異世界
「うーん。あー頭がぼーっとしてる」
瞼をひらく。薄暗い。ここどこだっけ?
確か、そう1度死んだんだ。いやギリギリ死んでないんだったか? それで、そうだ意識高い系の女神様がいて・・・。
「異世界!」
そうだ異世界だ。頭が急速に覚醒していく。
見渡すと薄暗いけれど所々から光が射し込んでいる。そのおかげでここが住居であることがわかった。切った丸太は椅子代わりなのかそのまま転がっている。テーブルは横倒しになっている。
もう少し光が欲しい所だ。軽く周囲を見回したときに壁に窓枠が取り付けられている所があった。きっとあれは窓だろう。ガラスは使われてなく木の板が使われているようだ。
体を起こすとゴトンっと何かが落ちる音と腰のあたりにガチャリと音がした。
「何だ……、あっ」
落ちたものは仕事で使っていた愛用のインパクトドライバーに腰からの音は仕事中に着けていた腰袋に入った工具類だった。
「ははっ、なんだよお前もついてきちゃったのか」
ぼくはインパクトドライバーを拾いあげ、腰袋のホルダーへと引っかける。
そこで初めて自分が横たわっていたところが寝台であることに気づく。藁が敷き詰められその上に麻布がかけられているようだ。
壁穴から流れ込む光を見て外は夜ではないことを知る。
寝台から飛び起き散りばめられた光へと近づいていく。
足元がギシギシと軋んでいる。年季の入った建物のようだ。
窓枠の中心に手をかけると、カタンと動く感触がした。押すと板がスッと開き、たくさんの光が入り込んできた。
「う――っ」
急激に視界を埋め尽くす暴力的な光に目蓋を閉じ、強烈な青臭い匂いが鼻孔を刺激する。
目蓋をひらくとそこは森林が広がっていた。嗅覚をこれでもかと刺激する匂いはあさつゆに濡れた草木の香りのようだ。
崩れたレンガ塀が建物の周りを取り囲んでいるようだ。その先にある森林との境界線になっている。
見たこともない花や草木が鬱蒼と生い茂る森が広がっている。
「ここが、異世界――」
ワクワクと、子供の頃よく感じていた初めて訪れた景色に果てのない想像を膨らませる、そのときのような充足感が満ちてきた。きっとこの先にはまだ見ぬ景色や出会いが待っていて、ぼくを楽しませくれるのだというあまりにも自分勝手で純粋な真っ白な想い。
こんな気持ちは何十年ぶりだろうか。
ぼくは両開き窓を光とともに景色や異世界の匂いを取り込もうとするかのように、めいいっぱいに広げた。