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<R15>15歳未満の方は移動してください。

みんなして、俺をロリコン扱いするな! ~って、もとの原因は君なんだからね?~

作者: マス シゲナ

前作の短編『芸能界、作曲家兼プロダクション社長は、才能のかたまりを見つけた。 ~こら、抱きつくのはやめなさい!~』の続編です。

前作書いたのが一年前なので、ちょっとチグハグなところもあるも?

こちらが正しいと思って読んでいただけたらと。


今回、メインで書いている超遅筆の『死んで転生~王者チャンピオン、今日もいく!~』の息抜きで書きました。

そちらも、これから頑張って書いていくつもりですので、読んでいただいている方には申し訳ございませんが、もうちょっと待ってて下さい。


今までの作品と書き方をちょっと変えました。


「……あ~~~、どうすればいいんだ~~~?」

 俺こと、遠峰武春とおみね たけはる(33)は今、高校からの友人(男)と、腐れ縁ともいえる幼馴染み(女)の夫婦が営むイタリアンのレストランのカウンター席で、ぐだぁと悩みだらけている。


 現在、店内はランチの時間が終わり、俺のほかは客が居らず、何時もなら微妙に聞こえるかというぐらいのクラシックBGMも止まっている。


 長年の友人であり、顔馴染みの客として、こうして延長も許されているが、そこはしっかり延長料金が出されている。

 それも容赦なく!


 それでもいるのは話を聞いてほしいのと、出されるエスプレッソは美味く、くつろげるからだ。


「まだ、諦めてないのか?」

 カウンター内の厨房でランチタイムの片付けと、五時半から始まるディナーの用意がある程度終えた、この店のオーナーシェフである友人……刀春とうはるヒルト(33)がカウンター越しから、新たなエスプレッソを邪魔にならないように置きながら尋ねてくる。


 ……もちろん、このエスプレッソもしっかり割高料金でとられる。


「そうなんだよ~、あの子……司ちゃん。全然、俺の事、諦めてくれないだ~」

 身体を起こし、淹れたてを一口飲みため息をはく。


「いや、あの子じゃなくて、お前だよ。お前。

 もう、3年だろ?

 告白されて、愛を隠さず堂々と世間もあれだけ騒がせて」

 何、言ってんだと同じようにエスプレッソを飲む、ヒルト。


「う……、いやしかし、どれだけ歳開いていると思っているんだ。16だぞ? 16。

 俺、ロリコンじゃねぇ……」


「まあ、最初12歳の時だっけ?

 そりゃ、その時ならロリコンって言われるだろうが、17になったんだ。結婚出来る年齢なんだ、もう誰も文句は言わないって。

 むしろ、やっと墜ちたかってところだろ?」


「いや、しかしだな」


「何を言っても無駄よ、ヒルト。

 ソイツ、意気地がないだけなんだから……昔っから、そう。

 実はもう、心の中じゃ受けつけているでしょ?

 はっきりしてあげなさい?

 じゃなきゃ、何時まで経っても、あの子可哀想じゃない」

 そう割り込んできたのは、幼馴染みの奥さん……刀春朝子とうはる あさこ。旧姓、月見里やまなし朝子。



 朝子とは、武春が5歳の時から通っていたピアノ教室の先生の娘で当然親である先生からピアノを習っていた。


 幸い、俺にはそれなりの才能があったらしく、メキメキと上達していきコンクールでも、それなりに名前を知られていた。

 そして、同じくらいに才能を持っていた朝子たちにライバル視されていた。

 たちというのは、朝子には双子の妹、夜子よるこがいて、朝子は明るくずけずけとものをいうタイプだが、夜子は朝子といる時は一歩引いた感じだが、1人の時は同じくらいものをいうタイプだった。


 中学にあがる頃、訳あって、俺はギターも始め、楽しくなっていくうちに、ピアノから段々と離れていき、コンクールにも出なくなり、惜しまれてはいたが、自分なりには納得していた。


