全部脱いでしまっていた。「下」と言ったのを「下着」と勘違いしたか、まあ、脱ぎ着のトレーニングだと思えばいいだろう。


 何もない肉色の空間に長円形のガラス製のヘラが浮かんでいる。舌圧子に使うには少し厚すぎるそれが、原理はわからないが何もない空間にただ浮かんでいて、レイラの言っていた壁はもう届かないところにあるようだ。当然、人体にこんな空間は無いし、そこにあるべき器官も無い。一つの発見から新たな謎が次々と湧き上がる。


「ううむ・・・」

「どうです?先生」

「なんというか、奇妙な光景だな。あり得ない。」

 生物教師が手をかざし魔力を注ぐと、ヘラが反応して発光するのがお腹の上からも観測できた。

「あり得ないが、現にそこにある。」

 脚の方向から見ると、昔の成人向けアニメで見られた「光る股間」が現実のものになっている。


「こちらから見ると奥にあるように見えるのに、上から見るともっと下の方に見えるな。向きによって位置が変わって見えるとかまるで分光器だ。」


「口の中はちゃんと歯も舌もあるのに下の方はこんな感じです。」

「ふむ、内部は肉色の組織でできた壁に囲まれた空間、か。これは確かにそう書くしかないだろう。」


 生物教師は見る位置を色々と変えて、中に浮かんでいるヘラの正確な位置を探ろうとしている。

「こんな内壁は見たことが無いな・・・最初は壁があったと言っていたね?」

「ええ、やわらかい壁のようなものの手応えがあって、何かに刺さった感じでもなかったのでまだ奥があるのかと思ったのですけれど。」

「それが小陰唇に当たるものなのかどうかもこれでは知り様が無いな。かといって膣だったらそれはそれで異常だが・・・押せば押すほど中へ向かって広がっていくというのも不可思議だ。君の手は何ともなかったのかね?」

「え?」

「外から見た腹の大きさはこれだが、一方、内部にある空間はこのお腹に収まる大きさには見えない。」

「え・・・ええ、確かにそうですわ。」

 生物教師はシリカの臍の下あたりに触れながら続けた。

「こっちから見るとここはもうこの子の体内だが、上から見るとそんなことは無い。錯覚でなければこの子の体は見る向きによって違う空間が見えていることになる。」


「違う空間が、見える・・・。」

 レイラは生物教師の言っていることが理解できなかった。そもそも何もない空間が指とどういう関係があるというのか。


「そうだな、召喚魔法を想像してみよう。召喚門を開いて、釣り針を投げる。そう教わっているよね。門の中はどこだと思うかね?」

「召喚される、魔獣の住む世界ですわ。」

「その世界はどこの国にあるのだろう?」

「それはこの世界にはありませんわ。この世界に似たどこか別の次元の・・・。」

「そう、そして召喚門がある間、その二つの次元はつながっていて魔獣が行き来できる。だが、魔獣が門の途中で止まってしまったら?」

「・・・そのまま門が閉じたら、魔獣の身体は・・・分断される。」

「そう、君の指はその門を出入りして無事だった。この子の体の中がその異次元で、これが開いたままの召喚門と考えれば広さの矛盾は説明できる。ヘラは門の向こう側に落ちてしまったから、今はまだ見えるが実際の距離はわからない、そんな感じではないかと・・・想像できる。」


「想像ですか!」

「仕方が無いだろう、こんな現象、未だかつて誰も観測したことが無いのだから。確かなことは何も言えないよ。まして意志をもった生物として動き回っているとか、なんの冗談だ?」

