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キール村の宿屋

 ノースケアの洞窟は町から北に進んだ場所にあったはずだ。

 近くにはキール村という村があり、今日はひとまずそこに向かうことにした。

 その前に、私はロイドを連れて町の服屋に立ち寄っていた。


「カッコいい!……でも、なんか悪役みたいだね」


「そうかな? 似合ってるよ、ロイド」


 黒いマントを羽織りながらロイドは腕組みをしたりポーズを決めている。

 顔には素顔を隠すための(アーマーヘルム)を被っているが、嬉しさのあまり目の隙間から光が漏れてしまっている。

 店主が苦笑いをしながら、とてもお似合いですよお客様と褒めている。

 ゴーレムのお客さんなんて初めてだろうなあ。


「そのままだと移動するときやっぱり目立つからね。それにそのマント、魔法抵抗の呪布で出来てるからきっと戦闘でも役立つと思う」


「そうなんだ! すごく気に入ったよ。カルミア、お金はクエストが終わったら必ず返すからね」


「大丈夫。私からのプレゼント」


 クエストに向かうのだから途中で他の冒険者と会うかもしれないし、村で間違って攻撃されないための先行投資だ。

 だが、ロイドはそんな私の考えを知らず、感動したように目を強く発光させる。


「クエストを受けてくれるだけでなく、プレゼントまで……ありがとう! 大切にするよ!」


「う、うん、どういたしまして」


 2万ベルと意外と高い出費だったけど、まあ……喜んでくれたし、良い買い物だったかな?

 ロイドはマントを翻し、颯爽と前を歩いていった。



 ***



 キール村に到着する頃には、辺りはもう暗くなっていた。


 昼間の疲れもあり、一刻も早くベッドに飛び込みたい。

 早速、宿屋に向かうことにした。


「すいません、2部屋でお願いしたいんですけど」


「は、はあ。2名様ですね……」


 宿屋のお兄さんは後ろにジロジロと視線を向ける。

 マントと(アーマーヘルム)で顔を隠してるといっても、大柄でそんな格好をしていたら目立ってしまうか。ゴーレムだと知ったらもっと驚くだろうなあ。


「……申し訳御座いません。本日は冒険者のお客様が多く、ちょうど満室になってしまいまして……」


 ま、満室?