 そうはいっても双子とは家も近ければ、いろいろと縁もあり中学高校と一緒になる。

 クラスも一緒だ。


 高校一年の時、イタリアから2人の男子が留学してきて俺たち3人と同じクラスになった。

 その1人がイタリアの血を半分持つハーフのヒルトで、その時すでに学年1、2を争う双子のな朝子に猛烈なアタックを仕掛けた。

 もう1人のイタリア人……アレッシオも当然の如く、一目惚れの夜子にアタックし、それぞれ2人とも恋人同士になった。


 この時はイタリア人、ホントに愛に生きるなと思った。


 ちなみに、俺は双子の2人に対して恋愛感情は一切ない為、寝取られとかは全然ない。

 単に、それなりの仲がいいだけの幼馴染みだったから、それぞれ恋人同士となった4人とは高校を卒業するまで仲がよかった。


 ヒルトは日本に残り、イタリア料理人の父親のもと伝統の料理を引き継ぎ、独立してこの店を持った。

 朝子も親と同じピアノ教室の先生をしながら、この店の手伝いをしている。

 夜子は高校卒業と同時に、イタリアに帰るアレッシオについていった。


 まあ話は長くなったが、そんな感じだ。




「……普通なら、そうしたさ?

 でもさ、司ちゃんは今乗りに乗ってる女優であり、歌手であり、モデルでもある。

 今、一番の女の子なんだぞ!

 ……俺みたいな歳の離れた、おっさんより、これからもっといい男や恋なんて出来るだろう?」

 遠峰は感情がたかぶり、椅子から思わず立ち上がる。


「「……」」

 夫婦2人して、呆れ顔でジッと睨む。


「な……何だよ?」


「だから、今、あの子は、その恋をずっとしているでしょ! 言い訳するな!」

 朝子は言い聞かせる為に、大きな声で言いきった。


 そう話題になっている司……天城司あまぎ つかさ(本名、同じ)は、遠峰武春が代表取締役として起こした芸能プロダクションに契約し、活動している女子高生女優である。


 天城司は12歳の時、他の芸能事務所に契約所属していたが、オーディションなど、なかなか仕事が取れず、契約内容により退所する事になった時点で、前から目をつけていた遠峰は、すぐさま自分のプロダクションに勧誘を行い、現在、遠峰のもとで成長した彼女は芸能界でトップクラスの1人となり、あらゆる方面で顔を見ない日はなかった。



「……だけどな? って……あ、あれ?」


「何よ? ヘタレ」


「……いや、ヘタレって?

 ヒルト、お前の奥さん酷すぎね?」


「いや、朝子は正しい。あれだけ、好き好き何処でも言ってるあの子には、俺は好感持てるね。

 逆に何だ、お前?

 言い訳ばかりで逃げるヤツは、朝子が言う通りヘタレなんじゃないか?」


「……ぐ、ぐう」

 まさに、ぐうの音しか出なかった。


「んで、さっき何を聞こうとしたんだ?」


「……え」

 突然の話の変わりように、遠峰はとぼけた顔をする。


「いや、ほら? お前、何かに気づいて言おうとしたんじゃないのか?」


「あ、ああ……いや、さっきからピアノの音が微かに聞こえるから……気になってな?」

 ……朝子は一度言を言い始めたら、なかなか終わらないからな。

 ヒルトがあんな風に言ってしまえば、朝子も口を閉じるしかない。


 ここで切り上げられたのは嬉しいんだが、ヒルト……お前の言葉も十分に、俺の心を抉り貫いたぞ……。


「ああ、この時間なら、月夜つくよが弾いているはずだが……また、窓を開けて弾いているのか?」



「へえ、月夜ちゃんかぁ~。

 ……上手いな? かなりの腕前じゃないか? なあ、朝子?」

 言われて気づくヒルトは顔をしかめる。


「……そう、ね」

 朝子はどこか複雑そうに、悩みながら答えた。


「? 他の2人……朝日あさひ君と真昼まひるちゃんはどうなんだ?