 そういいながら生物教師は笑っていた。だが急に我に返って


「・・・そうだ、ただの想像だ。事実を積み重ねてその正体を突き止めるまではまだ妄想の類だ。」

「先生・・・。」

「すまないね、未知の現象を前にして少し舞い上がっていたようだ。」

「ですが、先生の想像なさった通りなら色々説明がつくのではありませんか?」

「いや、今のは忘れてくれ給え。なんとかこの現象を説明したくて無理矢理こじつけただけのものだ。それより現実の問題に取り組もう。差し当たって・・・」


 生物教師は改めてシリカを前に座り直した。


「取り出せそうですか?」

「あれが見たままの向きで入っているとしたら、後ろから突き出ていないとおかしいな。昨夜から向きが変わったりとかはしていないのか?」


 この状態では背中を見ることはできないが、天板に密着した背中から何か突き出ていれば当然わかるだろう。

「そういえば確かに。まっすぐ入っていると思っていましたけれど、今は斜めに見えますわ。」

「それなら直腸を貫通して大出血だが、見ての通り無傷だし、そもそも直腸は何処へ行ったんだ?どれ・・・」


 生物教師はピンセットを入れてみるが

「滑る?妙な感触だが・・・トングでは・・・こんなところに入らないか。」

 トングと言っても生物教師が手にしているのはパンばさみではなく、坩堝を炉から出すときに使う先端が折れ曲がった方である。パンばさみであったとしてもそこに入れるには適当ではないだろう。


「・・・こうやって糸を輪にして、うまく絡みつかせることができれば・・・なんだ?素通りしたように見えたが。」


 生物教師は考え付く限りの方法を試したが、とうとうヘラの摘出をあきらめ、寝台を戻してシリカを降ろした。


「私は医師ではないので断定はできないが、本人が異常を感じていないなら数日様子を見るか。」

「大丈夫なんでしょうか?」

 レイラが心配そうに尋ねると生物教師はお手上げといった感じで答えた。

「見ての通り、シリカの内部は通常の空間と違うとでも解釈するしかないようだし、あまりかき回すのも良くないだろう。もしかすると歩いているうちに落ちてくるかもしれないし。」

「そうですか・・・」

 まるで結石か何かのようだ。


「まあ、医師に診せてどうなるものでもないが。いや、一応相談はしておくか。誰がいいかな、このことはまだ機密扱いだろうし・・・おっと、本人にも説明しなくては。」


 シリカはもたもたとパンツを穿いていた。獣人用の既製品だが蹄が大きくて穿きにくいらしい。


 生物教師はレイラの作成したヒトの場合の図を見せながら、ガラス製のヘラがどの辺りにどんな状態で入っているのか説明をした。

 椅子に座って神妙な顔で話を聞く二人の姿は小児科を受診した母子のようであった。


「しかしまあ、ある意味予想通りではあるのだが、まさかこんな風になっていたとは。」

「予想通り、ですか?」

「合成でないユニコーン型、要するにこの子だが、実は一体しかいないという話はしたね?」

「種族として存在しないという話ですね。」

「そう。実は数千年分の目撃例のいくつかにはユニコーン型魔人と接触、捕獲した記録があるのだ。」

 慣れないシャツと格闘していたシリカがまたマゲランに変身し始めていた。


「その経緯はまあ様々だが、捕獲された後は死亡までの記録がある。つまりそれらは魔人でなく単にそういう生物、合成体だったわけだ。一方で捕獲に失敗したり、捕獲後に逃走した個体もあったわけだが、一つ個性的な外観の個体の脱走記録がいくつか残っている。捕獲に失敗ならともかく、脱走できる個体というのは何か特別な能力があったと推測している。」

「脱走に役立つ能力があった、と。」

「そう。君も不思議に思っただろう、この子が召喚門が消えた後に出てきたことを。」

「あ・・・」

 バレていた。レイラもおかしいと思いながら話さずにいたのだが、召喚獣騎馬戦の時、召喚門が弾けて飛散した火花を浴びながらシリカは地面から現れた。既に召喚門は崩壊していたので本来こちらへ出てこられないタイミングだったのだ。掲示板で見た「不備」とはこっちのことだったか。


「ま~~~」

 レイラはバタバタし始めたマゲランを丸椅子に座らせると絡まったシャツを取り始めた。

(きっととぼけても無駄ですわね。)


 マゲランの姿からシリカに戻して、改めてシャツを着せる。やはり長い角が邪魔でくぐるのは苦手か。

「それ、前開きシャツにした方が良くないか?」

「そう思ったのですけれど、子供用でこの胸が入る大きさだと男物しかなくて、結局肩が出てしまうし前も合わせ目が引っ張られて。」

「ああ、それは困るな。また親衛隊ができてしまう。しかし、他に同族のない子だと下着一つとっても特注品になってしまうのか。」

「そういう費用も学園が負担してくれるのでしょうか。」


「さて、話の続きだが。この子の陰部は魔獣としても合成体としてもあり得ない構造をしている。魔獣には魔獣なりの器官があるし、合成体なら土台となったヒトそのものだからね。君はこの子のこれで生殖ができると思うかね?」

