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事実も小説も奇なり  作者: Guru
偽りの世界で
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第12話 “タイプ”

「いやーーさすがは相澤先生! こんないい店選ぶなんて! チョイスが素晴らしい!」


「お二人には感謝してますから。喜んでもらえてよかったです!」


 上原は白米を掻き込むようにして、物凄いスピードで食べていた。


「作田先生、全然食べてないじゃないですか。もっと食べてください!」


「あ、はい。()、少食なので……お構いなく」


 俺達は、とある高級焼肉店に来ていた。

 無事、犯人も見つかったわけだし、打ち上げといったところか。


 上原の要望通り、この店は相澤先生が予約してくれた。

 確か、ここは……相澤先生の奢りって話になってるんだよな。

 

「何だよ、“(あきら)”、肉全然食ってねぇじゃねぇか! 食わねぇならもらうぞ!」


「あぁ……」


 本音を言うと、俺ももっと食べたかった。こんな高級店、入ったことがない。いつも俺が食べている肉の三倍ぐらいの厚さがある。

 けれど、お会計が相澤先生にいくと思うと……どうも遠慮してしまう。


「それにしても相澤先生、本当にいいんですか?」


 さすがに上原も、ご馳走になることに気を使っているようだ。

 その割りには、かなりのペースで肉を食べているように思えるが。


「──俺なら絶対、犯人が誰か知りたいですけどね。気になって仕方がない」


 そっちの話かよ! 少しは遠慮しろ!


「はい、問題が解決できたのなら、私はそれでいいので」


「いやー教師の鑑だな。人間ができてる」


 さすがは相澤先生だ。見た目だけでなく、性格までいい。


「何だか、こうして一緒にご飯食べに来るのって、思えば初めてでしたね」


 相澤先生は肉を焼くことに専念していた。

 先生こそ、あまり食べてない気がする。


「それもそうですね! あるとしたら忘年会、新年会ぐらいで、こうして個別に来ることなんて今までなかった」


 先生を誘う勇気なんて、俺にあるわけないしな……一緒にご飯を食べれてるのも、俺の書いたストーリーのイベントのおかげだ。


「お二人は、よくご飯行ったりするんですか?」


「えぇ、“達也”とは、たまに一緒に」


「あの、さっきから気になってたんですけど、二人って普段は下の名前で呼んでるんですね!」


「あっ!」


 別に隠してた訳じゃないけど、酒が回るとつい……なんだか照れ臭いな。


「普段は名前で呼ぶなって、達也うるさいんですよ」


「生徒達の前で呼んで欲しくないだけだ! 示しがつかなくなるだろ」


「普段適当なくせに、そういうとこは拘るよな」


「うるせーよ!」


 俺達の小競り合いに、相澤先生はくすりと笑った。


「いいなぁ、職場に仲いい同僚がいて。私、これといって仲いい先生いなくて」


「歳が近い女の先生、あまりいないですもんね。じゃあ俺達ともっと仲良くしてくれればいいんじゃないですか?」


「えっ、いいんですか? お邪魔かと」


「なわけないじゃないですか! な、明!」


「もちろんです。相澤先生さえよければぜひ」


 ナイス~。達也……いや、上原!

 おまえは俺にとって、ほんとに最高のアシストキャラだぜ!


 そういえば、年齢で思い出したけど……

 上原は俺のひとつ上で、二十六歳。相澤先生がひとつ下の二十四歳。

 同年代なわけだから、そこまで給料って変わらないはず。直接明細を見せ合ったわけではないけども、おおよその予想はつく。

 それだとしたら、この高級店って、お財布的にかなり厳しいんじゃ……


「──あの、相澤先生。もしかして本当に奢ろうとしてます?」


「も、もちろんです! 今日私、何もしてないですし」


「いや、別に僕達も今日普通に楽しんでましたから。気にしなくていいんですよ。なぁ、達也」


 俺が上原に同意を求めると、あれだけ肉にかじりついてた、上原の箸の動きが止まった。


「そうですよ! ご馳走なんて冗談に決まってるじゃないですか! しかもレディーに払わせるなんて失礼が過ぎる」


「いえ、そこは男女関係ないですから」


 このままでは見苦しい攻防が続きそうだ。

 相澤先生の感謝の気持ちだけ、ありがたく受け取っておこう。


「男女関係ないんですね? だったらここは平等に割り勘にしましょう」


「やられましね……上手いですね、作田先生。はい……すみません。少し見栄を張りました……それでお願いします」


 ここが落としどころだろう。『ここは全部払う』とカッコつけたいとこだが……正直、この店の会計は俺の財布にもきつい。


「さ、相澤先生も食べましょう! さっきから肉焼いてばかりじゃないですか!」


「勝手に高いお店連れて来といて、何だかすみません……」


「いいんですよ。俺も一度来てみたかった店ですし。はっはっは」


 上原は笑って誤魔化していたが……明らかにここから先、上原の食べるペースは下がっていた。

 一方、相澤先生の食べるペースは上がっていく。

 

 もしかして、先生も俺と同じ属性? 

 何だか、“ブラック相澤”を垣間見た気がした。



──食べ始めてから、一時間半が過ぎた頃。

 お腹もそろそろいっぱいになり、三人とも酒がほどよく回っていた。


 相澤先生はあまり酒が強くないのか、それとも女子力を見せているのか。甘いカクテルばかり飲んでいる。

 先生の顔が、ほんのりと赤い。肌が白いため、色の変わり具合が余計に目立つ。


「はい、はーい! 相澤先生って、彼氏いるんですか?」


 上原……酔ってるのか!? 随分、踏み込んだ質問を……でも、めっちゃ気になる……


「いえ、いませんよ」


 よ、よかった……いないんだ。

 とりあえず先生に彼氏がいなくて安心した。俺と先生が結ばれるストーリーとは分かってはいるが……

 実は先生には彼氏がいて、略奪愛のストーリーだとしたら困るところだった。


「へぇ~意外! モテそうなのに!」


「お世辞として、受け取っておきますね! お二人はいるんですか? 彼女さん」


「いないです。欲しいんですけどねー。ちなみに、明は想像通りで、もちろん彼女いませーーん」


 てめぇ……いらんこと言うなよ!


「想像通りだなんて……お二人とも、てっきりいるのかと思ってましたよ!」


 優しいな、相澤先生は。話の上手い上原にはまだしも、俺に対しては本当にお世辞なんだろうな……


「じゃあ、相澤先生の好きなタイプってどんなのですか?」


「えっと……真面目な人かな。誠実な人」


「えーーっ、じゃあ俺にぴったりじゃないですか!」


 アピールが凄いな、上原。白々しい。


「そうです? それなら……作田先生の方が真面目だと思いますけど」


「えっ……」


 俺……? ってことは、俺がタイプってこと?


「確かに、明は真面目かもなー。クソがつくほどの真面目! 超クソ真面目!」


 おい……せっかくいい感じなのに、余計なこと言うな。それにクソの上に超をつけるな。


「それなら逆に、嫌いなタイプってあります?」


「あまり考えたことなかったですけど……DVしない、派手なギャンブルはしない──」


 それ、嫌いなタイプってより、みんな思ってるやつ。


「あとは……タバコ吸う人って、苦手かも」


「あ、なるほど~」


 タバコか……そのせいもあって、タバコを吸う生徒のことが、余計許せなかったのか?

 

 よし、今のところ、嫌いなタイプに全部当てはまってない!

 しかも、俺もタバコ苦手だしな。相澤先生と俺って、考え方も何か似てるかも。

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