 最近会ってないから知らんけど、あの子たちも、かなり上手かったよな?」

 朝子の様子がおかしいと思いつつも、他の子供たちの事を聞いた。


 ちなみに、長男の朝日、長女の真昼、次女の月夜の順の三つ子であるのだが、この事にかんして遠峰は疑問に思う事があった。


「それなんだがな……2人はもうピアノを辞めたよ。

 朝日は俺の跡を継ぐと言って料理の勉強中、真昼はじっとするのが苦手らしくてな?

 サッカーチームに入って、毎日ボールを蹴ってるんだ」


「へえー、もったいないけど、やりたい事があるならいいじゃないか」


「まあな……ただ月夜にかんしては、困っているんだ」


「何かあるのか?」


「いや、月夜はなんというか……才能がありすぎてな。

 料理も朝日と同時期、一緒に修行し始めたんだが……もう一通りのメニューの味は、店で出せるくらい完全に作る事が出来るんだよ。

 まあ、月夜は跡を継がないって半年前から、たまにしか厨房に立たなくなったんだが……」


「……はあ? 全部、完全に作れるてどういう意味だ」


「文字通り、この店の……親父や俺の味を作れるんだ。二年間で完璧に」


「いや、それおかしいだろ?

 今確か、11歳だろ? あの子」


「だから、才能があり過ぎるんだよ……月夜は」


「天才ってヤツかね~、って……あれ?」

 ヒルトの話に夢中になっていたが、ピアノの曲もいつの間にかクラシックから、ジャズ調に変わっていた。

 それもすぐに変わり、今は俺が長い音楽人生のなかでも聞いた事のない曲になっていた。


 作曲も出来るのか?


 さすがの俺も開いた口が閉じる事がなかった。


「……ねえ、武春。頼みがあるんだけど」

 長い間、口を閉じていた朝子が、悩んだ末に口を開く。


「なんだよ?」


「このところ、月夜ったら何時もこうなのよ?

 悔しいけど、どうすればいいのか……私たちじゃ駄目なのよ。

 ……夜子だって、こんな事にならなかったのに」


 その言葉を聞いて、遠峰の疑問は確信へと傾く。

 月夜は、夜子の子じゃないかと。


 確かに朝子と夜子は性格は違うが、一卵性の双子で顔はそっくりで、黙っていれば見間違う事も多々あった。

 朝日と真昼の目の色は深緑であるのに対し、月夜は明るめの青だった。


 昔、その事でまわりにからかわれた、月夜が泣きながら、ヒルトたちに言った「どうして、わたしだけ目の色が違うの」と。

 その時は、ヒルトが自分の祖父祖母が写っている写真を、月夜に見せて、自分の深緑の色は祖父、それから父から受け継いだものだ。だけど、月夜の青は祖母の目の色が隔世遺伝で受け継いたんだよ、と。


 その時たまたま、その場にいて聞いた俺は違うと思った。


 確かに写真に写るヒルトの祖母は青色の目をしていた。

 だが、俺はどちらかと言えば、月夜の青色は、夜子の夫、アレッシオの目の色に酷似していると思った。


 まあ、問い質しても意味がないので、聞かずしまいだったけど。



「まあ……いいけど。

 俺じゃあ解決出来ないかもしれないぞ?」


「それでも……構わないわ」


「わかった。 出来るだけの事はしてみるよ」


「……ありがとう。 ついてきて」

 そう言った朝子の後をついていき、2階のピアノ部屋に向かった。




「月夜、入るわよ?」

 朝子は少し大きめのノックをした。


 部屋から響いていた音は、さきほどから止まっている。


 返事はなく、しばらくして、ゆっくりとドアを朝子が開ける。

 部屋には涙を拭わず泣いていた月夜が、放心状態でピアノの前で座っている。



「……お母さん、どうしたの?

