ギルド会館にて
町に着くと、やっぱりというか、想像していた通り視線が集まってくる。
すれ違う人はみんな私、の横を歩く大柄な人形を見上げている。
「……ねえ、ロイド。やっぱりその姿のままなのは目立ちすぎると思う」
「そうかな? カルミアの方じゃない? 女の子の冒険者だし」
……もしかしたらロイドは鈍感なのかもしれない。
ギルド会館に行った後で服でも買ってあげよう。鋼鉄の体を隠せば少しはマシになるかもしれない。
ギルド会館に入ると、受付の人がこちらを見る。
「あ、こんにちは。ロイドさん」
「こんにちは、マリーさん。この前は机叩いちゃってすいません」
親しげにロイドと受付嬢のマリーさんが話始める。冒険者登録のため、何回か通ったと行っていたから仲良くなったのだろうか。
「いえいえー、お気になさらないでください……っと、あなたはカルミアさん? 遺跡の調査はどうでしたか?」
「他のパーティーが先に着いてまして、ほとんど調査が終わってました」
「そうですか……。複数パーティー募集のクエストでしたので、紹介させて頂いたのにすいません。今日新しく掲示板にクエストを張り出したので良かったら見ていってくださいね」
「いえ、私が準備に時間がかかってしまったので。ありがとうございます。少しお聞きしたいのですが、今傭兵を募集しているパーティーはありませんか?」
「傭兵ですか? ……なるほど、傭兵枠でも募集があるのは、今こちらで預かっている中ではこの2件ですね」
なになに、
1、氷の洞窟に挑戦予定、最上級火炎魔法を使える方急募。
2、ブラックドラゴン討伐のため、ドラゴン討伐経験者求む。
「ロイド、火炎魔法使える? もしくはドラゴン倒したことあるとか」
「……あー、うん、ない」
歯切れの悪い返事をする。まあ、この条件に合ってるのなんて上級の冒険者だけだろうし、仕方ないかあ。
「通常、傭兵は手練れや引退したベテランの冒険者が一時的にお金を稼ぐために行うことが多いので、その分、その、料金が高いことが多いのであまり募集をかけられないですよ。ギルドに所属していれば身内や他のギルドとパーティー組みますので」
「そうですか……俺、お金はいらないんだけどなあ」
「でしたら、直接お声を掛けて頂いても構いませんよ。ここはギルド会館、冒険者同士のコミュニケーションの場でもありますから」
マリーさんはニコッと笑う。
用事のなさそうな男の冒険者が溜まっていることがあるけど……なるほど、女の私でも納得だ。
私達はクエストが張り出されている掲示板前に移動した。
「ちなみに、ロイドが受けたいクエストってどんなの?」
「ああ、これだよ」
そう言うと、ロイドは掲示板まで行き1枚を指差した。
「ええと、ダンジョンクエストだね。場所はノースケアの洞窟、戦闘後の修復と残骸の回収? もう魔獣も討伐済みだね。危険は少ないけど、報酬も少ないし、駆け出し用のクエストだけど、これでいいの?」
「うん、これがいいんだ」
「……分かった。誰かこのクエストを受けないか聞いてみよう」
それからギルド会館にいる冒険者に聞いて回ってみたが、返事はどれも良いものではなかった。
喋るゴーレムに驚いてはいたけど、それは関係なくやはり難しいかもしれない。クエストでも人気、不人気は明確に分かれる。ロイドのクエストは言ってしまえば後始末だ。銅プレートの冒険者でも進んでやりたがりはしないだろう。
「なかなか受けてくれる人いないね」
「うん……でも、いつもよりなんか人が少ないような気がする」
周りを見ながら話をしていると、ちょうど2人組の冒険者が入ってきた。どちらも銅プレートの冒険者のようだ。
「あ、こんにちは!」
ロイドが先に気付き声をかけた。2人は慌てた様子で近づいてくる。
「あ、ど、どうも。ゴーレムさん、今日もお元気そうでなによりです!」
「き、今日も、か、カッコいいですねえ!体が鉄みたいに輝いて……おや、そちらの方は?」
「カルミア・アデレードです。ロイドには森で魔獣から助けてもらって一緒にいるんです」
は、はあ、と冒険者は私にも挨拶をしてくる……なんだか怯えているみたいな。
「あ、俺あそこの人達に声かけてくるよ!」
ロイドは掲示板を見ているパーティーに駆け寄っていった。
と、2人組の冒険者が小声で顔を近づけてきた。
「お、おい、あんた、大丈夫なのか? 危なくないのか?」
「危ないって、どういうこと?」
「いやー、最初、ゴーレムさんを町で見かけてモンスターだと思って切り掛かったら返り討ちにあってな」
「そうだそうだ。吹っ飛ばされて痛い目にあったぜ」
「まだ体が痛くてな、しばらくクエストもお休みってわけだ。暇だから受付の姉ちゃんと話そうと思ってきたら、こんなところでまた会うとはなあ。また痛い目に合わないうちに大人しく帰るかね」
なるほど、森で話をしていたのはこのことか。
「体が万全だったら、俺達も飛竜退治に参加して一旗上げるところだったんだけどな」
「いやー、本当に残念だぜ」
ん?
「飛竜退治って?」
「ああ、西の山脈に飛竜が出てな。討伐クエストの懸賞金目当で大方の奴らはそっちに向かってるよ」
「そっか……それで人が少なかったんだ」
私は諦めず声をかけて驚かれているロイドを見ながら、考えていた。
***
暫くギルド会館にいたが、やはり他の冒険者から良い返事はもらえなかった。
遅れながらも、おこぼれを貰おうと飛竜退治に向かう準備をしているパーティーもいて、後始末のクエストをわざわざ受ける人はいそうにない。
今は休憩スペースのテーブルに座っている。
向かいに座るロイドを見ると、目がぼんやり青く光っている。あ、これはがっかりしてるんだな。
大きい体を縮こめながら座っているから、少し可哀想に見えてしまう。
だから、
「……私でよければ、代わりにクエストを受けようか?森で助けてもらったお礼に……ソロで申し訳ないけど」
つい、そんなことを言ってしまう。
ロイドの目が黄色く点滅する。
「え?いいの!?……でも、最初に人と一緒にいるのは好きじゃないって……」
「何をいまさら。それにロイド、ゴーレムだから、なんか大丈夫な気がする」
ロイドはこっちが驚くくらい、ガバッと私の手を取ると、
「そう言ってもらえるなら、お願いするよ!よろしく、カルミア」
嬉しそうに目を高速で点滅させた。こっちまでなんだか嬉しくなり笑ってしまう。
「こちらこそ、よろしく。ロイド」
私はこの不思議なゴーレムにしばらく付き合うことにした。
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