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10 魔の森へ


 城下町を出た俺たちはコロンの町を迂回して真っ直ぐにイチの村へと進む。道中何体かの雑魚に遭遇したがもちろん戦わない。森まで全部逃げだ。

 この初代ダーケストストーリーは逃げの成功率が高く、成功判定が50%からスタートし25%ずつ上がる。そのため3回目で必ず逃げられる。そして逃げに失敗しても敵は1体しか行動しない。これは主人公が1人で冒険をしていることへの救済処置だ。

 つまりどんなに逃げ運が悪くても、1回の戦闘ではクリティカル込みで最大6ダメージまでしか受けることはない。更にゲームと違いリアルになったこの世界では敵は見えているため、ある程度迂回して戦闘を回避することができる。そして何故かそいつらは追ってこない。

 初期体力31なので5回までなら最低乱数を引いても死なないし、5回戦闘に合う頃には村には着いている。


 ところでエレノアが勇者だったとき、俺は序盤の被ダメージは2か3なので防具を売りたいと考えていた。しかしなぜ今は序盤の最高装備で防具を揃えているのか。

 それは初期レベルのまま森に向かうためだ。

 そんなわけで残り体力22を残して村に到着する。


「結局ロクに戦わずに来てしまったが、また村長からむしるつもりなのか?」

「いや、軍資金のミニイベントは敗北時の救済措置だ。今回は使えない」


 一応セーブしてから死ねばできないわけではないが、前回と同じチャートというのも面白くないし、無駄に死にたくはない。エレノアにも余計な心労になるだろう。

 それに順番通りにクリアしろと言われているため、今回はマッスルアーマーからのハイドラウィップチャートは使用できない。


「ここには薬草の補充に寄っただけだ。教会にも顔を出すが、すぐに出る」

「しかしそのための資金は……あ、こら、それは人のものだろう」

「世界を救ったら返す。それまで借りるだけだ」


 というわけで前回エレノアがスルーした薬草を回収。世界を救った後に俺はこの世界には居ないだろうが、その時は国に請求してくれ。

 更に井戸に落ちている50ゴールドも回収。本来なら宿へ向かうが今回は被ダメージも少ない。それに前回の事もあるので宿はカットした。

 拾ったゴールドは全て薬草に替え、合計7枚。


「体力は少し減っているがこの程度なら問題ない。このまま森へ向かうぞ」

「ああ、わたしは止めはしない。しかし森の敵は強いと聞くぞ。いったいどうするつもりだ?」


 エレノアは心配そうだが、何も心配することはない。

 いや乱数の神だけは不安だが、なにせ世界の危機なのだ。多少はデレてくれ。


「前に言ったが、森には隠された宝がある。今からそれを取りに行くんだ」





 前回は来ることがなかった魔の森。

 本来であればコロンの町での盗賊討伐後、町長から町の宝が盗み出されてここに隠されていることを聞き出してから来ることになる場所だ。

 リアルになった森は外から見る分には意外と狭く、しかしいざ入ってみれば視界は木々に覆われていて、アカフォンのマップがなければすぐに迷ってしまうだろう。

 森の中は視界が悪いため、外のように遠くから魔物を発見して迂回するというのが難しい。

 マップを見ながら進んでいると、間の悪いことに木の裏から現れた影、新たなモンスターとエンカウントしてしまった。


「歩きスマホはやめようね!」

「何を言っているんだカタギリ殿!? 敵、敵だ!」


 森の敵は確かに強いが、被ダメ自体は今までとそう大きく変わらない。問題になるのは状態異常攻撃持ちが複数いることだ。

 継続ダメージである毒状態を付与する鱗粉攻撃を持つ蝶型の魔物『ポイズンモス』。

 約3割で行動不能になる麻痺状態を誘発させる『しびれ大蛇』。

 そして2ターン行動不能が約束された最悪の状態異常、睡眠になる催眠ガスを使用する『ネムリダケ』。

 初期配置の大ネズミとコウモリに加えて、これらの初見殺しモンスターがこの森には出現する。

 一応この森では状態異常持ち同士のセットは出てこないが、ネムリダケと2体のネズミがセットで現れるとレベルを上げていても敗北の可能性がある。

 今回現れたのはポイズンモス単体だったが、逃げに一度失敗してしまった。


「クソッ! わかってはいたが、なかなかきついな!」


 1戦目で毒を貰った。今回は毒消しを用意していないので、以降の戦闘中はターン終了ごとに割合ダメージを喰らうことになる。

 戦闘中の毒は体力の最大値を参照するので現在は2ダメージずつであり、敵が1体増えたようなものだ。逃げに成功すれば毒ダメージはないので大したことではない。