 遠峰のおじさんも」

 部屋に入った俺たちが部屋の状況を見て立ち尽くしているのに、ようやく気づいた月夜が、不思議がり尋ねる。


「……あ、ああ、ごめんなさい。 部屋、あとでちゃんと片づけるから」

 月夜は部屋を見渡し、床に散らばった何十枚の楽譜を見て、散らかしたと思い怒っていると勘違いし誤った。


 俺は、朝子の横をすり抜け部屋に入り、床に散らばった楽譜をいくつか拾い、楽譜を読む。


 乱雑に書き散らかした音符の列は、先ほど店内で聞こえてきたオリジナルの曲もあれば、また別の曲が書かれたものもある。


(……ああ、覚えがある。

 この子も、俺と同じ……いや、もっと酷い症状かもしれない)

 部屋を改めて見渡すと、店でヒルトは言っていたが、この部屋の窓は完全に閉まりきっている。

 ならば、防音の効いたこの部屋で、店にまで聴こえるほどに、指を鍵盤に叩きつけ、弾いていたんだと思いいたった。


 朝子は、まだ入り口から動けていない。

 本当にどうすればいいのか、わからないのだろう。


「……朝子」


「っ? な、なに?」

 混乱していた朝日は、俺の呼びつけに驚き肩を震わせた。


「……うん、どういう状況か理解した。

 結論的に……なんとか出来そうなんだが、その事でヒルトも含めて少し話がある。

 ……月夜ちゃん。 君も、な?」

 俺は落ちた楽譜を全部拾いまとめ、月夜の側に近寄り、目線を合わせ微笑む。


「……本当に?」


「ああ、悪いがヒルトをここに呼んできてもらえるか?」


「わかったわ」

 朝子は慌てて部屋から姿を消した。


「さて、月夜ちゃん。

 2人が来るまで少し話をしようか?

 なに……月夜ちゃん的には、悪くない話になるはずだ」


「……よくわかんないけど?」


「だろうね……あのね、月夜ちゃんは……」

 部屋にある2人がけのソファー指差し、座って向かい合い、俺は、月夜に考えを伝える。




「……そう、なんだ。

 わかった……よろしくお願いします」

 話を聞き終えた月夜は、俺の提案を理解し承諾した。


「お待たせ。 ヒルトを連れてきたわ」

 ちょうど、その時、朝子がヒルトを連れて部屋に入ってきた。


「すまない……武春、話を聞かせてくれ」

 2人は、先に座っていた俺たちの対面のソファーに座る。


「ああ、結論なんだが、月夜ちゃんは、当分は俺が預かろうかと思う」


「なっ?」


「……どういう事だ?」

 驚きで立ち上がろうとする朝子を、ヒルトは押さえ尋ねる。


「話は少し長くなるし、専門家じゃないからな、上手く伝えられるかわからんが……まず、俺の経験から話そうか。

 俺が中学に上がる前くらいか?

 その時期ピアノというか、音楽に苦痛を感じるようになった事があった。

 寝ても覚めても頭の中で曲が聴こえ……音符が溢れる感じでな。

 あまりにも苦しくて熱は出るわ、吐くわで、あの頃大変だったな。

 んで、あまりにも苦しいから病院に行こうとした途中で、朝子のお母さん……先生に出会ってな、顔色を見て心配されて尋ねられたんだ。

 俺も誰でもいいから、苦しみを理解して欲しかったのと、音楽にかかわるから先生ならと話した。

 すると、先生は『武春くんは感受性が強いのね』って言ったよ……先生の話をまとめたらこうだ。

 ピアノを長年弾き続けるうちに、才能が開花したらしい。

 絶対音感ってあるだろ? どんな音も音階に聴こえるってやつだな。

 もともと耳がよかった俺は、長年のピアノの練習で、さらに鍛えられて身につけたらしい。

 あと感受性が高いらしく、どんな事にも影響を受け、音楽に繋がって音符や音階が頭に浮かび続けるんだそうだ。

 俺は、先生に薦められギターを始め練習し、同時にたくさんの作曲を作った。

 感受性を抑えるのには、別の事や、手段で発散させ、症状を抑えるのが手っ取り早いらしくてな」


「そんな事があったの?

 知らなかったわ」

 朝子は、当時の頃を思い出そうとするが浮かばず、顔を横に振る。


「武春は、月夜もそうだと言うのか?」

 ヒルトは、そちらの方が気になるのか尋ねた。


「ああ、月夜ちゃんの場合は、俺より酷いと思うぞ?

 ヒルトが言ってた事を聞いて思ったんだが……月夜ちゃんが料理の勉強を始め頃には、その状態に成り始めていたんじゃないか?

