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30、31を少し改稿しました。
今後の物語の伏線部分を増やしました。
尚、改めて読まなくても大筋には影響ありません。
竜に会いに行きたい。
だが、下手に刺激して町を滅ぼす原因になってはならない。最悪の事態は、私の軽率な行動で竜が攻撃的になることだ。
「あーあ、竜に会いに行きたいなあ。」
ここ数日、毎日のように口にしている。
竜が現れてからもう一週間。のんびりしていたら、あっという間に時間が過ぎてしまった。
怠惰は、不老の身にとって最大の欠点かもしれない。
『会いに行けばいいじゃん。』
「簡単に言うけど、会える保証もないし、話せるかどうかも分からないのよ。」
『竜と話すつもりなの?』
「魔物とだって会話できるんだから、竜とも話せる可能性はあるでしょう?」
『なるほどねー。』
一応、町に出て情報は集めている。人々は依然として竜に怯えているが、外に逃げ出せる者はわずかだ。町を出ても仕事も住む場所もなく、飢える未来が待っている。だからこそ、人々は踏み出せずにいる。
実際、シルハから移り住んだ人々は苦労していた。日雇いで糊口をしのぎ、その生活に耐えられず戻っていった者も多い。そんな姿を見れば、逃げ出す勇気を失うのも無理はない。
もっとも、人間もただ怯えているだけではなかった。領主と冒険者ギルドが手を組み、竜討伐の準備を進めているのだ。町には武装した兵士が駆け回り、次々と大砲や武器が搬入される。冒険者ギルドにも血気盛んな者たちが集まり、今にも戦が始まりそうな熱気だ。
アイザも何度か呼び出され、討伐計画に関わっているらしい。
この調子なら、数週間も経たぬうちに竜と対峙するだろう。そのとき、多くの人と山の生き物たちが命を落とすに違いない。それは耐え難いことだ。
神殿から借りてきた本をパラパラとめくり、挿絵を眺める。神殿に置いてあるのは大体いけ好かない天使賛美の本ばかりだが、中には価値のある歴史書もあった。
これはその中の1冊だ。
「この地って代々竜が住んでいたらしいわね。」
『そうなの?』
「ええ、記録によると大昔から何度も討伐されている。だから人々も冷静に備えられるのよ。実際、私たちがダンジョンで遭遇した個体も竜の一種だったでしょう?」
記録では、何百年から千単位で竜が姿を現しては討伐されてきたとある。
「彼ら竜は、その巨体に見合わず突然現れる。突如現れては我々人類を脅かす。だから、討伐せねばならない。……ってあるわ。まさに今回もその通りで、竜は前触れもなく現れた。元々どこか遠くの場所から飛んできたのか、それとも隠れ住んでいたのか。」
あの巨体を隠せる場所があるとすれば、人の出入りのない場所、例えば山頂付近や深い谷底位のものだ。
「どちらにしても、何故突然姿を現したのか。それが分からないのよね。そもそも竜の前身が龍だったとしたら、人をわざわざ襲う理由なんてないはずだから……」
だって、龍は生き物を守る為に存在するのだから。
極端な自然破壊をしたり、龍そのものを攻撃しなければ生き物に手を出すことはほぼない。聖龍程ではなくとも、その位の慈悲はあった。
それとも生き物に変化した段階でその意識も失ってしまったのか。
本に書いてある挿絵を手でなぞる。
絵には火を噴く邪悪な姿の竜が、鎧を着た兵士に首を落とされている。悪趣味だが、人にとってはこれが希望だから仕方ない。
「……ん?」
挿絵の背景は、町の位置から推察して、恐らく現在竜が出たと話題になっている山だ。
慌ててギルドから借りてきた本の山から、地図を探す。
「あった、ここね。」
チャリゼの町は山々に囲まれているが、その中でもひときわ大きいのがチャリゼの山だ。
植物や一般動物、魔物等多種多様な生き物が生息するこの山は、チャリゼの町にとっては無くてはならない存在であり、経済的にも強く依存しているどころかこの町の象徴にすらなっている。
「冒険者がチャリゼの山から魔物を素材を集めてくるお陰で、工芸品や魔物の素材を活用した武器防具が人気なのよね。でも、この町がここまで発展した理由と言えば、やはりダンジョンの存在が大きい。」
ダンジョンの宝は天使の遺物。山中に張り巡らされたダンジョンからは、最早今の人類には制作できないような魔道具がゴロゴロ転がっている。
この間閉じ込められたダンジョンはかなり大きい部類だったが、あのレベルのダンジョンですらこの山には幾つも見つかっている。
そう考えれば、あの山はああ見えて、中は穴ぼこだらけなのだ。
ダンジョンは、龍の力を削ぐ。
それは、古代の人間が自然現象に抗う力を身に付けたかったのだと思っていた。しかし、何故?
