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奴隷の少女・ロエナ

「あー手が滑ったー」


 頭の上スレスレを矢は通過し、すぐ後ろの城壁に刺さる.


「あ、流れ星だッ!」


「うわっ!」


 キンッ……甲高い金属音を響かせて、飛んできた剣は石タイルの地面に弾かれて後ろに転がる.


「って……なにすんじゃこら!」


 あれ?どこへ行った?


 いきなり、子供みたいな分かりやすいフェイントと理由付けをして攻撃してきた連中は、少し視線を逸らした隙にいなくなっていた.


 これから店を回って装備を見繕うとしようとしているところになんだ?血の気の多い連中も、小説みたいに少しは騎士道を見習えよ.


「仕方ない警戒しつつ、店を探すか……」


 ルーベルクというこの街は外に出てみると、自然豊かな立地にあることが分かった.街のあちこちに川や水路があり水資源に恵まれ、円形に広がる街の外の半分は森林が広がり、もう一方には鉱山があるようだった.


 道は塵一つ落ちていないほどに綺麗で、レンガ造りらしい家が立ち並び、ところどころに屋台が出ており、大通りらしき道には頻繁に竜車が走っていた.


 一見、潤った欧州にありそうな美しい街並みだ.


 ならどうして、とくになりそうもない、馬鹿みたいな方法で僕を攻撃したんだ?


 やっぱり、『勇者』って肩書きにはそれほどの価値があるってことなのか?


 けどいまいち釈然としない.なぜって、王の説明じゃ市民は自国の『勇者』が生き残った場合のみ得をするけど、負けて損をすることはなかったはずだ.


 なのにどうして……なぜゆえ僕を攻撃したんだ?


 自分が本当に異世界召喚されたのだ、という実感のみが身体に浸透していく代わりに、疑問はゲリラ豪雨にあった川のようにみるみる傘増しした.


「それ以上の深入りは危険ですよ」


 女性の声にハッとして振り返ると、そこにはさっきの修道服姿の銀髪少女が立っていた.


 どうして(ここにいるんだ)?……じゃなかった、


「どういうことです?」

「それ以上、街の外側へ行くと寸止めでは済まなくなりますよ?」


 寸止めってのは、さっき飛んできた弓矢とか剣とかのことだろう.


「紛らわしいのはやめにしましょう.なぜ、なぜゆえ、これ以上の進行はダメなんです?」


 質問すると、シスター(仮)は目前にある木橋を指差して、これは境界線だからだ、といった.


 ルーベルクは円形に広がる街であり、その中央に城がある.ここまでは知っていた.実はさらに区切りがあり、街を取り囲む壁を外円、中心を内円とすると、そのちょうど真ん中にも円があるらしい.それが今、目の前にある川だという.


 その外側は現在、アリスという他国の『勇者』が統治しているらしい.


 なぜそんなことをしているのか?


「あなたを殺すためです.召喚されたばかりのロクに能力が使えない状態で殺してしまうのが、最も効率的ですからね」


 またそういう物騒な話らしい.


「確かに、自分も狙われる立場ですから、自分が圧倒的有利な条件で戦いを挑むのが定石ですね……にしてもどうして僕にそのようなことを?」


 少し神経質になっているのかもしれない.


 有益な情報をタダでもらっておいて図々しいの極みだが、念のため素性を知っておきたい.


 なにせ、この街というか世界には信用できそうな人間が到底存在しているとは思えないからな.


「『勇者』には1人介添人及び使用人が付くのです.そして私の身分は王の奴隷ですから、最低限の資金としてお金と一緒にものとして捨てられたわけです」


 奴隷……か.本当に現代社会じゃないんだな.


 奴隷の売買や貿易なんて文化もこの世界にはまだ残っているのかもしれない.そりゃあ、正式な決闘の手段をとる『勇者』という英雄(仮)同士の殺し合いくらいあって当然か.


 だが、だからこそ、お涙頂戴、そんな罠があるやもしれん.


「その証拠はありますか?」

「はい?」


 シスター(仮)は首を傾げた.奴隷であることを示す証明、なんてものはないのだろうか?


「奴隷であり、資金として僕のものになるように命じられた証拠です」

「奴隷であることの証明……なんてあるのでしょうか.自ら富も権力もない奴隷であることを主張するなんて惨めな行為をする人がいるでしょうか」


 切なそうな顔をする.


 本当に証明する手立てを持たないのかもしれない.でもダメだ.申し訳なくは思うけど、僕も余裕のある状況ではない.


 仲間は欲しいけど、中途半端な信頼は余計になる.


「僕に奴隷がどうだ、なんて哲学的なことは分かりませんが、なら契約を結びましょう」

「契約……ですか?」


 上下関係なんて反発を生む、全時代的システムは排除して、対等にいこう.利害が等しい、対等な関係が一番上手くいきやすい.


 そう僕の拙い経験が告げている.


「この世界には魔術ってやつがあるんですよね?」

「はい、特定の人種の人しか使えませんが」

「あることには変わりないってことですよね?」

「なにを考えていられるのです?」


 契約……僕が言いたいのは絶対破れない、破れば酷い罰が下るそんな約束を結べる魔術が、ファンタジーならばあるのではないかということだ.


 呪印のような、呪いの魔術があれば、正当に契約が結べる.


 お互いの秘密があれど、一線を越えなければ問題はないというわけだ.


「奴隷であることは、一度忘れましょう.そこで約束を絶対のものとする魔術はありますか?」

「そんなものは都市伝説のレベルですが、聞いたことくらいは」


 都市伝説か……でもあれはもともとある何らかの事象をもとに作られている噂だ.なら、賭けてみる価値はあるか?


「その都市伝説の話は覚えていますか?」

「うろ覚えではありますが、デュラフギア鉱山の深層に眠る契約の魔石があればということだったはずです」


 指差された方角にある、つまり街の外にある鉱山がその魔石が眠るとされる場所のようだ.


 だがこれは骨が折れるな.


 『勇者』アリスの打破、からの深層.


「ま……苦労はするけど、それが最終的に一番笑える方法なら」

「ではまず、装備を見繕わなければなりませんね」

「そうですね……ですが最後にこれだけは言わせてください」

「……はい」


 緊張した面持ちを少女は浮かべる.小刻みに震えてもいるようだ.


 奴隷、言葉の重みの通り、壮絶な人生を歩んできたのかもしれない.


「僕は名取広瀬っていいます.キミもまだ僕を信頼しなくていい、代わりに僕もキミのことを信用しない」


 あっけに取られた顔を少女は浮かべる.そして少しはにかんでこう言った.


「私はロエナと言います.了解です」

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