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異世界DIY  作者: 九重 まぶた
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異世界2

ぼくが目を覚ましたのは一人用の寝室のようであった。部屋は埃だらけ。寝台にはまるで殺人事件現場のようにテープか何かで遺体をくっきりかたどったような痕が残っている。


「女神様の話では転移先には助力してくれ人がいるって話なんだけど……」


 寝室の扉を開けると外からの明かりが陰を押し流す。

 薄暗い室内に目をすぼめ見渡す。寝室同様壁に穴が開いており、光の線をそこら中に落としている。


 暖炉がある。部屋の中央にはテーブルと椅子が横倒しになっている。

 とりあえず明かりを入れるために窓を開いていくと床に溜まった埃が舞い上がり、咳き込んでしまう。


「っ……とても人が住んでいるとは思えない。何年も放置されたような家だ」


 壁には作り付けのおそまつな棚に食器の類が並んでいる。それと、何かの毛皮。触ると毛の一本一本が硬い。まるでハリネズミの毛のようだ。ただハリネズミより遥かに大きい。


「これ、この世界のいわゆるモンスターか何かの毛皮だろうか? にしてもでかいな」


 奥は台所になっているようで、釜戸がある。埃がたまりこちらもしばらく使われた形跡がない。


「あの女神、もしかして転移させる場所失敗してるとかじゃないよね。まさかねハハ」


 ひと回り見て得た感想は猟師か何かの掘立小屋。

 外もひと回りしてきたが庭には荒れ果てた畑と蜘蛛の巣まみれの納屋。そして井戸があった。


 外にでれば周りに人が住んでいる民家があるのかと思ったが、見渡す限り森だけだ。


 他に民家は一切見当たらない。


 先ほどの感動の余韻はどこか消え去り、だんだんと不安が膨れ上がってくる。


 人の気配が一切ない。


「嘘、だろ?」


 この住居は森の一角を切り開いて作られているようだった。周りは森。


 ここは異世界なんだぞ。

 森の奥に何が潜んでいるかわからない。いや、きっとあの毛皮の生物は間違いなくこの森にいるんじゃないか?


「ちょっと、待ってよ……こんな森の中に1人転移させられてどうしろってんだ」


 眼前に迫る森の前に立ち竦み心に絶望が広がっていく。

 耳をそっとすませば木陰に息を潜めぼくの血肉を狙っている魑魅魍魎どもの息づかいが聞こえてくるようではないか。

 いや、ここは異世界だからモンスターか。

 いきなり竜とか出ないよな? 

 その想像にゾッとした。


「誰か! 誰かいませんかー!すいませーん!すいませーん誰かー!」


声に答えてくれる者はなく、むなしく森に吸い込まれ消えていく。


「これ、ここからどうすればいいの? え?  既に積んでるってわけじゃないよね。異世界に来て何もせずにモンスターにやられるとか……」


 まだ見ぬモンスターに想像を馳せては、お尻からキュッと這い上がる悪寒に意識が途切れそうになる。


「いや、いやいや、そんなわけない。そうだまだ頭が混乱しているんだよ。初めての異世界で浮かれているんだ。そうだ、そういえばちょうど昼前に死んだから昼ご飯を食べていなかった。ご飯でも食べて一回落ち着こう……、弁当は、どこだっけ?」


 一瞬思考が停止しかけた。


「……あるわけない。あるのはこの腰に下げた腰袋に入った道具類と作業したとき手に持っていたインパクトドライバーと近くにあったビスやネジ類だけだ。弁当はロッカーの中だよ。あるわけないんだよ。待て待て待て、食べ物は? え? ちょっと待て」


 ぼくは小屋の扉を勢いに任せて開いた。勢いがありすぎたのか背後で扉が外れる音がした。でも今はそんなことに構っていられない。


 ここは森の中だ。しかもだいぶ深そうだ。食べ物がなければどこからか調達しなければならない。


 どうやって? 


 村か、町か、それとも街かで手に入れる、かだ。じゃあ村でも町でもなんでもいいがそれはどこにある? 


 森を抜けた先にはあるのか? 抜けた先にきっとあるはずだ。いや、そう信じたい。あってくれ。


 ただあったとしてもどうやってこの森を抜ければいいんだ? 森にはあの毛皮のモンスターなどがいるかもしれない。

 もっとすごいのもいるかもしれない。


 いやそうじゃなくても戦える気がしない。勝てないどころか、逃げ切って森を抜けられる自信がない。というより森で迷って遭難する自信がある。


 1人で森を抜けなければいけないなんてどんな罰ゲームだ? そんなの瞬殺だろ? 


「そういやなんで人がいないんだ? 外壁はあれだよな。経年劣化か何かで崩れているんだよな? 決して何かが襲ってきた結果じゃないよな……?」


 もし何かが襲ってきた結果、崩れたんだとしたら……。


「それが原因で家主はこの家を放り出して……逃げ出した」


 ぼくは荒れ果てた室内を改め見渡した。所々、穴が開いている。埃がたまっていたせいで分からなかったが外から吹き込む風が溜まった埃を飛ばしていく。よく見ればあちこちに食器が散乱し、割れている。


「ここ、人がいなくなって何年経ってるんだ……?」


 人型が残るほどに溜まった寝台の埃。散乱し割れた食器。崩れたレンガ塀。

 よくよく壁をみれば暴力的に殴りつけたようなーー破壊の痕。

 

 周囲の森が一斉に産声をあげるように騒めいた。


「――ひぃっ」


 か、考えるのは後だ。それより今は――、


「だ、台所だ。台所が奥にあったはずだ。きっとそこに何か保存食が、保存食があるはずだ」


 改めて台所を見ると作り付けの壊れた棚は何かに壊された痕に見える。釜戸の埃を払うとモルタルに打痕だろうか罅が入っている。

 その近くにツボが転がっている。ツボは割れておらず蓋がされている。

 飛びつくようにそれを拾い上げた。


「頼む。何か入っていてくれっ」


 蓋を取った。


 中には何かの肉がぎっしりと詰まっていた。


「……こ、これ、食べられるかな」


 どうも干し肉のようだ。食べられれば何日か持つ。少しだけ安堵した。


「ほ、他にも何か」


 しばらく台所をあさった。見つけたのは乾燥した芋や木の実が入ったツボがそれぞれ一つずつ。


 他はすべて割れていた。中の木の実などが散乱したのだろう台所の隅には芽が生えている。


 そして荒れ果てていた畑に育っていた大根に似た作物と人参に似た作物などがあった。ただほとんどが食い荒らされた痕がある。きっと野生動物か何かだ。


「食べ物は、とにかく、これでなんとか確保だ」


 どっと疲れが出た。しばらく、何とかこれでしばらくは持つ。一番重要な水はこの庭に堂々とある井戸が保証してくれているし大丈夫だ。


 そういえば喉が渇いたな。

 ぼくは水を飲もうと井戸へ向かった。


 井戸の桶をおろす。


 ――カンッ、カラカラカラ


 「ひあがってる……」


 人は水なしじゃ四、五日で死ぬとよく耳にする。


 ぼくはその場に崩れ落ちた。


「ちょっと、これは、積んだ」

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