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16 カンスト後の世界の歩き方



『レインボーガスト』

 体力7。攻撃力7。守備力7。経験値777。虹色に煌めくゴーストの色違いであり、完全に経験値用のモンスターだ。


「ハッハッハッハッ! 大漁大漁!」

「うーむ、こんな敵がいるなら、盗賊の団長と何度も戦う必要はなかったのではないか?」


 エレノアは腕を組んでなにやら言っているが、本来この敵は前回の攻略でバグアーマーを入手した滅びた町にいるマップ上の死体に話しかけないと出てこない。

 そのうえでゴーストが出るかレインボーガストが出るかはランダムであり、ゴーストの方は即死攻撃持ちなので相手にしたくないのだ。

 レインボーガストの出現確率はクリティカルと同じく1/16。マップ上の配置は6体であり、町を出入りすればリポップするとは言えとても現実的ではない。


「しかーし! デバッグ用と思われるこの島であれば確定出現! レアながらシンボルエンカウントのため逃げもしないので狩り放題だ!」

「敵ながら喜々として狩られるのを見るのは不憫だ。だがやはりそれなら最初からここで良かったのではないか?」


 エレノアの言うことはもっともだ。しかしこの場所を使いたくなかった理由ももちろんある。


「気持ちはわかるが、レインボーガストが出るのはこのマップ上のこのマスだけだ」

「ふむ? 実際には広いが、マップ上ではとても小さいな」

「そして敵と遭遇するには一度このマスから出る必要がある」

「確かに魔物は一定間隔ごとにしか現れないな。それで?」

「あちらをご覧ください」


 エレノアが振り返るとそこには巨大な槍を持ちニヤニヤと笑う悪魔がいた。


「な!? いつの間に!?」

「実はずっと居たが、そいつはこちらには入ってこれないので無視していた。ここだけじゃないぞ? このレインボーガストの周囲8マスはすべて魔王城の高レベルモンスターだ」


 確かにレインボーガストは確定で現れる。しかしその他のマスでも別の魔物が確定で現れるのだ。そしてそいつらは変身後の盗賊団長、鎧の魔族よりもずっと強い。


「レインボーガストが再出現するまでこのマスと隣のマスを往復しなければならないんだ。やっていることは団長狩りと変わらない」


 周囲の魔王城の雑魚モンスターは現時点ではボス級の強さを持つ。そのために逃げミスを2回しても生き残れるだけの数値があるレベル13が必要だったのだ。そこまでのレベリングを含めると団長なら当時のレベルでも狩れていたので、効率はどうしても団長に負ける。


「だが団長と違ってこいつは喋らないし、特に設定もない! 気兼ねなく狩れるぜ! ヒャッハー!」


 こうして新たな狩り場で狩りと逃げを繰り返した俺は、途中からは周囲の強敵雑魚にも勝てるようになり……

 せっかくなので最大レベルの30まで上げきった。

 時間は相当かかってしまったが、これだけあればラスボスの魔王にも余裕で勝てる。……武器の準備は必須だが。

 ふと気がつけばエレノアは横になっていた。どうやら時間をかけすぎたせいで眠ってしまったらしい。


「エレノア? おーい、起きてくれ。こんなところで眠っていると風邪を引くぞ?」

「ん、う…… 勇者さま……はやく、助けに…… わたしは、洞窟の……」

「エレノア?」


 寝言だろうか。しかし今のセリフはただの寝言ではない。初代ダーケストストーリー攻略の、重要なヒントの1つだ。これは攫われた姫の……


「っ!? すまないカタギリ殿! 眠っていたようだ」

「うおっと、おはようエレノア。レベル上げは退屈だし仕方ないさ。だがこんなところで寝ていては危険だぞ? いくら非戦闘員、ゲーム外部の存在とはいえここはダンジョンの中だ」

「面目ない。言い訳をするつもりはないが、カタギリ殿背中を見ていると、つい安心してしまってな」


 そう言って頬を赤らめるエレノア。あまりにも愛おしいが、後ろにはニヤニヤ笑う悪魔が居てそれどころではない。


「何にしても、これで準備はすべて整った。ストーリーの続きを進めよう」





 レベリングの終わった俺たちは名前のない島で『雨雲の種』を無事に回収。ここは特にイベントなどはなく、反対側の港でこのアイテムが隠されていることを示唆されるだけだ。


 次に向かったのは月の塔。一応ハイドラウィップを回収し、『精霊の加護』を手に入れるために最上階まで登る。

 ここのボスは先程出現していたニヤニヤ笑う悪魔。その名もそのまま『笑うデーモン』。

 しかしこいつは笑える存在ではなく、魔法耐性に加えて盲目状態の状態異常攻撃を持つ。レベルを上げきっているために苦ではなかったが、普通に挑むと割と事故りやすい。なお盲目状態は戦闘中の通常攻撃命中率半減であり、初代での解除方法は戦闘終了のみ。つまり勝つか逃げるしかない。