 しかし戦闘以外の面できつかった。前回の毒沼同様にリアルになったせいで、現在俺の身体は酷い寒気と鈍痛に襲われている。さらにマップ1マスごとに体力が減っていく。

 よほど売れがつらそうに見えたのか、心配そうな顔のエレノアが声をかけてきた。


「カタギリ殿、今からでも戻らないか? 今ならマップを見ればすぐに帰れる。やはりレベルを上げるべきではないだろうか」

「不安にさせているのは謝罪するが、むしろこれはラッキーなんだ。乱数の神の祝福を無下にする訳にはいかない」


 無理に笑ってみせるが、口を開けると吐きそうだ。毒ってこんなに辛かったんだな。

 ところで何がそんなにラッキーなのかというと、初代ダーケストストーリーの状態異常は重複しない。そのため毒になっていれば麻痺も睡眠も怖くないのだ。

 このチャートを使用したタイムアタックでは他の状態以上を引いたらリセット案件なので、初戦で毒を貰ったのはまさに祝福だった。

 もちろん無用なダメージではあるので何も状態異常を引かないに越したことはないが、そこまで乱数の神は甘くない。


 その後も何回かの戦闘を逃げ、薬草は残り3枚。思ったよりも良いペースだ。

 迷路のように立つ木々を抜け、目当ての行き止まりに辿り着く。


「勇者殿、こっちは行き止まりだぞ? 何もないが……」

「よく見て見るんだ。少しだけ周囲と色が違うだろう? あそこは盗賊の隠れ家だ」

「……盗賊……あいつらの……」


 エレノアの表情が強張る。紅子の無茶な命令によって殺され続けた戦闘、あの盗賊たちを思い出しているのだろう。


「今は誰もいないから入っても問題ない。……時間はかからないから外で待っているか?」

「……ああ」


 やはりまだ盗賊への恐怖心が残っているのだろう。実際このアジトに盗賊は居らず盗まれた宝とゴールドしかないのだが、やはり奴らの住処なのだと言わんばかりに獣のような匂いが充満していた。エレノアは着いてこなくて正解だったな。


 目当てのものはわかりやすく宝箱に入っていた。このチャートの冒険は、ここからが本当のスタートだ。





「それが例の宝か」


 アジトから戻るとエレノアは俺の腰に吊ってある得物に気がついたようだ。


「そうだ。これこそがコロンの町の宝剣『ウインドアックス』だ」

「宝剣? ……斧ではないのか?」

「……やっぱり斧だよなあ?」


 俺も斧だと思うが、アイテムの説明には剣とある。続編でも武器の種類は剣で、斧が追加されてもこれだけは剣のままだった。まあそんなことはどうでもいい。必要なのはその能力だ。

 このゲームの武器や防具は固有の能力を持つものが多数ある。体力が増えるマッスルアーマーや、クリティカル確率が増えるハイドラウィップもそれだ。

 そしてこのウイングアックスにも、もちろんその固有能力がある。


「ともかく、これで武器と防具が揃った。ここからはレベリングだ。勇者カタギリの武勇ご照覧あれ、ってな」

「おお、ついに戦闘か。しかし失礼だがカタギリ殿はあまり戦いに慣れていない様子。先の魔王戦も勝ちはしたが、その戦い方はなんというか、その……」

「わかってるよ。俺には武術の心得はない。子供の頃にチャンバラごっこをしたくらいだ」


 俺の戦い方はダサい。そんな事は知っている。だからこの『ウインドアックス』チャートにしたのだ。

 手頃な敵を探しながら、森の入口へと戻っていく。


「早速現れたな!」

「敵は3体か。2体はただのオオネズミだが、あの蛇の攻撃はダメージが大きい。本当に大丈夫なのか?」

「問題ない。そうでなければ、わざわざ取りに来ないからな!」


 ウインドアックス。羽のように軽く、一度振るえば竜巻を呼び起こすとされる魔法の剣。

 俺は授業でやらされた野球の構えを思い出しながら、その斧のような剣を大きく振るった。


「ウインドエッジ!」


 この武器の固有能力は攻撃魔法だ。初代ダーケストには魔法防御力の概念がなく、一部のボスを除けばほとんど固定のダメージを与えることができる。

 その威力は中ボスの盗賊を一撃で落とせる30ダメージ。これがあれば街の人間だけでも盗賊たちを倒せたのではと考えてしまうが、だからこそやつらは盗んだのだろう。

 そしてこのウインドエッジは風の刃をまとった竜巻。すなわち全体攻撃だ。


「……すごい! あの魔物たちを全部一撃で……!」

「魔法頼りの攻撃だが、これなら少しはマシに見えるだろ?」


 振るったウインドアックスを肩に担ぎ、俺はぐっと親指を立てた。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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