11.
いまのジェルジェは写真を撮れば、そのまま悪魔召喚の呪い札に使えそうな見た目をしていた。ラメッキオは死にそうだが、まだ生きているというが、生きているのが不思議、というか生きているのは大自然の采配や命をめぐるカルマに逆らっている気がしてくる。車椅子に座ったジェルジェは膝の骨が重みで折れないよう、一番軽い毛布をかけてもらっていた。鶏の足みたいになった腕にはゴム管が刺さっていて、それは真鍮と大理石でできたソーダ・ファウンテン――赤い星をつけた飲料機械のチョコレート・シェイク用の蛇口につながっていた。ゆっくり流れ込む冷たいシェイクのせいで顔色は土気色と蒼白のあいだで点滅し、まるで信号機のよう。
「ハロー、ジェルジェ。最後にクソしたの、いつ?」
「二か月より前だろうな。ひどく寒気がするのに汗が止まらない。その汗ときたら、水よりも薄い」
「反ギャングの仕事はどう?」
「きいているだろ? 堕落した取り立て屋どもがわたしをジャガイモ袋に詰めたがっている。敵の存在がしっかり輪郭を持った。わたしはジャガイモ袋など使わないぞ、同志。あんなクズどもを放り込んだら、袋が汚れてもったいないからな。革命を成し遂げるのに無駄に使えるものは存在しない。それよりもリヴァイアサン通りのことはきいたよ。ひどい撃ち合いがあって、帝国の軍人だか秘密警察だかが大勢死んだ。そして、最近、街の大物の肝を液体窒素みたいに冷やし続けている、無垢だが残酷なふたつの魂――おっと、これは失言だったな。魂なんぞはブルジョワのおもちゃだ。言いなおそう。無垢だが残酷なふたつの殺人鬼。そこのテーブルを見てみろ」
そう言われて、ベルはジェルジェの執務室兼病室兼未来の墓場にキャンペーンデスクが置いてあることに気づき、そこに広口のガラス瓶が置いてあることに気づいた。ラベルは外国語、イラストもあるようだが、どこまでが文字でどこまでがイラストなのか分からなかった。
「メン・マだよ」
「え、これって、材料はなに? 木?」
「さあな。食べてみれば分かるんじゃないか?」
「オレが? いや、遠慮しとくよ。でも、オレのクライアントがこれを欲しがっててさ。これ、いくらぐらいする?」
「資本主義の悲しい性だ。全てのものに値札がつくと思うことは」
「じゃあ、タダでくれる?」
「革命国家においては全てのものに必要貢献度が記載される」
「じゃあ、メン・マの貢献度はどのくらい? 靴を舐めろとか、血管に流したいからストロベリー・ショコラを買ってこいとかなら、すぐに――」
「今日、十月十日広場のマーケットでポテト・バッグ・ギャングの大物たちが残らず集まる。これを皆殺しにすれば、メン・マはきみのものだ、同志ベルサリエリ」
「勘弁してよ、ジェルジェ。おれ、さっきカレンヌと帝国ギャングの撃ち合いに巻き込まれたばっかよ? しかも吸血王子のこと、ぶっ殺しちゃったかもしれないのに、この上、あんたのことをバッグに詰めて捨てたがってるようなマッチョの相手させられたら、おれ、本当に死んじゃうよ」
「労働の対価は労働者そのものにあるべきだというのが、わたしの意見だが、この際、それには目をつむろう」
「双子?」
「それ以外に方法があるか?」
「じゃあ、チョコシェイク、ちょっとちょうだいよ。食い物で釣るからさ」
それから三時間後、ポテト・バッグ・ギャングの面々はチョコレート・シェイクとメン・マと引き換えに殺されたわけだが、それについて、ジェルジェは「チョコレート・シェイクは命より尊いが、革命ほどではない」と言い、メン・マを渡した。革命主義保存地区を出るころにようやく入り始めたラジオによれば、目撃者はみな地面を見るのに忙しく、犯人の姿は見ていないと言い張っているようだった。うぶな民警がひとり、本気で犯人を捜そうとして同僚に袋叩きにされたことを除けば、〈十月十日広場の虐殺〉以降、傷ついたものはいない。