 もちろん、最初の切っ掛けは音楽だと思うが……料理を始めたのも、月夜ちゃんが自分で気づいて、音楽から離れる為なんじゃないのか?

 その上で、2年ほどで店のメニューを作れるようになったのも、のめり込まなくちゃならないほど必死だったんじゃないのか?

 才能もあったんだろうけど」

 そう言って月夜を見ると頷いている。


「なあ、ヒルト?

 料理に必用な才能ってなんだ?」


「必用な才能?

 そう、だな……いろいろあるが……まさか?」

 ヒルトは、気づいたみたいだ。


「そういう事だ。

 料理の味を決め、判断する味覚。

 香り、匂いも大事だよな? 嗅覚。

 食材や、道具の絶妙な感覚。 触覚。

 食材の鮮度など見る目。 視覚。

 焼ける音、揚げる音など聞き分ける聴覚。

 料理には必用な能力だよな?」


「ああ、それに見た物、聞いた物、触った物、味わった物、それらを駆使して新しい料理が生まれる……確かに、感受性がなかったら出来ないし、感受性が高いほど素晴らしい物が生まれる」


「それをいうなら、音楽もそうよ!

 感受性が高いほど、素晴らしい音楽家になるわ」


「つまり、月夜は耳だけではなく五感全て優れている?」

 ヒルトは、疑いながら結論を出す。


「おそらく、そういう事だな」 

 月夜が凄いのは、それだけじゃないけどな?


「でだ、月夜ちゃんが、この家でやれる事は少ないし、お前らに言い出し難かった……だから、ここにいて我慢させるより、俺が連れ出して、やれる事を提供すればいい」


「だから預かるか……月夜?

 月夜は、どうしたい?」

 ヒルトは悩み、月夜に決断を委ねる。


「……私は、さっき遠峰のおじさんの話を聞いて、そうしたいと思った」


「……そうか、わかった。

 お前が苦しんでいるのに気づけず悪かった。 不甲斐ない親ですまなかった……朝子はどうだ?」


「……私も、その方がいいかと思う。

 ただ、月夜は無理はしないように!

 それと、武春?」


「なんだよ?」


「月夜に手を出したら、どうなるか……わかるよね?」


「アホか! 出すか!」


「どうかしら?

 ロリコン疑惑もあるし、前例《あの子》の事もあるしね?」


「人を犯罪者みたいに言うな!?」

 ……ったく、そんな風に言われるから、素直が受けれないだろうが?

「ああ、もう……とりあえず、月夜ちゃんは持っていく服とか、必用な私物用意してきな。 車だから多少多くても大丈夫だし、忘れてもまた取りに来たらいいから。

 別に家出ではないからね。 何時でも戻ったらいいんだし」


「わかった……用意してくる」

 月夜は、俺の提案に席を立ち出ていった。



「……じゃあ、もう少し詳しく話そうか?

 月夜ちゃんには言ってあるけど。

 まず、月夜ちゃんを預ける場所というのは、司ちゃんと、一緒に暮らしてもらおうと思う」


「司って……天城司? あの子と?

 あの子の住んでいる所って……?」


「今、司ちゃんはうちの事務所がワンフロワ借りきっているマンションの一室に住んでる。

 ここから車で20分くらいかな?

 そこは設備も、警備もしっかりしているから、その辺は心配いらない。

 もちろん、他の部屋にはうちの事務員や、他のアイドルたちも住んでる。

 なんで、司ちゃんの所かと言えば、あの子、最近忙しいから生活面に問題があってさ。

 その部分を月夜ちゃんに補ってもらおうと思ってる。

 その労働を家賃というか、給料としたいんだ。

 んでもって、才能がある者には、才能を持つ者をぶつけてみたくてな?

 上手くいけば相乗効果が出ると思うんだ」


「あの子なら、何度かあんたが店に連れてきてたから、多少なりとも、どんな子かは知っているけど……もし失敗したらどうするの?

