表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バンディード! バンディーダ!  作者: 実茂 譲
2.パンプキン
12/13

12.

 メン・マが手に入ったが、いろいろ問題は残っている。カレンヌはどこにいったのか。ス・ゥプとチャア・シュウはどこにあるのか。そして、最大の問題は双子はどこで寝かすのか。いまのところ、バックシートですうすう寝息を立てているが、どこかの脳たりんがふたりを蜂の巣にしようとして、ベルのエル・レイまで蜂の巣にする可能性があった。だから、車で寝かすのは論外。じゃあ、ベルの自宅兼事務所で寝かせるのかというと、それも嫌だが、結局、それ以外方法はなく、アパートの中庭に車を止めると、揺らしても起きないほど熟睡した双子をひとりずつ、事務所に運んでいった。そして、重低音ビーバップをかける局を選ぶと、キノコを刻んで一本巻き、トリップし、生温かいコーヒーゼリーを少しずつスプーンでとって、噛まずにゆっくり飲み込んだ。すると、喉が内側からくすぐったくて笑いたくなり、カレンヌがいまもどこかでサーベル片手に走りまわっていることがどうでもよくなった。両膝を撃ち抜かれた後にイジメ殺されたポテト・バッグ・ギャングのこともどうでもよくなった。メン・マの材料が細かく切った木材である可能性がぬぐえないこと、そして、ベルのトラブル気質と双子の殺戮願望が手を結び、悪のカルマの五芒星が成立しそうなこともどうでもよくなった。いまのベルにはマンゴー味のビスケットを食べる以上に重要なことはない気がした。


 ベルは出かけると、〈マッドドッグ・ジョーのドラッグストア〉でビスケットを買い、カウンターの前で座り込んで、むさぼった。ジョーが犯罪組織のマネーロンダリングに協力しているのは秘密でも何でもなかった。十五年前、現役のヘビー級ボクサーだったころ、マッドドッグ・ジョーはギャングから三万クレジットを受け取って、第四ラウンドで倒れることになっていた。だが、第一ラウンドでロイ・〈ザ・サタン〉・ジョンソンをノックアウトしてしまい、しかもサタンは死んでしまった(ただ、その後の緊急蘇生であっという間に蘇ったところを見ると、サタンも別のギャングの八百長に協力して第一ラウンドで倒れることになっていた可能性が高い)。怒り狂ったギャングたちによって、ジョーはセメントの靴を履かされて、沼に放り込まれる寸前まで行ったが、ギャングたちはジョーがドラッグストアを持っていることを思い出した。そこでマネーロンダリングに協力し、損失を返せということになり、こうしてビスケット五つにつきひとつ分の架空ビスケットを計上し、ギャングたちのカネを洗っていた。


 ジョーにはテリブル・ジェーンという娘がいて、少女部門のボクシングでかなりいい線を行っていたが、毎日、店に訪れてはカネを払えと父親にせっつくギャングたちを見ていくうちに才能が開花して、いまではフリーの借金取りとして、ケルベロス・デンを走りまわり、カネを踏み倒すチャレンジャーたちをボコボコに殴っていた。父親から受け継いだボクシンググラブのなかから綿を抜き、砂鉄を詰め、左のグラブの手の甲には〈腎臓潰し〉、右には〈スペアリブポキポキ〉と書いてあるが、これは恐怖のケダモノ高利貸し、マッド・ジュースとクレージー・サム・ドレッドノートの直筆とか。


「チャオ、ベル」

「チャオ、ジェーン。その目のまわりの青あざ、とてもチャーミングだよ」

「でしょ? あたしの大きな目にぴったり。これを見ると、債務者たちは勝手に相手がこの百倍殴られたって想像して、取り立てがスムーズにいくんだよね。まあ、実際に殴ったのは三十倍くらいなんだけど」

「数字のマジックってやつ」

「ほんと、それ。あたしのクライアントたちはみんなシケた額を貸したのに、あたしが取り立てるのはゼロがふたつ増えてる額なの。で、あたしが受け取る報酬はゼロが三つ消えてるわけ。これなら自分でカネを借りまくって、やってくる借金取りを片っ端から殴り倒したほうが儲かるかも」

「馬鹿なこと考えるなよ」と、パパ・ジョーが釘を刺す。「死ぬまで架空のビスケットを売り続けたいんじゃなけりゃな」

「分かってるって、パパ。結局、これがあたしの天職だからやめられないんだよね。ベルにはカネ返さないろくでなし、いない?」

「オレ、他人にカネ貸せるほど甲斐性があるように見える?」

「パラレルワールドじゃ貸してるかも」

「それは、――まあ、ありえるな。パラレルワールドのオレが利子を取るたびに溜まっていく悪のカルマがこっちの世界のオレ目がけて噴出してる」

「ヤバい双子だっていることだし」

「この街のプライバシーに対する尊重の念には涙が出るね」

「だって、ベル、ここに来るまで、おれは殺戮双子とセット販売されている!って叫びまくってたよ」

「まあ、キノコやってりゃそうなるわな。でも、カメとファックしたこと、言ってなかったでしょ?」

「言ってなかった。そーだ、ベル。カミツキガメってどこに売ってるか知らない?」

「あー、知ってるかもしれないけど、確認しないとな。なんで?」

「踏み倒し野郎の指に噛みつかせる」

「メリケンサックで殴って折るのじゃダメ?」

「ああん。ベル。この業界じゃマンネリは一番仕事にひびくんだよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