 宿屋のお兄さんが申し訳なさそうに頭を下げる。

 もしかしたら、飛竜の討伐クエスト目当てに周辺の冒険者が集まっているのかもしれない。ここは西の山脈への通り道にもなる。

 ……冒険をしていれば、こういうこともよくあることだ。


「そうですか……でしたら、この村に他に宿屋はありますか?」


「もう1つあるのですが、そちらも空きがないようで……」


 それは困った。最悪、野宿でもするしかない。

 私は何度かしたことがあるから慣れているけど、ロイドは……大丈夫か、ゴーレムだし。


 どうしようかと少し考えていると、奥から年配の女性が顔を出した。


「あら、可愛い冒険者さんねえ。こんな子のお願いを断るなんて、あんたも気が利かないねえ」


 可愛い、って私のことか。少し顔が熱くなる。

 お婆さんはお兄さんの頭を小さく叩く。

 痛いよ、母さん……とお兄さんは呟いている。

 なるほど、親子で経営しているのか。


「後ろのお兄さんも大きくて強そうねえ。宿泊は1泊で大丈夫?」


「は、はい……でも部屋がないみたいで」


「すいませんねえ。だったら、うちで良かったら泊まっていってください。すぐ隣なので」


「え? でも、それは……」


 さすがにお邪魔になるのではないかな?ロイドにも聞いてみないと。


「いいから、いいから! 困った時は助け合いだよ。それに後ろのお兄さんは行きたがってるようだけど?」


 振り替えると、ロイドは目を輝かせ(物理的に)ソワソワしている。

 分かりやすい反応だなあ。


「……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」


 お婆さんは、いらっしゃいと笑ってくれた。

 野宿はしないに越したことはないからね。



 ***



「すいません、夕食までご馳走になってしまって」


 今日は宿屋のお婆さんの家にお世話になることにした。

 テーブルにはパンにクリームシチュー、それにサラダが並んでいる。


「いいんだよ、大勢で食べたほうが美味しいんだから。お兄さんは本当にいらないのかい?(アーマー)なんか脱いで食べなさいな」


「お、俺はお腹いっぱいなんで!それに明日は初めてのクエストだから体調を万全にしないと!」


 そうかい? とお婆さんは少し残念そうな顔をする。


「お店を空けないように、いつも夕飯は別々だからね。こうやって誰かと話しながら食べるのは久しぶりだよ」


 満室って言ってたし、2人だけだと忙しそうだもんなあ。

 ロイドに悪いと思いつつ、スプーンを口に運ぶ。

 あ、シチュー美味しい。

 ロイドは食べれない代わりに話を続ける。


「そうだ、お婆さん。俺達この村の近くの洞窟のことを聞きたいんですけど……」


「あの洞窟かい? 少し前に突然出来てね。それで冒険者のお客さんも増えたんだけど、夜になると獣の声とか聞こえて怖かったんだよ。でも、もう魔獣も倒されたって聞いたよ」


 昨日までなかった場所に、ダンジョンは突然現れる。

 ダンジョンは洞窟や遺跡、迷宮と形は様々だ。

 と同時に、ダンジョンの内部には魔獣が生まれるのだ。ダンジョンは暫くすると元通り消えてしまい、また別に場所に現れると言われている。


 ノースケアの洞窟もやっぱりギルド会館の報告通り、魔獣はいないようだ。

 きっと明日は回収忘れのアイテムがないか確認するだけになるだろう。


 それからも暫くお婆さんと話をした後、私とロイドは部屋に案内された。


「空き部屋だから、好きに使っておくれ。ベッドが1つしかないけど大丈夫かね?」


 ロイドが慌てる。


「いや、さすがに同じ部屋はまずいんじゃあ……ね、ねえ? カルミア?」


「あ、全然大丈夫です」


 ふう、ようやく休むことができそうだ……て、ロイド? どうして少しへこんでいるの?


 私はお婆さんにお礼を言いつつ、ふと棚の上に写真が飾られていることに気付いた。


 若い頃のお婆さんと息子さん、それに、隣にいる男の人は……?


 私が写真を見ていたことに気付いたのか、おばあさんは目を細めながら口を開いた。


「旦那もあなたと同じで冒険者をやっていたんですよ。帰ってくると、いつも楽しそうに私に冒険話を聞かせてくれてねえ。私はそれを聞くのが大好きでね」


 おばあさんは写真立てを眺めながら、少し寂しそうな顔をした。


「いつものように冒険に出て、いつものように帰ってくると思ってたんだけどね……もう息子も大きくなって、あんまりあの人のこと思い出さなくなったけど、こうして宿屋をやってれば、いつかあの人のこと知ってる人に会えるんじゃないかと思ってね」


「……そうなんですか」


 冒険者は危険が伴う職業だ。魔獣に殺されたり、ダンジョンで行方不明になることは日常だ。

 私も知っている人が急にいなくなってしまったことがある。


 それでも、私は何か言わないといけない気がした。


「もし、どこかで旦那さんのことを聞いたら、お婆さんに必ずお伝えします」


 単なる慰めに聞こえてしまったかもしれない。

 それでも、ありがとう、とお婆さんは微笑んでくれた。


 その日、私はベッドで1日を振り返った。

 森でヘルハウンドに襲われ、喋る不思議なゴーレムに出会い、今こうしてクエストを受けるため一緒に行動している。

 その不思議なゴーレムは頑なにベッドに入ろうとせず、床に座って壁にもたれかかっている。


 そういえば、ゴーレムも眠るのだろうか?


 ……ロイドとの約束は今回のクエストまでだ。

 明日が終われば、また私はソロでの冒険に戻るだろう。

 だから明日のクエストは頑張ろう。もう少し楽しもう、ロイドとの冒険を。


 目を閉じて、私はいつの間にか、眠りについた。

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