君は本当に死んだのか
「今日で会社を辞めさせていただきます。」先週、置き手紙とともに新卒で入社した会社を3ヶ月で辞めた。いや、飛んだ。
残業、月100時間、家に帰れない日は半月、不倫している上司。パワハラクソ野郎が半分以上。
「醜い会社。●●会社はまさに人間の汚い欲の塊です。」とTwitterで呟き、耐えきれず飛びそして実家へ着陸した。
実家は地方の田舎で海が近い。久しぶりに会った両親は元々、放任主義ではあったが特に何も聞かず「次が決まるで」と言うことを伝えて何事もなく住ませてくれている。ありがたいことだ。
もうすぐ着地してから一週間が経つ。明日は久しぶりに地元の友達「黒崎太郎」に会う。黒崎は小学校からの幼馴染みで親友だと思っている。偏差値70越えの大学に進学したのにも関わらず大手企業の内定を蹴って地元の工場に就職した地元愛が深い男である。
明日は早朝から船で釣りに行くつもりだ。
明日に備えて早めにお風呂に入り縁側に座っていると、祖母 「とま子」がアイスを持ってきてくれた。
「彼女はできたのかい?」一言目がシワシワになった顔とは裏腹に若くて思わず吹いた。
「え?いないよ。心配いらないよ。」と言うと祖母は「ニコッ」っと笑い、目は三日月のように綺麗に弧を描く。
「三郎。恋は大事よ。」
「大丈夫だよ。心配いらないって。それよりも今も剪定綺麗にやっているんだね。じいちゃんも喜ぶと思うよ。」めんどくさくなって話題を逸らした。
「あの人。庭いじるの好きだったからねえ。しっかりやらないと枕元に立たれちゃうからね。」祖母は笑いながら台所の方へ歩いて行った。
お風呂に入ったばかりなのに少し汗ばんだ背中を心地よい風が通り抜ける。
「恋か」
溶けたアイスを見つめる。
「あの日。なぜ君は自殺したんだ。」
網戸に張り付いていた蝉が地面に落ちた。




