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【鉄馬】

「いよう、ツバタ。リターンマッチだろ」


 蒸気バイクの主──ナオミは、エンジン音に呑みこまれるほどの小声でつぶやく。


 敵陣が、見慣れぬ乗騎に対する混乱から復帰するまえにしかけようと、車輪を高速回転させる。急発進した車体が、ナオミの重心移動によって飛蝗のように跳ねる。


「ぐえッブ!?」


 先陣の迅脚竜の上方から、鉄馬が落下する。タイヤの回転と車体の重量に巻きこまれて、騎竜と乗り手の頭部が挽き肉に変わる。


 ナオミは、バイクの速度を維持したまま、首無し死体と化したサムライの太刀を奪う。鞘から白刃を滑らせ、反対側にいるサムライを逆袈裟に斬りつける。


「ぎゃブッ!」


「がヘェ!?」


「びギョばッ!!」


 赤毛のバイクライダーは、未経験の軌道に戸惑う武者たちを、次々と斬り伏せていく。一人しとめるたびに、相手の刀を取り上げ、集めていく。


 いち早く恐慌から復帰した武士が、ナオミに向かって大槍を突き出す。赤毛の操縦手は、車体を傾け、バイクの胴体で矛先を受ける。


──ガ、キイィィンッ!


 甲高い金属音が、森のなかに響きわたる。大槍がへし折れ、穂先が地面に突き刺さる。一方、フルオリハルコンフレームの車体には、傷ひとつない。


 ナオミは、鉄馬を横方向に回転させ、その勢いを乗せた斬撃で、相手の騎竜の首をはねとばす。騎手は、恐竜とともに地面に倒れこむ。


「グッド……ブランクを感じさせないだろ、相棒」


 瞬く間に敵兵のおよそ半数を斬り捨てれば、残りのサムライたちもおよび腰になる。ナオミは、遠巻きに自分を包囲する敵兵たちを一瞥する。


 赤毛のバイクライダーは、拾い集めた十本ほどの刀を小脇に抱え、車体をツバタの騎竜『跋虎(ばっこ)』のほうに向ける。ためらうことなく、スロットルをひねる。


「喰らいなアァァ──ッ!!」


 ナオミは絶叫する。蒸気バイクが、暴威竜に向かって突貫する。速度と馬力を乗せて、十本の刀を巨竜の片足、そのすねに穿ちこむ。


「グルギャアアァァァ!!」


「ヌ、ヌヌ、ヌーッ!?」


 巨竜『跋虎(ばっこ)』が、悲鳴をあげつつ、身をよじる。頭上に陣取るツバタは振り落とされまいと手綱にしがみつき、アサイラは革鞭を強く握りしめる。


「まだまだァー!」


 地団駄を踏む両脚と、でたらめに振り回される太尾をかいくぐりながら、ナオミの鉄馬は、暴威竜の周囲を旋回する。


 ふたたび、『跋虎(ばっこ)』の正面に陣取ると、思い切り重心を後ろに傾ける。前輪を掲げあげて、後輪のみ接地したウィリー走行で、巨竜に迫る。


「こいつでッ! どうだアアァァァ──ッ!!」


 暴威竜のすねに釘のように突き刺さった刀へ、バイクの前輪をハンマーのように叩きつける。根本まで打ちこまれた刃は、骨まで届き、粉砕する。


「アギャオオォォォンッ!!」


 断末魔のごとき金切り声をあげて、『跋虎(ばっこ)』は真横に倒れこむ。巨体が周囲の樹々を巻きこみ、へし折り、土煙が立ちこめる。


 暴威竜の頭上にいたツバタは、アサイラとともに鞍から空中へと振り落とされる。


「ヌッ。まずい。引き時だ──ン!」


 滞空しながら、ツバタはつぶやく。うまく受け身をとって着地し、混乱に乗じて森にまぎれ、『げえと』のもとまで後退する。


 そう考えた武将の右腕が、強い力で引っ張られる。ツバタは、自分の手首が竜革の輪で捕らえられていたことを思い出す。


 武将の上方、土煙の向こうに人影が見える。先刻まで殴り合っていた青年が、革鞭をたぐり寄せつつ、ツバタのほうに落下してくる。


「ウラアァァ──ッ!!」


「ぬあッぶ!?」


 着地と同時に、アサイラはサムライの顔面に、瓦割りのごとく拳を叩きつける。武将の鼻の骨が折れ、兜が吹き飛ぶ。青年はマウントをとり、なおも拳を振りおろす。


「ウラララァ! ウラアッ!!」


「あッががゴがッ!?」


 アサイラの鉄拳を何度も叩きつけられ、顔面を腫れあがらせ、前後不覚になりながらも武将は未だ意識を保っている。


 サムライのタフネスにあきれ果てながらも、アサイラは顔をあげる。蒸気バイクにまたがったナオミと、視線が交わる。


「ああ、悪い。こいつを借りていた」


 右手に巻きつけた投げ革を、アサイラは掲げてみせる。ナオミは、笑いかえす。青年は、ふたたびツバタを殴りはじめる。


「いいだろ、それ。手を貸してくれた礼に、やるよ」


 赤毛のバイクライダーはそういうと、鉄馬のエンジンをふかす。ヘッドライトを、砦とは反対、湖の方角へと向ける。


 蒸気バイクを走らせようとして、ナオミは思い出したように動作を中断し、アサイラに対して顔を向ける。


「アサイラ。テメエの探しものは、湖の底にある」


「そうか」


「そいつは、もうテメエ一人でだいじょうぶだろ……ウチは、行くよ」


「そうか……ウラアッ!」


「ま、待て、やめ……ぶグわッ!」


 油断なく、執拗に、ツバタへと拳を振りおろし続けるアサイラを背に、ナオミは蒸気バイクを湖畔へ向かって走らせた。


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