考えこんだ私の肩を、グリハがつんつんと突く。
『ねえねえ、ここってそんなに竜に人気の場所なの?』
「人気?」
『そうだよ。だって、竜は代々この町に現れるんでしょ?じゃあ、この町に何かあるのかなって。」
「何か、ねえ。」
『美味しいものとか、大量の金銀財宝とか!』
「竜って何食べるのかしら?案外何でも食べそうだし、人とか魔物を食べるならわざわざこの町でなくてもいいし……金銀財宝って、彼らそんなものに興味あるのかしら?いや、待てよ……」
何故今になって竜が暴れ始めたのか。そもそも、どうして竜はこの地で暴れるのか。
その理由をこの間からずっと考えてきた。
私は龍についてはそれなりの知識がある。
が、竜については全く知らない。知らないものは、仮説を立てて想像するしかない。
「もしこの地域に住む竜が元は1つの龍だったとしたら……」
『ミスト?』
「……グリハ、やっぱり竜に会いに行くわ。」
『そっかあ。僕も?』
「悪いけど、留守番ね。」
『はあい。』
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「冒険者か。分かっていると思うが……」
「チャリゼの山には近づくな、でしょう?」
門番にそう返すと、彼は「分かっているならいい」と頷いた。
いつも通りの喧騒を抜け、城壁の外へ飛び出す。門番もギルドの受付嬢も、口を揃えて同じことを言うので、もう耳にタコができそうだ。
龍が現れたチャリゼの山は進入禁止。血気盛んな冒険者がうっかり竜を刺激して暴れさせては困るからだ。他の冒険者たちは、仕方なく遠方の山へ依頼を受けに行っている。
だが、そのルールを守っていては竜には会えない。
私は全ての忠告を無視し、隠密魔法を張りながら山へ足を踏み入れた。――もし見つかれば、ギルドから追放されるだろうな、なんて考えながら。
山は異様に静かだった。
生き物がいないわけではない。皆、息を潜めて隠れているのだ。普段は大手を振って歩くオークも、空を舞う鳥も、木々を渡る猿も。すべてが、あの巨体から逃れるように。見つかれば、命はないと分かっているから。
そんな中、唯一空気に逆らって進むのは私だけだ。もちろん隠密は解かないが、それは人間や魔物に対してのもの。竜に通じるとは到底思えない。
ツタと茂みに覆われた地表から、太古の木々が天を突く。
小川の流れに手を浸すと、冷たさに思わず身震いした。
水、岩肌、草木の隙間からの土。そのすべてに手をかざすと、同じものが感じ取れる。
――魔力。
本来は生き物の魂からしか発されないはずの魔力が、大地そのものに根付いている。まるで、この山そのものが生きているかのように。
他の山とは比べものにならないほどの豊富な魔力。それが、この地の豊かさの理由であることは疑いようがなかった。
想定通り。
想定は、したくなかったけれど。
でも、多分私の予想は当たっている。
地上はありがたい。私の力が制限されることなく使えるのだ。聖龍としての肉体を保っていた頃には及ばないが、竜の居場所を探知するくらい造作もない。人目もないので、ふわりと浮かびながら探知を広げた。
すぐに分かった。町から少し離れた山の山頂――そこに、竜はいた。
圧倒的な魔力。遠目からでも分かる巨大な肉体。
生き物の頂点に立ち、軍隊を相手にできる存在。先日ダンジョンで遭遇した竜など、比べるのも失礼なほど。
強力で、圧倒的で、頂点に立つ者。
それが正しく、今の時代の竜である。
しかし、気のせいだろうか。
その立ち姿は、どこか孤独で、もの悲しく見えた。




