3.
きけばきくほど、双子はヤバい。
――が、愛車を請け出すにはまとまったカネは必要だし、カレンヌがどんな災難に足を突っ込んでるのかも気になった。カレンヌは災難に足を突っ込みなれていないから、万年、災難に首までどっぷり浸かったベルとしては災難仲間としての仁義というか、カレンヌがベルのことを思わず、ジェイス軍曹、だなんて呼んだりするほど切羽詰まる前にごたごたを片づけてやってもいいのではとキノコ・スモークでぼやけた頭で考えていた。
善行を積むなんてこの街には全く似合わないが、ラジオと車の保護を司る聖なる天使がベルのささやかな善のカルマを取り上げてくれるかもしれないじゃないか。乗客の前科を見れば、監獄行きの護送車と変わらない乗合馬車で移動する日々からオサラバしたい。そのためにはクライビーにカネを払うくらいでは足りない気がした。
乗合馬車は甲冑鍛冶街を抜けて、鉄砲鍛冶街へ入り、刀剣鍛冶街でベルは馬車を降りた。クライビーのガレージは通りが脹らんで広場になっているところに口を開けていた。何本か煙草を吸って愛車と再会してもクールでいられるように心を落ち着けてから、ベルはガレージに入った。そのとき、クライビーはギャングが置いていったスロットマシンにニッケル貨を次々と巻き上げられ、自分がギャンブル・ビジネスというカッパライ食物連鎖の最底辺にいることに薄々気づき始めたところだった。
「よう、ベル。カネは用意できたのか?」
「このとおり。はやくオレの車、きれいにしてくれよ」
「五分で元通りにしてやるが、あと一回だけ、次の一回で負けを大きく取り戻せる気がするんだよ」
そう言って、クライビーは三十分で百クレジットをすった。さすがに頭も冷えたらしく、ベルの車をきちんと元通りにし、シートを消毒、カーラジオは最新のやつをはめ込み(真空管が温まるのをウジウジ待たずに済むやつだ)、ピカピカになったところで鍵を返した。
「ベル、いいもん見せてやろうか?」
クライビーは五つの錠がかかった鋼鉄の扉を開けて、ベルをなかに誘った。ワオ! これが幻覚キノコによる視覚異常でなかったら、そこにあるのは、フラッキア=ベルスーのシルバーキャピタル・クーペじゃありませんか。最新の流体力学を駆使した滑らかなボディはカクカクした自動車と一線を画し、未来を見せてくれる。世界に十台しかつくられていないそのうちの一台が、スロットマシン中毒のガレージ・オーナーに保管されている理由は一つしか考えられない。
「十五の駆け出しのガキがプーリーズ卿から盗んだんだがな。自分が盗んだもののでかさに盗んだ後になってびびっちまって、で、うちに置いてったんだ。販売委託ってやつだな」
「買い手っているの?」
「探せばいるだろうが、もうちょっとこいつをここで寝かせておいてもいいと思ってる。シルバーキャピタルが自分のガレージにあるって考えただけでも気分はいいし、おれ、このままいくと、スロットマシンに破産させられるかもしれん。そのとき、こいつがあれば、借金はチャラになる」
「な、これ運転してもいい?」
「ばーか。駄目に決まってるだろ」