「生殖・・・」

 そこまで考えが及んでいなかった、それでもレイラは答えを絞り出した。

「不可能ですわね。ですが他に器官があるというようなことはございませんの?」

「それは無いと断言できる。身体の外観が似ていると内部や機能もほぼ同じになる、獣人も亜人も目は二つだろう?その形に適した最適解があるのだ。見ての通り、この子には口も臍も、授乳のための乳房もヒトと同じにある。ここまでヒトと同じ物を備えていればヒトと同じ増え方をすると考えていい。」


「だが、逆に不老不死の存在に生殖は必要なのか?死ななければ種族も減らない、ならば増える必要はあるのか?他愛もない疑問だったが、その答えはどんな文献にも無かった。まあ、いままで誰もここは調べられなかったからね。」


 シリカに自分で服を着るように促しながら、レイラも同じ疑問を抱いていた。

(中はステラと全然違っていましたわ。同じなのは外側だけ。)


「そこでこういう考えはどうだろう。シリカはとある種族の進化の行きついた存在で、この子の親までは生殖機能があった。」

「親、ですか?」

 元の世界でのシリカの暮らし。親や兄弟が居るはずだというのは度々レイラが胸を痛める話題だった。


「そして、シリカはまだ進化を続けていて、種族を増やしたり育てたりする機能を失いつつある最中だ、と。だから、今回の実験では生殖器を見つけられないことは予見できていたのだ。」

 この教師はそんな途方もない仮説を立てていたのだ。変わった人だとは思っていたが、やはりただの変人ではなかったか。


「もっとも、その親の種族がわからないのではこの説もまだまだ妄想の域を出ないがね。」

「いえ、すごい発想だと思います。」

「そうかい?ありがとう。まあ、時間さえかければ手掛かりくらいはつかめると踏んでいるんだ。」


「時間さえ」そう言った時の生物教師は、レイラの瞳の、奥の方を見ていたようだった。


「それなら、ユニコーン型、いえ、それ以外の特徴が似ている種族を調べれば元の種族に辿り着けるかも。」

「そうなんだよ、直系の種族が滅んでいても同じ先祖を持つ傍系の種族が居るかもという考えは全くその通りだ。そう思って馬型や山羊型の種族の生徒に声をかけてみたんだが・・・」


 生物教師は少し遠い目になった。

「急ぎ過ぎて、学園長から接近禁止令を貰ってしまったよ。」

「あら・・・」


「まあ、生徒を拉致して解剖とか、今思えばやりすぎたと反省している。」

「!?」


「・・・冗談だよ、本気にするな。」

「先生が仰ると冗談に聞こえませんわ!」

 だが、自分だったらどうしただろうか。5000年、1万年来の謎。なるほど、刃物で切れないというのが伝説や空想でないのなら確かめたくなっても不思議では・・・いやいや、さすがに生徒を解剖はない。


(中は開けてみないとわからないものね・・・)

「・・・はっ!違いますわ!私はそんなことっ」

「ん、どうした?急に大きな声で。」

「う・・・何でもありませんわ!どうぞお続けになって。」


「うん、ああ。まあ今回はシリカの生殖機能が無くなっている可能性を確認できた、いや発見か。魔法も刃も通じないという事実も確認できたし。この子の先祖を探るのも傍系の種族を探すのも、これから、という感じだな。」

