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15 港の守り神



「無事に町を救うことはできたし、盗賊たちも壊滅した。次はどこへ向かうんだ?」

「ストーリー通りなら魔王城へ向かうためのアイテムを探すことになる」

「……あの透明な橋か」

「本来は帰り道に使った虹の橋があるだろう? アイテムを使うことで透明な橋が虹色になるんだよ」


 前回はずるをして見えないまま進んでいたが、本来は太陽の祠で『夜明けの火種』、月の塔で『精霊の加護』、名前のない島で『雨雲の種』を入手することで虹の橋をかける。だがゲームではデータ容量の都合で透明にすることでしか隠せなかったそうだ。もちろん今回はきちんと攻略する予定だが。

 その他に名前のない島に向かうための船、勇者の剣を手に入れるための『王女のお守り』等がある。

 古いゲームだが別に入手順は決まっていない。なので好きなところから進めることができるのだが、


「レベリングが完了していないから、まずは港へと向かおう。そこで船を手に入れる」

「船だと? そう簡単に入手できるものなのか?」


 リアルなこの世界では普通はそう考えるだろう。だが実際には自由に使用できる権利、設定的には勇者のために何処でも運んでくれる船乗りたちと言った感じなので、実際に船を手に入れているわけではない。まあ続編ではしっかり手に入ったりするのだが。


「港町も凶暴化した魔物のせいで船が出せないといった危機に陥っている。それを解決し、そのお礼に船を使わせてくれるんだ。本当に手に入る訳じゃない」

「そうだとは思ったが、なにぶんカタギリ殿は常識知らずなことをしてのけるのでな」


 エレノアは苦笑するが、俺だって常識は知っている。使わないだけだ。





 ミネ大河。大陸南部を東西に分ける大きな川だ。

 その川を挟む形で存在しているのがミネの川港。特に命名されていないが攻略本等では西港、東港と呼ばれている。

 現在居るのは西港だ。


「旅人さんかい? 対岸までの船は今は出てないよ。魔王のせいで魔物どもが凶暴化しちまってなあ」


 道具屋で薬草を買い揃えながらそんな話を聞く。


「店主殿。こちらは国から魔王討伐の命を受けた勇者カタギリ殿だ。船が必要なのだが、どうすればその問題は解決できる?」

「そんなことを言われてもなあ。魔物が凶暴なのは魔王のせいだろ? なら魔王を倒すしかないんじゃないのか?」

「そのために船が必要なんだ」

「そう言われてもなあ」


 店主は困ったように頭をかく。それも当然だ。こいつはただの道具屋。イベントのキーパーソンではない。


「エレノア、この人は何も知らない。次に向かうぞ」

「毎度あり」


 エレノアを連れて町の外へ。この港ではセーブポイントの上書きと薬草の補充以外に用はない。


「カタギリ殿、そっちは町の外だが?」

「ああ、この港の問題は港の中では解決しないんだ」

「……知っているなら先に言ってくれればいいのに」

「この先に川辺の洞窟というダンジョンがある。その奥にいる守り神がボスだ。そいつを倒せばいい」


 町の住人に聞き込みを続ければこの洞窟の話が聞けるが、別にフラグに関わっていないのでスルーした。エレノアは不満気だが、タイムアタックとは本来そういうものだ。余計に2回も宿を利用したが、あれも精神衛生上必要な行為だった。


「ボスというのが敵のことだとはわかるが、守り神を倒していいものなのか?」

「魔王の力で呪われているんだ。倒して正常に戻す、と言えばわかりやすいか」

「呪いか。強力な魔法以外にも厄介な術を使うのだな」


 呪われているのは確かなのだが、魔王の呪いがどういったものなのか詳しい理由は設定されていないので、そういうものだと納得してもらうしかない。

 ちなみにボスの見た目は白いワニだ。


 ダンジョンまでの道中はネズミやコウモリと言ったお馴染みの敵にオオカミや森にいた蛇が混ざり始めてきたが、ウインドアックスの前には敵ではない。

 このゲームはRPGだが、道中の雑魚相手には装備品の固有能力や魔法で無双ができるため、ハクスラ的な側面もある。

 実際ウインドアックスがなくてもレベル7で敵全体に15前後のダメージを与える攻撃魔法のエアカッターが使えるようになるため、通常プレイなら森でもそこまでの苦戦はしないのだ。状態異常持ちはたまに倒しきれないこともあるが。


