プロローグ
「どんなものかな? これくらいだろうか。普通のモルタルなら砂6にセメント2に水1なんだけど……」
山小屋にあった適当な板の上に砂と水。そしてスライムからスキル【新商品】で得たスライム液を混ぜ込んでいく。
セメントの代わりにスライムを使ってみているのだが、果たして上手くいくだろうか。
「まあ、やってみるか。スキル【オリジナルブランド】」
女神に頂いたありがたいスキルを発動させる。
こねこねしていた手に青白い光が纏わりつく。光は手の先からこねていた砂に伝わっていく。すると砂とスライム液がこねるごとに混じり合い、やがてまとまっていく。
「うん。いけそうだぞ」
「ダイク~! 納屋にレンガあったよー」
振り向くと、白髪の少女がこちらに重そうに赤いレンガを運んできていた。
今日は雲一つない空だから、太陽の日差しに彼女の髪が銀色に輝き眩しい。見惚れるほど綺麗な銀色の瞳でこちらを少し恨めしそうに見ている。いつもはキリっとした眉なんだけど今はへの字に折れ曲がり辛いのだけど?と訴えている。
パッと見、美少女の彼女だけど人間ではない。
その証拠に白髪の上にひょこりと猫耳が生えている。
彼女は猫人という種族らしいのだ。あの耳をもふもふしたい衝動を抑え笑顔を作る。
「あ、そこに置いておいてください。たくさん必要だからもっと持ってきてくださいね」
彼女はガーンと衝撃を受け、猫耳はへにゃりと折れ曲がる。
「ぶー。ダイクは猫使いが荒いのだー。ヤンカは疲れたのだーおにゃーさん使いが荒いのだー」
ヤンカとは彼女の名前。おにゃーさんとはどうもおねーさんの意味らしい。もちろん僕らは血はつながっていないし、同じ種族でもない。ぼくはこの世界でも人間だ。ただぼくの見た目は12歳ほどなので、ヤンカさんはおねーさん風を吹かせたいみたいなのだ。
ヤンカさんの種族は気を許した相手には目上の者を尊敬の念も表すためにおねーさんおにいさんと呼ばせるらしい。もちろんその分、目上の者は弟妹分の面倒を見る。そうして相互扶助を成り立たせているらしい。
ただ、ぼくがヤンカさんのことをおにゃーさんとは呼ばないので、彼女はぼくの前でしきりにおにゃーさんを強調してくる。
彼女はぶーぶーと文句を言いながらも納屋へと戻っていった。
こねていた手を止め、粘度を確かめる。だいたい耳たぶくらいの柔らかさが理想だ。
「うんうん。よし。いいね。こんなもんかな《スライムモルタル》完成だ」
鏝にスライムモルタルを掬いとり崩れた部分を取り除いたレンガ塀に塗る。そしてヤンカさんの置いていったレンガを一つとりその上にぎゅっぎゅっと乗せる。
「よし、どんどんいくぞ。ヤンカさん早く持ってきてー」
「わかってるのだー。今持ってきてるのだー」
ぼくは次々にスライムモルタルを塗ってはレンガを乗せていく。
目指すは安心安全の最強の家だ。なぜ最強の家を目指すのかって?
そりゃここはモンスターが跋扈する異世界だからだ。
ぼくは崩れた外壁を修復していく。
この世界であこがれのスローライフを送るために。