 片方……もしくは両方って、事もあるわよ?」


「そうなんだけど……俺的には、上手くいくと思ってる。

 あと、今、ここに楽譜あるのもも、これから月夜ちゃんが作曲したのも、世間おもてに出したいと思ってる。

 楽譜見るなり、ヒットすると思うから……うちの事務所に契約してもらって、ああ、もちろんキチンとした契約内容作るから、印税とか諸々の問題も、月夜ちゃん含め、2人にも確認してもらうよ」

 俺はパラパラと、さきほど集め拾った楽譜を見て、改めて自分にない月夜の才能に笑みがこぼれる。


「……それほどなの?」


「ああ、まだ荒削りで細かな注意点もあるけど、そこはちゃんと俺が教えるよ」


「……あんたが、そこまでいうなら、そうなんでしょうね。

 ヒルトはどう?」

 ため息をはく朝子は、ヒルトの方を向いて伺う。


「……俺に言える事は、料理にかんしての基本は教えた。

 音楽と同じく、料理にも味や技術とか、終わる事のない歴史がこれからも続くなか、俺では……じいさん、親父と続く、伝統の味を基本に作っている俺では、技術的にほとんど教える事はない。

 あの子が、学びたいもの、作りたいもの、やりたい事があるなら、その手伝いをしてやってほしいと思う。

 ここにいても出来るだろうけど、武春に任せたほうが、道が多いだろうからな……本当は、俺が導きたかったが」

 今まで、黙って話を聞いていたヒルトは寂しそうに笑う。


「……なあ、こんな事を聞くのアレかと思うんだけど……どういう経緯で、月夜ちゃんを、あの2人から引き取ったのか知らんが、お前らは、ちゃんと月夜ちゃんのれっきとした親だと思うぞ?

 他の2人と同じくらい大事に育ててきた事、俺は見てるから……そう落ち込むなよ?」


「……気づいてたのね?」


「まあ、ずっと……なんとなく、な?

 俺から見ても、月夜ちゃん、あの2人にそっくりだよ」


「……そっか」


「そろそろディナーの準備を始めなきゃな」

 ヒルトは部屋から出ていこうと立ち上がり、背を向けたところで「武春……ありがとうな。 あとは頼む」と呟いて出ていった。


「さて、俺もそろそろいこうかね?

 月夜ちゃんは準備終わったかな?」

 俺も立ち上がり部屋を出ようとすると。


「武春……今度詳しく話すから、よかったら聞いてくれる?」

 こちらを見ずに、うつ向いた状態で朝子が声をかける。


「もちろん、何時でもいいぞ。 じゃな!」


「ありがとう」

 その声を聞きながら、俺はドアを閉めた。




「月夜ちゃん?

 店にカバン取りにいくから、用意は出来たらきてくれ。

 まだ朝子……お母さん、ピアノ部屋にいるから、ちゃんと挨拶してきてな」

 月夜とネームプレートがかかった部屋をノックし声をかけると『わかりました~』とかえってきた。




「……お待たせしました」


 レジで、しっかり延滞料金がついた金額を払っていると、月夜が荷物を積めた大きなカバンを持ってやってきた。


「武春……月夜を頼んだ」


「おう」


「……月夜、コイツに変な事をされたら、すぐ連絡するように?」


「するか!」


「それ、お母さんも言ってた。

 大丈夫、それにちょくちょく帰ってくるから……朝日たちには上手く言っておいて?」


「ああ、わかってる」


「はぁ、まったく……コイツらは。

 月夜ちゃん、荷物貸しな?

 じゃあ、またな」


「いってきます」

 荷物を受け取り、俺たちは店を出た。




 車で20分ほどして、ワンフロワまるごと借りているマンションの駐車場一角に車を停め、エントランスの呼び出しパネルで、天城司の住む部屋番号を押した。


『……武春さん?

