第10話 “尾行”
予定にはないはずだった、謎のイベントがようやく終わったが……今日のメインディッシュはここからなんだ。
本来の目的は、野球部の中にいるタバコを吸う人物を見つけること。そのために今日、わざわざ休みの日に野球場まで来ているわけである。
高崎、黒瀬ら二年生達は、ようやく家に帰る準備を始めていた。
「やっと帰るみたいだ」
「俺は見てて楽しかったけどな」
無限ループ地獄を知らないから、そんなこと言えるんだ上原は! こっちは大変だったんだからな。
「私も楽しかったですよ! 作田先生もカッコよかったですし!」
「えっ、本当ですか? いやぁ~……照れるな」
相澤先生に、いいとこ見せられたんだ。結果的には良かったとするか?
「おい、二手に別れるみたいだぞ? どうする作田」
全部で六人残っていた生徒達は、帰る方角が同じと思われる、三人と三人の二グループに別れて帰るようだった。
犯人の黒瀬がいるグループと、高崎がいるグループの二手に別れている。
「俺達も二手に別れよう」
生徒達は野球場まで自転車で来ており、俺らはそのことを見越して車を使わず、あえて生徒達と同じ自転車で来ていた。
尾行するならば、もちろん車のが速度は出るが、小回りが効かない。車の通れない細道に入られたら見失ってしまう。
「わざわざチャリで来たのは正解だったな!」
「あぁ、作戦通りだ。よし、俺は黒瀬達を追う。上原は高崎のグループを頼む」
「オーケー」
上原悪いな。俺は誰が犯人か知ってるからな。手柄は独り占めだ!
「あの……」
「はい?」
「私はどうしたらいいでしょうか。何か手伝うことはありませんか?」
あぁ、相澤先生。こんな役目、俺達に任せてもらえれば十分です。
──と、堂々と俺が言える訳がない。少しはカッコつけれる度胸が欲しい。
「相澤先生は休んでてもらって大丈夫ですよ! 俺達でなんとかするんで! せっかく男が二人で来てるんですから。なぁ、作田」
「えぇ、その通りです」
「でも……私がお二人を誘ったのに、これでは……」
「いいんですよ。そうですねぇ~……なら、終わったら三人で飲みにでも行きましょう。相澤先生はそのお店を予約しといてください」
ナイス! 上原! 随分と機転が効くな。
「はい……分かりました! なら、せめて今日はご馳走させてください!」
「楽しみにしてます。行くぞ! 早く追わなきゃ見失っちまう」
「あぁ」
これじゃどっちが主人公だよ。上原をサポートするサブ役か俺は。
でも、俺の言いたいことは全部言ってくれる……サンキュー、上原!
・・・
黒瀬達に気づかれぬよう、一定の距離を保ちながら俺は自転車を漕いでいた。
三人は何やら楽しそうに話しながら帰っているが、話の内容までは聞こえては来ない。
少し進むと、三人は住宅街へと入り、そのうちの一人が別れた。恐らく自宅が近いのだろう。
また更に進むと、もう一人別れ、ついには黒瀬だけとなる。
もしタバコを吸うとなれば、友達の見ていない一人になったときのはずだ。
たが、ここからは警戒しなければならない。
先程までは友達と談笑しながらの帰宅だったため、後ろを追う俺の存在に気づかなかったようだが、一人になった今、そう簡単にはいかないだろう。バレたら全てが水の泡だ。
「──ん? 止まった?」
俺が慎重に尾行を続けていると、黒瀬の自転車が、とある場所で止まった。
それは一人になってから、割りとすぐの出来事である。
「コンビニか」
どうやら黒瀬はコンビニの用事があるようだ。
駐車場に自転車を停め、店内へと入っていく。
最近のコンビニは未成年にタバコを売ることはないはずだが……
コンビニでは別の買い物をするだけかもしれない。タバコはすでに鞄の中に入っている可能性もある。
とりあえず、黒瀬の動きには注意しておいた方がいいだろう。
俺もすかさず自転車を停め、一旦コンビニの入り口と反対側へと回った。
すると、そこには従業員用と思われる、喫煙所が設置してあったのだ。
なるほど……ここか! もしかしたら黒瀬は、いつもこっそりここを利用しているのかもしれない。
よし、あいつが戻ってくるまで、ここで張ろ。
俺はコンビニの外壁に隠れ、喫煙所に黒瀬が現れるのを待った。
隠れるといっても、黒瀬がこちらに目をやれば、簡単に見つかってしまうだろうが、まさか誰かが覗いてるとは思うまい……
黒瀬がタバコを手にした瞬間──即、確保だ!
しばらく待機していると、コンビニから出た黒瀬が喫煙所へとやって来た。
そのまま入り口に停めてある自転車に乗らず、こちらの裏側に来たということは……可能性としてはかなり高まったと言える。
黒瀬の手には、先程同様に何も見当たらない。もう“ブツ”は鞄の中なのだろうか。
設置された灰皿の前まで来た黒瀬は、鞄の中に手を伸ばし、何かを取り出した。
しかし、黒瀬は俺に背を向けた状態で立っており、こちらからでは中身を確認することができない。
くっ……何を出したんだ……
コンビニで買ったと思われる何かを手にする黒瀬は、間髪入れず、もう一度鞄の中へと手を入れる。俺は目を凝らした。
すると、一瞬ではあるが、鞄の中から片手サイズの“長方形の箱状の物”が出てくるのが見えた。
──長方形の箱!! タバコの箱だ!!
今だ! 今しかない!!
絶好の場面と思い、俺は隠れていた壁の裏から飛び出す。
「黒瀬!! やめるんだ!! 手を止めろ!! 現行犯逮捕だーー!!」
「うわーーっ!! えっ、作田先生!?」
俺が飛び出すや否や、黒瀬は凄まじい瞬発力を見せ、再び箱を鞄の中へと戻した。
「先生が何でこんなところに……」
黒瀬は俺の登場に驚いている。
まぁ驚いている理由は……それだけじゃないだろうな。
「悪いが後ろをつけさせてもらっていた」
「尾行ですか!? 趣味悪いですよ! それに、現行犯逮捕ってさっき言ってましたよね? どういう意味ですか?」
「それは……今、鞄の中にしまったものを出せば分かることだ。さぁ、黒瀬。今すぐ出すんだ!」
後ろめたいのか、黒瀬は俺から目を反らした。
「……嫌です。出したくありません」
ここに来て、まだ誤魔化すつもりか?
「往生際が悪いぞ。観念するんだ、黒瀬。さぁ、出しなさい」
「わ、分かりましたよ……」
黒瀬は渋々、鞄の中にしまったものを出し、俺に“例の箱”を手渡した。
「えっ……何これ……」
しかし、出てきたものは──タバコの箱ではなかった。
「俺の趣味の“カードゲーム”ですよ」
「カード……? タバコじゃ……ないのか?」
「タバコ? 何言ってるんですか。俺、未成年ですよ? 吸わないですよ」
バカな……黒瀬が犯人のはずじゃ……一体どうなってるんだ!?




