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あの日に  作者: トリケラトプスに踏まれた蟻
2/2

君は誰だ。

早朝、俺は黒崎太郎と予定通り船で沖の方まで釣りにきていた。船には俺と太郎の他に太郎の父「黒崎猿之助」を含む3人で貸し切り状態だ。猿之助の舵きりで一番のポイントへ案内してくれたおかげでクーラーボックスは既に満杯だ。


「うお、50センチ越えだ!」低く掠れた声で太郎は言うと丸々と肥えたアイナメを両手に抱えて俺を見下している。

「相変わらず、釣りうめえな。うぜえ」

「三郎、お前は餌つけてんのか?さっぱりじゃん。ほとんど釣ってるの俺じゃん。」

「うるせえよ。」バケツの水を手につけて太郎に飛ばす。

「わかった。わかった。やめろって。」

俺は今日、まだ1匹しか釣れていない。仕事も上手くいかなければ釣りもダメか。少し悲しくなった。


「おーい。昼にするぞ。食え」野太い声と共に猿之助は迫力満点のおにぎりと卵焼き、ウインナーが入った弁当箱をもってきてくれた。

お腹は先程からぐうぐう鳴っていておにぎりにかぶりつく。

「うめえ!!!」何もかもが吹き飛ぶおいしさで叫んだ。海を見ながら食べるご飯は最高だ。

「あぁ、うめえな!」太郎もガツガツ食べている。

青空に太陽、風も丁度良い。

「最高だな。」自然と口にでる。

ふと腕をみるといつの間にか焼けて赤くなっている。

「なあ、三郎、仕事どうするんだ?」

「知らねー。今は何も考えたくねえ」

「そっか。ガハハハ!困ったら俺んとこの会社来いよ。」

「あざす。でも今は働きたくねえええ!」

2人で寝転がり大声で笑った。

大きな入道雲が船の上に来ていた。

「なあ、三郎。」

「なんだよ。さっきから」

「このあと、七海の家に行こうと思う。お前も来るよな?」

一瞬冷たい風が吹いた。

「え?」思わず聞き返した。

「いや、明日、七海の命日。だからさ。」

「ああ、、うん。行くよ。」


入道雲から隠れていた太陽が顔を出し目を細める。


七海。「貝原七海」は子供の頃からの幼馴染で俺と太郎とよく遊んでいた。仲良しではあったが喧嘩をするといつもボコボコにやられていた。容姿端麗で明るくしっかり者の七海は村の中でも人気が高く、どの年代の人たちからも愛されていた。


そして俺と太郎は七海のことが好きだった。

中学3年の夏。太郎は七海に告白するが振られてしまった。俺もその後に続いて12月のクリスマスを前に告白するが振られてしまう。

「友達としていたい。」同じことを俺と太郎は言われて撃沈した。

その後も仲が悪くなった訳ではなく相変わらず3人で遊んでいた。卒業アルバムも3人で撮った。


そんなこんなで甘酸っぱい青春になるはずだった。

だけどそうはならなかった。

高校1年生の時だった。青ざめた顔で七海のお母さんが家にやってきて「七海を知りませんか?。。いなくなったんです」と、泣きながら言ったのは。

そして、警察は勿論のこと村を上げての捜索が始まりテレビ記者もきてニュースにも取り上げられた。一ヶ月が経った頃に七海の制服と靴が村で有名な自殺の名所苗代ダムの中に浮いているのが発見された。

七海の遺体を探すため、苗代ダムの水を抜いて探したが七海の遺体は見つかることはなかった。

「自殺した」と村の人たちの間では話が広まった。俺と太郎は信じられずに今もいる。



いつの間にか船は港に着いていた。


「おーい、いつまで寝てんだ。」太郎の声がする。

「あ、いや、寝てねえよ。ついたか。」

「猿之助おじさん。ありがとうございました。たくさん釣れて楽しかったです。」

「はいよ。また来てな!はい、これ」

猿之助から渡されたクーラーボックスはずっしりと重い。

「大量っすね!」

「さて、行くか!!」太郎が声を張る。

「おう!」

あれから7年近く経つ。俺と太郎も徐々に前を向き始めているがお互いに七海のことはあまり深く話したことはない。


七海の家は港とは反対の山の方面にある。太郎の運転で向かう。

ひぐらしの鳴き声が心地よい。

緑豊かな山道で農園ではとうもろこしやスイカ、ユウガオウが実っている。

「運転変わって」

「三郎は怖えからだめだ。お前、免許取ってすぐに事故ってんじゃん」

「信用ないねえ。」

ひぐらしの鳴き声が大きくなり笑っているみたいだ。

山道はさらに険しくなっている。

走り始めてから1時間が経ちそろそろ七海の家も近い。

「どうする?」三郎が車を停める。

横を見ると苗代ダムが見える。

自殺の名所には思えないほど綺麗に整備されている。

「まあ、降りてみてみるか。」

「オッケー」


車から降りると一気に汗が出た。

そして歩きながらダムの中央の方まで歩く。

2人でダムを眺める。

太郎が口を開く。

「俺はさ、本当に死んだのかいまだに信じられないんだよね。」


「俺もだよ。自殺は無いと思うんだ。どこいっちまったんだかねえ。」


2人は未だにあの日のことを認めてはいない。


「帰るか。。」

「おう」


緑のいい香りがする。夕方になりたまに吹く風が涼しく感じる。

2人が車に戻ろうとした時だった。


「あのお。。」


後ろから声がして振り返る。

そこには、おかっぱ頭で白のワンピースを着てサンダルを履いた女性が立っていた。





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