20 ダーケストストーリー2
ワンス・アポン・ア・タイム。
伝説の勇者の血を引く若者によって古の魔王は倒され、世界は光を取り戻した。
勇者の血筋である若者はその後王家の女性と結婚し、その子どもたちがいくつもの新しい国や町を作り上げたのでした。
それらの国は、若者の子孫たちによって代々治められたと伝えられています。
◆
「……またダーケストストーリーの世界、か」
見上げる空は今はまだ明るく、青々とどこまでも広がっているように思える。城から見下ろす城下町は今までのどことも違う賑やかな光景だった。
しかしこの空が繋がるはるか先では、今まさに光が奪われているのだろう。
『ダーケストストーリー2』
新しく送り込まれたこのダーケスト2の世界は、直前に救った初代の実に二百年後の世界だ。町並みだけでなくシステムもモンスターも新しくなっており、当然だが前回よりも世界の全容は広い。
「どうせそんなことだろうと思っていたよ。ゲーム機の横にはカセットが山積みだったからな」
だが今の俺は勇者ではない。一番最初に紅子紅子から世界を救えと言われたときのように、勇者に指示を出す賢者役だ。タイムリミットやエレノアのように救わなければならない人も居ないことから、初代のときよりは気楽な気持ちでいた。
それより何より今回はあの紅子が未プレイなのだ。ということは今回も記憶を持ちこせてしまう勇者だとしても、過去の経験にトラウマはない。あったとしてもエレノアほど深く傷つけられているはずもない。これなら指示もスムーズに行えるだろう。
「賢者殿、国王様がお呼びです。すぐに来てください!」
「……今行く」
王城のバルコニーから城下町を眺めていると、前回のように兵士に声をかけられた。ここかがらゲームで言うところのスタート開始だ。
ダーケスト2の主人公は二人いるのだが、ゲームプレイ時には各主人公が交互にストーリーを進め、中盤で合流してパーティになるという形式になっている。
今から出会うのは一人目の主人公、前衛担当の戦士だ。クセがなく初心者でも扱いやすいキャラクターだが、反面猪突猛進で搦手に弱い脳筋でもある。だがその特徴のない脳筋っぷりから、レベリングさえしてしまえば歴代主人公の中でも最強クラスの前衛能力を発揮するタンク兼ファイターとなれるのだ。
しかし時間との戦いとなるリアルタイムアタックでは、そのレベリングのための経験値稼ぎをどこまで削れるかが鍵となってくる。今回の冒険では関係ないだろうが、もしタイムリミットがあったのなら厳しい戦いの連続となったことだろう。
「賢者殿か。いま火急の知らせが入った。我がアンタクシア王国の祖にあたるフォグリナが……魔王復活を企む邪教神殿によって滅ぼされてしまったそうだ。にわかには信じがたいことだが、もし事実なら世界を揺るがす危機。その調査も含めて勇者の血を引く王子が旅立つことになった。賢者殿にはそのサポートを頼みたい」
「あんたが賢者か? 俺はアンタクシアの王子、マルク。これからよろしく頼むぜ」
アンタクシアの王様に紹介されたマルクは、俺よりも一回り大きいマッチョマンだった。思わず王様と王子をそれぞれ見比べてしまうほどに体格差がある。確かに脳筋だと言ったが、パッケージイラストはもっと細身だったはずだ。
だが体格以外はそれほどイラストのイメージから離れてはいない。初代主人公から引き継いだ茶色の短髪と王家の血筋を示す青い目。初期装備で能力値の少ない派手な青い鎧もそのままだ。
「俺は賢者カタギリだ。マルク王子、こちらこそよろしくな」
◆
「どりゃあ! はっは、どんなもんだ!」
「順調にレベルアップしてるぞ。この調子でもう1レベル上げてしまおう」
「おうよ!」
ダーケスト2の第一章であるマルク王子編は、実のところ初代よりも難易度が低い。
初代のときにエレノアを散々苦しめたコロンの町の盗賊のようなデストラップはないし、滅ぼされてしまったフォグリナまでの道中に宿屋が2回もある。
それでいて道中に出現するモンスターは初代と変わらずオオネズミとコウモリだ。今作から素早さの概念があるためコウモリには先制を許してしまうが、代わりに攻撃力が初代よりも低いためダメージはさほど気にならない。
唯一懸念点があるとすれば……
「ちょこまかと鬱陶しいな! 落ちろ雑魚が! へ、二度と逆らうんじゃねえぞ!」
「本当に王子か疑いたくなるほど口が悪いんだよなあ」
セリフだけならどこぞのヤンキーと同レベルだ。戦い方が荒々しいのはターン制RPGであるためどうでもいいのだが、この口調の主人公のゲームってなんかヤだな。
ゲーム中ではこっちの王子がプレイヤーだからセリフはない。そのため勝手に無口キャラだと思っていたから違和感がすごい。脳筋だからこのくらい荒削りな方がむしろ正しいのか?
「賢者殿。このあとの予定はどうなっているのですか?」
「ん? レベルを上げてから次の町で一泊する予定だが」
今話しかけてきたのは本来ここにはいないはずのアンタクシアの兵士だ。彼らはフォグリナの調査のために派遣されており、一応は王子の護衛でもある。
しかしそれはゲームのストーリー上におけるフレーバーであり、実際にはパーティメンバーでもなければ護衛として戦ってもくれない。
だから黙ってついてくればいいのに、彼らはなぜか俺に突っかかってきた。
「まだレベルを上げるというのですか!? 王子はもう十分に強いはずです!」
「我々はフォグリナが滅ぼされてしまったかも知れないと気が気でないのに、どうして賢者殿はそう悠長な事を言っていられるのです!? 一刻も早くフォグリナに向かうべきでしょう!」
「急げと言われてもなあ」
「賢者殿は俺には成長が必要だと言っているんだ。お前たちも言うことを聞け!」
「しかし王子!」
マルク王子は口は悪いが素直に俺の指示に従う。だがプレイヤーでも主人公でもないただの住人である兵士たちは、自分たちが納得できなければ俺の言う事を聞いてくれない。
だからこそ余計に耳障りでストレスを感じてしまう。
「こんなところで動物を相手に武器を振るって何になるというのですか!」
「この程度我々でも簡単に対処できる! とうっ! どうですか?」
「ああ! 貴重な経験値が……!」
兵士たちは王子を急かすために勝手にモンスターを倒し始めてしまった。おい、護衛として働くんじゃないよ!
俺はこの世界の外側の人間だから、フォグリナはもう滅んだと知っている。
だが兵士たちはそうではない。説明してやってもいいのだが、この手の連中は自分で見るまで何も信じやしないだろう。ゲームでもフォグリナにたどり着くまで一緒にいるとわからなかったし。
王子は兵士たちに混ざって何体かのモンスターを倒すが、とてつもなく効率が悪い。まるで人気のマルチプレイヤーオンラインゲームでレベリングしている気分だ。
「はあ…… こうなったら仕方がない。マルク王子、レベリングは一度止めて、町まで進もう」
「なに? もういいのか?」
王子は納得がいっていないような表情だが、それは俺も同じだ。
「兵士たちが狩ってしまうからな。とりあえず町まで行こう」
「! 賢者殿、わかってくれたのですね!」
「まさか身内から邪魔が入るとは思わなかった。ただし、絶対に宿で休むぞ。回復しなければせっかくのレベリングも無意味になってしまうからな」
回復は絶対に必要だ。たとえ目標レベルを大きく超えていたとしても、体力が低ければなすすべもなくやられてしまう。
俺はそう伝えたつもりだったのだが、この兵士たちはそんなこともわかってはくれなかった。
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