勇者チームへの抜擢、それは嬉しいけど、これは勇者チームの仕事ですか!
商業主義に侵された勇者チームと魔王征伐。
夢見る少女フェイは勇者チームに選ばれ有頂天となるも現実を教えられる。
「フェイ・フォード、そなたを勇者チームの一員とする。
直ちに勇者チームを追いかけ、チームの勝利に貢献せよ」
宰相の言葉が宮廷に響く。
フェイは伯爵家の次女だったが、その魔力の多さから魔法学校でもそこそこ上位クラスだったが、思いもかけぬ抜擢を受、勇者チームメンバーの魔法使いの補欠となっていた。
この度、正規メンバーの魔法使いが負傷したことから、彼女に出番が回ってきたのだ。
(これはチャンスよ。
必ず勇者様を捕まえてみせる)
勇者アンソニー・リンカーンは、王家の血を引く公爵家の三男、今回の魔王征伐に成功すれば所領を与えられ叙爵されると噂されている。
そしてフェイ達貴族の女子に重要なのは、彼が素晴らしいイケメンで、武勇にも優れた理想の王子様と言われる存在だったことだ。
これまでは部屋住みだったため、後継ぎ娘が婿取りで狙っていたが、この魔王征伐に起用されたことにより、上位貴族の娘は誰しもが彼を狙うようになった。
フェイは以前からアンソニーに憧れていたが、今回は絶好のチャンスと意気軒昂である。
「それで護衛には誰が行く」
「エディ・クライが行きます」
宰相の問いに騎士団長が答える。
そして、黒髪で眠たげな顔をしたガタイのいい男が出てきた。
勇者チームは既に魔境の奥深くまで侵入している。
そこまでこの男が送ってくれるようだ。
「畏まりました。
フォード殿を送り届けてみせます」
その後、エディという男と打ち合わせをする。
明日にでも出かけるのかと思っていたら、勇者チームへの食料や日常品も補給するとのことでまだ10日以上かかるらしい。
「何を悠長な。勇者様が困っておられます。
もっと急げないの!」
声高に言うフェイに、エディはにこやかに答える。
「おっしゃる通りです。
最大限急ぎましょう。
フェイ殿も頑張って下さい」
何を頑張るのかしらと思ったフェイに、アカイ衣料店と名乗る会社がやって来て、「勇者チームに入るなら、うちの服を着てもらわねば困る」と言い出し、寸法を測って衣装を作り出す。
次にマルカワ出版がやって来て、雑誌のインタビューだとあれこれ聞かれ、特に勇者との関係をしつこく尋ねられる。
「何よあれは!」
とエディの居る騎士団に行って聞くと、魔王征伐のスポンサーだと言う。
なんと勇者チームの費用は色々な会社が出し、その代わりに会社の便宜を図ることになっているのだとか。
「国民も勇者様の活躍を楽しみにしているのに、何故国が出さないのよ」
「国民は楽しむだけで、身銭は切ってくれません。
国の予算はもう用途が決まっています。
そこで私が宰相様に申し上げて、スポンサーというものから金を出してもらうことにしたのです。
無論、フォード家で費用を出すのであればスポンサーはいりませんよ」
次女の私を魔法学校に行かせるのも渋っていた両親に言えるわけがない。
「わかったわよ」
その後は、色々な飲料や食べ物、菓子、服、装飾品の広告塔となり、あちこち連れて行かれる。
週刊誌には、『美貌の魔法使い、勇者を巡って僧侶と三角関係か』などと書かれる。
出発前からフェイはクタクタになった。
その頃、ようやく出発の準備ができたとエディから知らせが来る。
「何でこんなに時間がかかったのよ!」
「フェイ殿があちこちの企業の宣伝に出てくれたので、ようやく金ができて、物資の調達が捗りました。
これで出発できます」
「なんと悠長な。
他国も勇者チームを出していて、どの国が征伐するか世界が注目しているのよ。遅れを取るわけに行かないわ」
「ご安心を。状況は把握しています。他国もそれほど進んでいません」
エディは自信ありげにいう。
そうしてようやく王都を出発するが、フェイは出発のパレードで、魔法使いの衣装や小物を何度も着替えては民衆の前を通行させられ、心底疲れた。
大勢の人々の歓声を受け、王都の城門を抜けると、フェイは馬車に倒れ込んだ。
「お疲れ様。
でも気を抜かないように」
エディが飲み物を渡しながら言う。
「これ、オタコークよね。
私、パプシの方が好きなんだけど。
あと、何で気を抜いたら駄目なの?」
「物資はすべてスポンサー様の提供ですので。
気を抜くと、後ろから付いてきているパポラッチに水晶球で姿を撮られます。
凛とした魔法使いで売ってますから、イメージダウンは損害賠償で訴えられたり、スポンサーを降りられますよ」
キー!(#・∀・)
フェイはムカついたが、エディの話を聞いて黙り込んだ。
「フェイさんが選ばれたのも、魔法の能力より容姿優先でしたから。
これくらい勇者チームに比べたら月とスッポンですよ。
フェイさんも何か目的があって勇者チームに入るのでしょう。
それまでの我慢ですよ」
それからフェイは我慢我慢と言い聞かせるが、護衛隊兼補給隊はノロノロとあちこちの都市を寄って、勇者チームの宣伝と物品販売、スポンサーの募集を繰り返した。
ある小さな町で暫く泊まり、そこでフェイはいつも以上に色々な場所でポーズを取らされ、物を食べさせられる。
エディは何やら忙しそうに走り回っていた。
一週間ほども滞在してようやく出発する。
「ここが王国最後の町ですからね。
色々と準備が大変でした」
そう語るエディに対してフェイの目は冷たい。
(こいつは怪しすぎる。
どうせ何か金絡みで走り回っていたのだろう)
それでも、数日後、魔境の中の開けたところで勇者チームと合流し、勇者アンソニーの輝くようなイケメンの笑顔を見るとフェイの疲れも吹っ飛んだ。