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【花魁】

「なんなんだい、ここは? まるで竜宮城なのよな」


『扉』を通り抜けたリンカは、その先に広がる空間を見回す。円形の部屋だ。


 いくつかの出入り口はあるが、窓はない。丸い室内の壁面には、女鍛冶が見たことのない煌びやかな家具が並べられている。


 なにより、目を引くのは、空間の中央にどっかりと置かれた台座だ。


 宝物でも飾り付けられるかのように豪華な天蓋つきで、そこには雲のように柔らかそうな寝具が設えられている。


「お褒めいただき、光栄だわ。ようこそ、私の『部屋』へ」


 先ほどまで頭のなかに直接届いていた声が、今度は耳に響いてくる。声音のほうを見ると、そこには二人の女が立っている。


 リンカに言葉を返したほう──紫がかった髪に緑色の瞳の女は、艶やかな花魁衣装を着崩したものに身を包んでいる。


 打掛の衿合わせは大きく開かれ、うなじはおろか、撫で肩から豊満な乳房まで露わとなり、下半身の合わせ目からも、ちらちらと肉付きのよい太ももがのぞいている。


 それでいて堂々としたたたずまいは、淫らさを通り越して、いっそ潔さを覚える。


「クソ淫魔め。また、ふざけた格好を……」


「なんだ、アンタらは芸者の一座なのよな?」


 背後から、アサイラの苦虫を噛み潰したような声が聞こえてくる。木製の『扉』がきしみ音を立てて、閉じられる。


 女鍛冶は、花魁装束の女の横に立つもう一人に目を向ける。栗毛の髪に青紫の瞳の女は、リンカにはまったく見覚えのない服装をしている。


 白と黒を基調した色味に、肉体の線を浮き立たせるような仕立ては、大振りな胸をより強調してみせる。


 股ぐらを隠すはずの腰布は妙に丈が短く、ひざのうえまで長足袋に包まれた脚の太ももは丸見えで、少しでも傾けば、尻肉までのぞいてしまいそうだ。


 そんな奇妙な衣装は、あちこちに愛らしく白い花びらを思わせるひらひらの装飾がとりつけられ、露出以上の妙な色気を引き立てている。


 しかし、それ以上にリンカの気を引いたのは、彼女に見える獣の相だった。獣人であることを示す、狼の耳と尾が、その身体に見て取れる。


「そっちの嬢ちゃんも、あの世界の出身なのよな?」


 女鍛冶の質問に、狼耳の女は答えず、助けを求める視線を花魁姿のほうに向ける。


「シルヴィアからアドレスが読みとれた以上、そうだとは思うんだけど……本人には、記憶がないみたいだわ」


「ク~ン……」


 獣人は、申し訳なさそうに鳴き声をこぼす。リンカは、呵々、と笑う。


「そうかい。ま、アンタもいろいろとワケありってことなのよな」


「こっちのほうの自己紹介がまだだったのだわ。私の名は、『淫魔』リーリス。よろしくね、マイスター・リンカ」


 リーリスと名乗った花魁姿の女が両手を広げると、たぷん、と豊満な乳房が揺れる。


「早速だけど、交渉といきましょう。こちらへどうぞ、なのだわ」


 女鍛冶は、『淫魔』に白く小さな円卓へと導かれる。華奢な腰かけが、ふたつ、向き合うように置かれている。


 リンカとリーリスは、対面して座る。シルヴィアと呼ばれた獣人の娘が、手早く磁器の腕を並べて、紅い茶で中身を満たす。


 見慣れぬ器に満たされた茶を口に運ぶと、蜂蜜の原液のように甘い味がする。


「クソ淫魔。俺の席がないぞ」


「マスターは、こちらと一緒にソファに座るんだな」


 アサイラの文句に当の『淫魔』が返答するまえに、シルヴィア嬢が抱きつくように青年に身を密着させて、壁沿いの長いすへと連行していく。


 リンカが、『淫魔』の肩越しにアサイラとシルヴィアの様子を見やると、獣人の娘は飼い主にじゃれつく犬のように青年へと頬をすりつけている。


「で、アンタらは何者なのよな。アサイラの旦那の、愛人かい?」


 女鍛冶が、冗談めかした笑みを浮かべる。『淫魔』は、口元をほころばせ、応じる。


「ぬふっ。当たらずとも遠からず、といったところだわ。私は、アサイラの後見人にして、協力者……ってところかしら」


「当たってもいなければ、かすってもいない」


 アサイラの抗議の声に対して、『淫魔』は神秘的な微笑を浮かべて、黙殺する。不思議とリンカは、居心地の良さのようなものを感じつつ、口を開く。


「アタシの名前も、事情も、アンタには通じているみたいなのよな。だったら、そちらのいきさつも、大まかでいいから聞かせてもらいたいね」


「私とセフィロト社は、前から小競り合いしていてね。アサイラはアサイラで、目的を達するために、あそこのエージェントたちとやりあう必要があったのだわ……」


 甘ったるい紅茶を口元に運びながら、『淫魔』は息継ぎする。


「……それで、まあ紆余曲折しているうちに、いろいろとエスカレートしちゃって。いま、私たちはセフィロト社の本拠地に攻めこもう、って話になっているのだわ」


「それとアタシが、どういう風につながっていくのよな。一人でも多くの兵が欲しいのかもしれないが、こちとら、サムライってわけじゃない」


「セフィロトの本社は、強力な次元障壁……超ヤバイ結界に守られているのだわ。それを破壊しなければ、まず、攻めこむことすらできない」


 翡翠のような『淫魔』の瞳が、女鍛冶を見据える。


「単刀直入に言うのだわ……『龍剣』を造って欲しい、アサイラ用の」


「あー。なるほど、そういうことなのよな……」


 リンカは、口をへの字に曲げて、腕組みし、眉間にしわを寄せて天井を仰いだ。


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