 そして性質が悪いことに戦闘終了後、『精霊の加護』を入手した瞬間に再戦となる。一応逃げられるのだが、逃げられること自体が罠であり、逃げると精霊の加護を手に入れていない扱いになってしまう。通常プレイのときは注意が必要だ。


 そして橋をかけるための最後のアイテム。太陽の祠で『夜明けの火種』を入手。この祠でのイベントは勇者の証を示せと言われ、雑魚敵との3連戦をするだけだ。順番的にはこちらが一番最初なので特に事故要素はない。


「これで魔王城に向かう準備は整ったわけだが……」

「カタギリ殿? 浮かない顔だが、なにか問題があったのか?」


 問題はないはずだ。チャート通りに進んでいる。何の問題も起きていない。

 だからこその違和感。シュレディンガーの妨害がないのだ。


「一応このままでも進めるが、念のため勇者の装備を整えよう」

「おお! 伝説には聞いているぞ。あらゆる魔を打ち払う『勇者の剣』! すべての攻撃を防ぐ『勇者の盾』! 着ているだけでその身を癒やす『勇者の鎧』! それを手に入れるのだな!?」


 エレノアは興奮しているが、それも無理はない。ゲームでも語られる最強の装備なのだ。

 攻撃力上昇はないが相手の防御力を一部無視して必ず通常攻撃が命中する『勇者の剣』

 防御力もさることながら、次に受けるダメージを0にするバリアを使用可能な『勇者の盾』

 そして全ての状態異常を無効化する上に固有能力で回復魔法も使える『勇者の鎧』


 実際に揃っているのを、この世界の人間なら誰でも見たくはなるだろう。


「まあそのうちのひとつ、『勇者の剣』は魔王城にあるから後回しだ。まずは盾から取りに行こう」

「早速か! 勇者の盾、一体どこに隠されているのやら……」

「言いにくいんだが、最北の町でオークションに掛けられている」

「…………え?」


 勇者の盾は、残念なことにただの高額商品だ。一応設定的には北の冒険者が海で見つけたものということになっているが、どうあれ店売りだ。


 なので金を積むだけであり、特に何事もなく入手。


「……これが『勇者の盾』……! 勇者のアザと同じ紋章が描かれているな」

「というよりこの紋章に似たアザが出るのが勇者の血族なんだ。……まあ俺は血族ではないが」


 正体不明の金属でできた勇者の盾は意外と軽かった。固有能力を使用すると周囲に半透明のバリアが出る。


「ふふ、それを持っているだけでカタギリ殿もずいぶん勇者らしいぞ」

「戦い方はどうしようもないけどな。それじゃ、見た目だけでもまともにするために鎧に向かいますか」





 勇者の鎧はダンジョンの奥にあり、きちんとボスに守られている。


「それでも俺の敵ではない! ホーリーレイ!」


 レベル30で覚えるご褒美必殺技『ホーリーレイ』。これはラスボス以外の敵に最大体力の100%のダメージを与える魔法であり、初代にしか存在しない最強の単体攻撃だ。

 鎧を守っていた巨人ゴリアテ。体力だけならラスボスをも上回る最強の脳筋だが、この魔法の前では無力だ。


「グゴゴゴゴ……」

「わかっていたが、わかっていたのだが…… レベルを上げすぎるのも、なんというか風情がない……」


 地下なのに天から差す光の一撃で沈んでいく巨人。あとに残ったのは大きな宝箱だけだ。


「風情のために死にかけるなんてことはできない。ここはゲームの世界だが、この世界の住人にとっては現実だからな」

「それはそうなのだが…… あの巨人の表情が、あまりにも、な」


 羊飼いに石ころで倒された巨人よりは、天の光なだけマシだと思ってもらうしかない。


「それはともかく鎧もゲット。これでより勇者らしくなったかな?」


 盾と同じく謎金属でできたどこか未来っぽい銀の鎧。背中にはマントがあり、そこにも勇者の紋章が描かれている。


「うむ、似合っているぞ。次で最後か。しかし魔王城にあるのだろう? もう向かうのか?」

「まあ、そうなんだが……」


 勇者の剣の入手条件。それは勇者の盾と鎧を持っていること。そして姫を助けていることなのだが……


「なら早速姫を助けに行こうではないか」

「あー、うーん。そうなんだが」


 姫を助けた後に入手する『王女のお守り』。これの入手方法がなんと姫との婚約なのだ。


『わたしは勇者さまをお慕いしております。必ず生きて帰ってくださいね』


 そんな健気なセリフとともに渡されるお守り。

 ちらりとエレノアを見るが、彼女は興奮気味に早く行こうと催促をしてくるだけだ。


「気まずいなあ……」


 どうあれそれがなければ勇者の剣は入手できない。足取りは思いが、姫が攫われている岩山の砦へと向かうことにした。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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