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その他の短編集

恐怖の追いかけっこ

作者: 陽菜

ホラーと銘打っていますが、あまり怖くはないと思います。

――森の奥にある古い屋敷。

そこには決して入ってはいけない。

入ったら最後、どこかに連れていかれてしまうから。


 ここは田舎の高校。その高校では、こんなうわさがあった。

 森の奥に古い屋敷があるのだが、そこに入ると化け物に襲われてしまうのだと。

「そんなわけないじゃん」

 友人からその話を聞いた少女・かなこが笑い飛ばす。

「でも、言った人からこの世のものとは思えないうなり声が聞こえてきたって聞いたよ?」

「作り話だよ、化け物なんていないって」

 かなこは現実主義で、幽霊や宗教、フィクションのものを一切信じていない。だからこの話も嘘なのだと思ったのだ。


 それから数日後、別の友人・ひろこが肝試しに行こうと言い出した。

「えー、まだ夏じゃないよ?」

「いいじゃん!夏じゃなくても幽霊は出てくるかもしれないんだよ」

「幽霊なんているわけないでしょ?本当にそういうの好きだよね」

 かなこがため息をつくのだが、ひろこの押しに結局行くことになった。


 土曜日の夜、二人は懐中電灯を持って森の中を歩いていた。

「ねぇ、十三日って不吉の日なんだよ」

「へぇ。なんで?」

「何でも、イエス・キリストが十字架にかけられた日だからとか。あと、この十三って数字もそのキリストの弟子で裏切ったユダを意味するんだって。悪魔の数字の一つみたいだよ?」

「ふぅん。興味ないね」

「だろうね。かなこ、そういうの信じないタイプだもん」

 ひろこも、そのことを知っている。だからこそ彼女を肝試しに誘ったのだから。

 そんな二人の前に、大きな屋敷が現れた。本当にあったことに二人は驚く。

「こんな大きな屋敷、誰が作ったんだろ……?」

 こんなところ、誰も来ないだろうに。

 しかし、ひろこは「ねぇ、入ってみようよ!」と盛り上がる。

「えー、さすがに入るわけには……」

「でも、誰もいなさそうだし。少しだけだって」

 そう言うが否や、ひろこは屋敷の中に入ってしまう。どうやら鍵はかかっていなかったらしく、すんなり入れてしまった。慌ててかなこも追いかける。

 かなこが屋敷に入ると、後ろからカチャッと音がする。振り返ると、触っていないのに扉が閉まっていた。

「ね、ねぇ、開かないよ!?」

 必死に扉を開けようとするが、びくりとも動かない。どうやら閉じ込められてしまったらしい。

 屋敷内を歩くことしか出来ず、二人は彷徨う。途中、ガシャーン!と何かが落ちる音が聞こえた。

「ヒッ!」

 ひろこが悲鳴をあげる。かなこは冷や汗を流しながら音のした方へ見に行くと、シャンデリアが落ちたらしい。ガラスが散らばっていた。

「た、建物が古いから落ちちゃったのかも……」

 もちろん、そんなのは気休めにしかならない。でも、そう思わないと恐怖で押しつぶされそうだった。

「う、うん。そうだね」

 ひろこもコクコク頷き、なんとか足を踏み出す。

 また歩き出すと、今度は視線を感じる。二人は並んで歩いているため、視線を感じることはないハズなのに。

 同時に、ひたひたと素足で歩いている音が聞こえてきた。それに思わず立ち止まってしまう。

 そして、後ろから小さな声が聞こえてきた。

「自ら生贄に来てくれるなんて嬉しいよ」

 それは子供の声だった。同時に、何かが二人の身体にまとわりついた。


 二人の意識が戻ると、そこは見たことのない廊下。壁には呪文らしきものが書かれていた。

「こ、ここは……?」

 二人で戸惑っていると、再び足音が聞こえてきた。そして、二人の前に男の子が現れる。

 その子は一見すると普通の子供なのだが、異様なことに目が真っ黒だったのだ。白いところがまったくなく、外国で目撃されたというあのような見た目の子供。

「お姉さん達、一緒にあそぼ」

 その子供は無邪気に、しかし不気味に告げる。それに何も言えず口をパクパクさせていたが、お構いなしに彼は続ける。

「そうだね……鬼ごっこがいいなぁ!最初の鬼はぼく!」

 動けずにいた二人だったが、少年の「いーち……にーい……さーん……」と数える声にすぐに正気に返る。

 捕まったらダメだ。

 本能とでもいうのだろうか。とにかく言いようのない恐怖感に包まれ、二人は背を向けて走り出す。

 少し離れたところで、「三十!」と数え終わった声が響いた。

「さーて、どこかなぁ?」

 少年はニコニコと笑いながら、二人を探し出す。心なしか、身体中が痛い。それに、周囲が熱くなっていっている気がする。

 ここにいるのはダメだとこっそり動き出す。このまま出口を探そうと思った時。

「みーつけた」

 すぐ後ろから、少年の声が聞こえてきた。

 二人ははじかれるように走った。今までこんなに早く走ったことはないのではないかと思うほど、二人の足は速かった。

「まてぇ!」

 少年もそのあとを追いかけるが、命の危機に瀕していると分かっている人間とはすごいもので一向に追い付かれる気配はない。

 そうして何時間走っていただろうか?いや、もしかしたらたった数十分のことなのかもしれない。

 目の前に、光が見えた。二人はそこに向かって足を速める。怪我をすることも気にせずそこまで走って抜けると、後ろからこんな声が聞こえてきた。

「ちぇ、逃げられちゃった……つまんないなぁ。まぁいいや。

 どうせ、逃げられないもんね」


 ハッと気付くと、二人は森の中に立っていた。目の前を見るが、屋敷なんてどこにもない。

「ゆ、夢……?」

 ひろこが呟く。かなこも「き、きっとそうだよ……」と笑った。しかし二人は腕を見て驚く。

 なんと二人の腕には、見覚えのない印が刻まれていた。

「また遊ぼうね、お姉さん」

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