「私でお手伝いできることがありましたら何なりと仰ってください。」

「うむ、そうさせてもらうよ。何せ今は本人がいて、この子を思い通りに動かせるのは君だけだ。」


 結局、レイラはシリカの研究に深入りする道を選んでしまった。


「それに・・・」

 生物教師はレイラが描いたスケッチを示しながら

「ここまで尽くしてくれた彼女のためにも何かの成果を上げたいね。」



「では先生、こちらが使用済み、こちらが未使用の器具入れです。初めての事で大変でしたけれど、お医者様の苦労が少しわかった気がしますわ。」

「ああ、ありがとう・・・ん?使ったのは3組だけか。」

 レイラが差し出した用具入れの、使用済みの方には2本、これはステラに使ったヘラでもう1本はシリカの体内にある。

「あ!そういえば後ろ・・・」


 ヘラがシリカの体内から抜けなくなるという事故の衝撃で、肛門から直腸の観察という作業がすっかり飛んでしまっていた。

 昨夜の労苦を思い出し即答できないでいると

「まあ、魔人がこんな状態では延期するしかないだろう。」

「すみません、先生。」

 露骨に安堵してしまうレイラだった。


「そういえば・・・」

「はい?」

「口は内部までちゃんとできているのに下がこんな状態だと、食べた物はどこへ消えるんだ?それにこの状態が肛門からどう見えるのかも興味あるところだな。」


 言われてみれば、シリカは当然のようにレイラと同じ物を同じようにして食べていたが、トイレに行ったのを見たことが無い。当然、自分のタイミングで勝手に行っているものと思っていた、というより気にもしていなかった。

「まあ、前がこれでは・・・口の中も歯や舌はともかく奥の方がどうなっているかわかった物ではないな。これは改めて調べてみる必要があるだろう・・・ああ、そうだ!」

 生物教師は新たな調査項目を思いついた。


「母乳は出るんだろうか?」

 レイラが露骨に嫌そうな顔を見せたのでその実験は撤回されたが、この先生の事だ、いずれ乗せられてやらされてしまうのだろう。

(やはりこの先生、苦手ですわ。)



 その日もシリカを連れて帰ることにした。というより、もうすっかり寮の部屋で一緒に暮らす流れになってしまっている。それに生物教師に預けて置いて体内の異物が増えるようなことがあっては敵わない。


 実のところ生物教師の方も自分のところで今すぐ調べることも無いので、レイラに預けておきたかったようだ。

 寮に帰るとステラが緊張した様子で待っていたが、延期の事を告げるとこちらも安心した表情を見せた。今回は彼女にも負担をかけてしまったし、何かお礼をしたいところだ。


 そういえばシリカの出現前はステラと別行動を取ることは滅多に無かったのだが、自分が生物教師の所に通うようになるとこうして一人で待たせることが増えていくのだろうか。


「なんだか変な汗もかいてしまいましたし、ステラ、浴場へ参りましょう。シリカも。」

「それがレイラ様、実は・・・」

 ステラが困った顔で話すには、他の生徒たちが魔人と一緒に入浴するのを良く思っていない、中にははっきりと拒んでいる生徒もいるというのだった。昨晩まで普通に入っていたのだが、打ち解けた思ったのは取り巻きの生徒と一部の同級生だけだったか。


「別に危険なことなんてないのに、皆さん心配しすぎですわ。ああ、でも・・・」

 シリカは独特な足をもっているせいで裸足で活動しており、そこは馬や他の魔獣と同じである。獣人の生徒は足袋を履いているが、それらはすべて手作りで、私服を買いに行ったときにも商店街では見つけられなかった。

「土足なのが問題なのかもしれないわね。」


 そういう事情であれば当分、シリカを入浴させるには生物研究室の浴室を使うしかない。前もって知っていれば帰る前に使わせてもらったのだが、タイミングの悪いことだ。

「この調子だと、しまいにはあの研究室へ引っ越せとか言い出しそうね。」

「そうなると他の教室からは遠くなってしまいますね。」

「それもだけれど、私、どうもあの教室というか・・・あの先生は苦手だわ。」

「実は私もちょっと・・・」

 あの変人振りさえなければ、気さくで面倒見がよく生徒の相談にもよく乗ってくれる理想的な大人なのだが。


「それでは私も支度して参ります。」

「いいえステラ、あなたはいつも通り浴場へ行ってちょうだい。あそこの浴室に3人はせまいわ。」

「ですがレイラ様おひとりでは・・・」

 その時のレイラは久しく見せていなかった優しい笑顔だった。

「”妹”とお風呂に入った事なら何度もあるから大丈夫よ。」


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