 珍しいね、何かあったの?』

 しばらくして反応があり、カメラで俺の顔を確認した司の返事が返ってきた。


「まあね……司ちゃんに社長として命令っていうお願いがあってね」


『……ふ~ん? わかった。 とりあえず開けるね』

 と、言って通信が切れ、自動ドアが開いた。


「じゃ、いこうか」

 少し離れた場所でキョロキョロとしていた月夜に声をかけ、2人は中に入って、エレベーターに乗り、最上階の6階、601号室の前に立ち止まりインターホンを押した。


 中から聞こえる、向かってくる微かな足音が止まり、ドアのカギを開けた音が鳴ったと同時に、勢いよくドアが開いた。


「武春さん、いらっしゃ~……い?」

 歓迎の喜びの声をあげ、途中、俺の後ろに立つ、月夜を見つけて、司は首を傾げた。





「誰? その子……はっ、まさか!

 私の告白を断る為の女の子?

 ……やっぱり、ロリコンだったんだ!」

 顔を青くして両手を口元にあて、ふらつくように下がりながら、司はトンでもない事を言った。


「違うわっ!

 何でみんな、俺をロリコンにしたがるんだ!」


「……違うの?」


「違う。

 話は……まあ、この子も関係あるのは間違いないけど……頼むから、とりあえず中に入れてくれ」

 俺は深くため息をはいた。


「……やっぱり、断りの……」


「違うから、むしろ……いや、なんでもない」


「……わかった、どうぞ」


「ありがとう。 月夜ちゃんもおいで?」

 振りかえり、部屋の中を指差し、俺は入っていく


「……うん」

 いいのかな? っていう顔で月夜はついていった。



「で?

 詳しく話してくれるんだよね?」

 リビングに通され、俺たち3人は向かいあっている。


「ああ、実は……」

 俺は、事のいきさつを話した。


「……そういう事。

 ねえ……これって、社長命令なんだよね?」


「ああ……まあ、俺の一存で事務所には通してないが、そうだ」


「はあ……わかった。

 月夜、ちゃんだっけ?

 とりあえずはよろしくって言っておくわね?」


「よろしく、お願いします」


「うん、じゃあ空いてる部屋教えるから、いこっ」


「はい」


「敬語はいらないよ。

 これから、一緒に過ごすんだし、疲れるでしょ?

 こっちも普段出来ない家事とかお願いするわけだし……平等で、ね?」


「……うん!」

 司の言葉に、満面の笑顔になる月夜。


「ふぁ……この子、可愛い!」

 その笑顔に、思わず抱きしめる司。

「武春さん! この子、メチャ可愛い」


「……うん、仲良くなれそうでよかったよ。

 そろそろ、離してあげな? 苦しそうだよ」

 司に抱きしめられて、苦しんでいる月夜を見て、呆れた顔で笑う俺。


「はっ! ごめん? 大丈夫?」


「はぁ~……大丈夫」


「はは、月夜ちゃん。

 司ちゃんは気にいったモノは、すぐ抱きしめるから、嫌だったら嫌って言いなよ?」

 突然のハグに驚き、顔を赤くして大きく呼吸をする月夜に、俺は助言した。


「……嫌じゃ……ない」

 さらに顔を紅くするから。


「ん~~~!

 本当、可愛~い」

 それを見た司は、再び抱きしめる。


「はいはい、わかったから……早く部屋を教えてやりな」


「あ、そうだね!

 こっちだよ、おいで」

 と、言いつつ抱きしめたまま、2人はリビングから姿を消した。


「やれやれ、だな」

 俺も一段落した事で、大きく息をはいた。


(さて、覚悟を決めるか)

 そう思い、俺は立ち上がる。


「あれ? 武春さん、もう帰るの?」

 戻ってきた司は、俺を見て尋ねる。


「ん? ……ああ、そうだな?

 えっと、月夜ちゃんは?」


「うん、そのまま荷物片づけてる」


「そっか……つ、司ちゃん」


「うん? なに?」

 ちょっと挙動不審な俺見て、首を傾げる司。


「あのさ……とりあえずだな?

 司ちゃんは、今高三だよな?」


「うん、そうだよ」


「高校……卒業したら婚約しよう。

 それでだな?

 司ちゃんが、21歳になったら結婚、しよう。

 もし、その3年間に、それまで気が変わったり、別に好きな男が出来たなら、婚約は何時でも解しょ……」


「するわけないよ!」

 司は、俺の言葉セリフを遮り叫ぶ。

「今まで、ずっと、言い続けて、諦めなかったんだよ!

