念願のクエスト
「わあ……ここがノースケアの洞窟か」
キール村の隣に広がる平野の真ん中に、自然物とは思えない巨大な穴が見るものを吸い込むように存在している。
どのように発生しているのか、気が付けばいつの間にか遺跡や洞窟、迷宮といった建造物がそこに現れる。
それを私達冒険者はダンジョンと呼んでいるのだ。
「っと、やっぱり排除の呪文がかかってる。それなら、これでっと」
私は冒険者プレートをかざした。
プレートが淡く光り立ち入り禁止の呪文を相殺していく。
ダンジョンは無闇に一般人が立ち入らないようギルド会が専用の呪文をかける。プレートはその呪文の効果を無効化する能力があるのだ。
「ありがとう、カルミア。やっとクエストを受けられるよ」
「ううん、お礼を言うのはまだ早いよ? これからが本番なんだから」
「そうだね、よし! 中に入ろう!」
ロイドは意気込み、私達は洞窟の中へと入っていった。
中は地下へ降りるように道が続いている。
岩に足を取られないよう慎重に先に進んでいく。
壁には照明の呪文が固定化されていて、もう辺りは光が届かないくらい降りたはずなのに足下は照らされたままだ。
きっと先に入った冒険者が設置しておいたくれたのだろう。
ありがたいけど、すでに探索済みの証でもある。
レアアイテムは回収済み。ダンジョンボスも討伐済みのはずだ。
そういえば、ロイドはここにどんな目的できたのだろうか? 深く理由を聞いていなかった。
「ねえ、ロイド。どうしてこのクエストを受けたかったの?」
「声が聞こえたんだよ」
「声?」
「うん、声だよ。だから助けにきたんだ」
「それって……人の声?それともモンスター?」
「うーん、ちょっと違うかな」
「……お化けとか? そういう類の話?」
「ははは、そうだね。少し近いかもしれない」
お化け、という言葉に私は冷や汗を掻く。
アンデッドモンスターには何回か遭遇したことはあるし、倒したこともあるが、こういう怖い話は昔から苦手なのだ。
「ね、ねえ、ロイド……」
私が声をかけた時、頭上から甲高いキイィィィィィという音が響いた。
「な、何!?」
ビクッと肩があがる。
上を見ると天井にぶら下がる影があった。
赤い眼光がこちらを向いて光っている。
黒い体の大きさは1mくらい、体の倍はある翼は今は折りたたんでいる。
「あれは……ダークバットだ。まだ魔獣がいたんだね」
「ダンジョンボスは討伐しているから、きっと新しく生まれたんだ……」
ダンジョンボスがいなければ、魔獣はそのダンジョン内には生まれない。
きっと、ボスが倒される前に生まれてどこかに隠れていたんだろう。
それにしても、不甲斐なく声が出てしまった。
ロイドに聞こえてなければいいけど……。
「大丈夫、1匹だけみたいだ。そんなに驚くなんて、カルミアも女の子だね」
は、恥ずかしい。
ダークバットは翼を広げると、そのまま落ちるようにこちらに向かってきた。
「ロイド、ここは私がやる」
決して、恥ずかしいのを誤魔化すわけじゃない。
ロイドの大きな体だと、ダークバットを捕まえるのは難しいだろう。うん、きっと難しい。
「反射!」
見えない壁を貼るもダークバットは空中で自由に方向を変える。グルンと宙返りし今度は後ろから襲ってくる。
「水弾!」
杖で狙いを定め、水の弾丸を放つが素早く躱される。
「もう、早いな」
「ダークバットは魔力の流れが見えるから、魔法攻撃だと分が悪いよ。俺が相手をしようか?」
「大丈夫、避けられないようにすればいいんだから」
私は向かってくるダークバットに杖をかざす。
「水弾・三連!」
杖の周りに3つの水球が浮かび上がる。
いくら早いとはいえ、これなら避けきれないだろう。
3つの弾を連続で打ち出す。
1発目、2発目を避けて、ダークバットは体勢を崩した。
その瞬間を逃さず、私は3発目を発射した。
「よし!」
ロイドが横で声を上げる。
タイミングは完璧だ。これは避けきれない。
だが、ダークバットも無理矢理壁に体を当てて方向を変える。
3発目は擦りながら暗闇に吸い込まれていく。
私は杖を振りかぶった。
「ーーーカルミア、危ない!!」
ダークバットが鋭い牙を見せる。
魔法はもう間に合わない。もうその必要もないけど。
私はその頭蓋に、
勢いよく杖を叩きつけた。
ダークバットはそのまま意識を失い地面に落ち、黒い霧となってダンジョンの暗闇に消えていった。
「カ、カルミア。今、杖で殴ったね……」
「魔法が避けられるなら、直接殴ったほうが効率いい」
「魔法使いが物理攻撃していいの?」
「大丈夫。私、棒術も習得してるから」
「さ、さすがソロ冒険者」
それから何匹かダークバットに遭遇したけど、私達は難なく倒していった。
ダークバットはスピードはあるけど、攻撃も防御力も大したことはない。
私の魔法(+棒術)とロイドの鋼鉄の体のおかげで順調に奥へと進んでいた。
ダンジョンに入ってから、もう大分歩いている。
ふと、ロイドが立ち止まる。
「……声が近い。多分、すぐ側にいるよ」
「声?何も聞こえないけど……」
不審がる私を他所に、さらにロイドはどんどん先を進んでいく。
……本当にお化けとかだったらどうしよう。
暫く歩くと、周りが壁に囲まれた大きな空間に出た。
どうやら、ここで行き止まりのようだ。
辺りを見回す。
「多分、ここはダンジョンボスがいたところだね」
壁の岩場が大きく削れている。おそらく戦闘の跡だろう。
「ーーーー」
「……ロイド?」
ロイドが何かを見ていることに気付いた。
私もそちらに視線を向ける。
岩場の影で、何かが動いた気がした。
私達は注意をしつつ、ゆっくりと近づいていく。
「あれはーー」
道に落ちた瓦礫に紛れるように、今にも消えそうな眼光と鉄の塊のようなものが静かにこちらを見ていた。
「ーーゴーレム?」
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