「ここが洞窟か……生臭いな」

「守り神だけでなく水棲の魔物も出るからな」


 洞窟内の敵は先程までとは打って変わって水生生物だけになる。

 半魚人の魔物『マーマン』、物理防御に優れた『オオイワガニ』、森にいた蛇の色違い『しびれウツボ』。

 この中で注意が必要なのはやはり麻痺持ちのしびれウツボだろう。体力も30を超えるためウインドエッジだけでは倒しきれない。

 しかし現在のレベルは10。攻撃力はウインドアックス込みで68。


「レベル10を超えた今なら通常攻撃で倒せるんだ。ウインドアックスの一撃の前では敵ではなーい!」


 見様見真似の棒立ちフルスイングだが、ここはRPGの世界。回避行動以外で避けられることはなく、どんな無様な攻撃でも必中になる優しい世界だ。


「構えも体捌きもめちゃくちゃだが、その威力はすごいな」

「運動の苦手な俺でさえこうなんだ。エレノアだったらもっとかっこよく決められている」

「そうだといいがな。……お、レベルが11になったぞ」


 ようやくか。やはり団長周回でのレベリングができなかったのが響いているな。


「12になれば最後のセーブポイントまで戻れる魔法を覚える。最低限それまで狩りを続けよう。守り神はその後だ」


 通常攻撃で倒せる雑魚しか出ないエリアだが、逆に言えば範囲攻撃での一掃ができない。群れで出てくる相手にはどうしても被ダメが嵩むため、無理はせずに堅実なレベリングだ。


「今回はずいぶん慎重だな」

「このエリアには有用なバグ技や裏技がない。シュレディンガーにとってもそれは同じだろうから、経験値稼ぎはできるだけ安全なエリアでしておきたい」


 それにここではずるができなくても次にはある。これはそのためのセットアップだ。



◆紅子



「うーん。真面目にやってくれてるのはいいんですけど、レベル上げばかりだと退屈ですねえ」


 今の紅子にできることは、勇者となったカタギリの映像をただ眺めていることだけだった。先程までは宿屋に入る度に無駄な行為を見せつけられ、その度にエレノアを消してやろうかとも思っていたが今はそれほど殺意もない。一時の感情の揺らぎだ。

 しかしカタギリが真面目にゲームをしている画面というのも、退屈ではあった。そもそもRPG、それもレトロゲームだ。容量の問題でストーリーはそこまで深いものではなく、かと言ってすぐにはクリアされないようになっているため、メインコンテンツはレベル上げだと言っても過言ではない。

 当時のプレイヤーにとってはそこまで苦ではないが、現代の人間や傍観者からすればそれはそれは退屈なものだろう。

 それこそが紅子がエレノアを殺し続けていた根本的な原因でもあるのだが。


「紅茶のおかわりでも用意しますか」


 紅子がモニターの前から姿を消す。つまらない画面ばかり見ていた彼女は、気分転換のために凝った紅茶を作り始めた。


 だから彼女は知らないのだ。


 レトロゲームの盛り上がる瞬間が、ほんの数分で終わってしまうことを。





「おお勇者さま! まさか守り神さまが呪われていたとは! なんとお礼を言えばいいのやら。守り神さまの力が戻ったことで、魔物も大人しくなるでしょう」

「それは良かった。なら船は出せるな?」

「ええもちろん! 聞けば船をお探しとか。どうぞどうぞご自由にお使いください。あなたはこの港の救世主だ!」


 というわけでレベルは13まで上げ、無事に守り神を倒すことに成功した。ゲーム画面ではサイズ感がわからなかったが、まさか10メートルを超える巨大ワニだとは思わなかった。そりゃ神と言われるだけのことはある。


「やったなカタギリ殿! カタギリ殿が頭から食われて錐揉み回転されたときには、ねじ切れてしまうのではないかと心配したが、人間どうにかなるものだな!」

「俺もアレには参ったよ。キラースピンって技名は知っていたが、まさかあんな派手な技だとはな」


 守り神最大にして最悪の攻撃キラースピン。現在体力の半分の防護力無視ダメージとかいうイカレ攻撃がなければもっと安全に戦えていたのだが、食らってわかった。アレはそれだけでは済まない威力の技だ。勇者でなければ即死していた。


「なにはともあれ、これで船をゲットだ!」

「おめでとうカタギリ殿。これで魔王城へ向かうアイテムを取りに行くのだな」

「いや、それはまだだ」

「え?」


 またもや首を傾げるエレノア。確かに名前のない島で『雨雲の種』を手に入れる。そのための船だ。

 しかし使い道はそれだけではない。


「他にも島はあるんだ。その中に1つだけ、存在してはいけない島がある」

「……なんだと? そんな怪しげな島にいったい何の用が……」


 その島はあらゆる雑魚敵が1マスずつに配置された、通称テストルームダンジョン。そこには魔王城のボス並みに強い敵からレアな敵まですべてが配置されている。


「もちろん、レベリングだ」


 当然このゲームにも存在するのだ。莫大な経験値を持ったザコモンスターが。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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