 他の人、今さら好きになるわけない!

 あったとしても、それはドラマとかの役だけだから!

 …………嬉しい。 やっと、武春さん。

 結婚するって言ってくれた」


「うん……ごめん、待たせた」


「本当だよ!

 本当は脈ないのかなって、内心諦めかけてたんだよ?」


「そうか、悪かったな。 大好きだよ……愛している」


「うん……私も、愛してる」

 司は、俺にゆっくりと抱きしめてくる。


 俺も抱きしめ返した。


「……でも、どうして急に?」


「仕方ないだろ?

 歳なんて16も開いているんだ。

 最初は、もともと憧れのお兄さん的なモノだと思ってたし、じゃなくても君の人生、これから、もっといい男が現れるかもと思ってた。

 実際は、好きだという気持ちを……なにかと理由をつけて誤魔化してただけだった」


「じゃあ、どうして受ける気になったの?」


「まあ、いろいろ……後ろ押しされたからかな」


「そっか……うん、理由はどうあれ、嬉しい」


「ああ、本当に待たせ……ん?」


「え?」

 司だけしか目に入ってなかったのか、キスをしようと体勢を変えた際、後ろの壁の蔭から顔を半分出した状態で、赤らめていた月夜がいた。


「月夜ちゃん……?」

 俺が気づいたのに釣られ、司も気づいたようだ。


「月夜ちゃん、いつから?」

 俺も見ていたと尋ねる。


「……え、えっと、おじさんが待たせたってところ?

 覗くつもりはなかったんだけど……ご、ごめんなさい、きょ、曲が浮かんだから、へ、部屋で曲書いてくる」

 見つかった事で、いたたまれなくなったのか、月夜は慌てて部屋に逃げ込んだ。


 ……どうやら、俺たちを見ていて刺激されて、曲が頭に浮かんだようだ。

 さぞかし、名曲? 迷曲? が産まれる事だろう。


 俺たちは、目を合わせクスリと笑いあった。



 余談だが、この時、月夜が作りあげた曲は、司の主演となるドラマの主題歌となり、ドラマと共に大ヒットし、月夜の作曲家名『夜月よづき』は一躍有名となり、のちに超がつく人気作曲家となる。

 歌詞は、司と夜月の連名。

 編曲は、遠峰武春。


今回で遠峰武春と天城司の話は終わりです。

次に続きを書くなら、月夜が主人公となる話を書くつもりです。

もちろん、その話には主役の2人もバンバン出すつもりあります。

ちなみに、その時投稿するなら、ヒューマンドラマにエントリー予定です。


もし、今回この話の評価などが高ければ、こちらがメインに変わるかもです。

どちらにしても遅筆になると思いますが……とって気ままな私なので、どうなるかわかりません(笑)


多数ある作品のなか、見つけて読んでいただける事を願います。



今回書ききれなかった事。

長男、朝日は月夜の料理の才能に嫉妬してますが、月夜の事情を知らないので、料理の修業(あとを継ぐつもりの朝日は修業だと思っている)を、自分勝手にやめた月夜に腹をたてているので、その事をわかっている月夜は朝日に対しても、また、あとを継ぐつもりがないので、引け目を感じて、料理から離れました。

2人の兄妹仲は険悪してます。

真ん中の真昼が間に入って取り持ってはいますが……。

月夜が料理から離れた理由を大体武春は気づいたので、月夜は凄いと本文で言ってます。


続きを書くならば……構想として。

月夜はのちに人気作曲家になりますが、顔出しは一切しません。

仕事の関係者だけに、顔を見せます。

理由は、朝日、真昼と実の兄妹ではないが、顔はそっくりなので迷惑がかかるから。


月夜は作曲以外に、他の事をいろいろ始め予定。

あまり書くとアレなので、これ以上は……。


もし、面白かったと思った方は、ブクマ、評価、感想などいただけたらと思います。

感想にかんして、あまりの悪評は……心が豆腐なので控え目でお願いします(笑)

いや、本当に。

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