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【標的】

 重低音のパンクロックが、装甲バギーの車内に反響する。ビートに合わせるように、トゥッチは鼻歌でリズムを刻む。


 トゥッチが操る装甲バギーは、都市外縁部の農業地帯を抜けて、グラトニアの荒野を疾走する。


「ヒューッ!」


 整備されていないオフロードは、サスペンション越しに車体を激しく揺らすが、トゥッチはその振動を楽しむ。


 やがて、ナビゲーションシステムが、ドクターの指定したポイントへの到着を知らせる。トゥッチは、石造りの遺跡のすぐ横に、バギーを停車させる。


「ガキの石積だ、これがな」


 トゥッチは、遺跡をつまらなそうに一瞥すると、周囲の探索を開始する。孫娘当人の姿はない。


 代わりに、石の尖塔の根元で、少女のポーチが落ちていたのを発見する。トゥッチは、あきれたように古代の構造物を見上げる。


「コイツを、見物しに来たってのか? ガキの考えることは、わかんねえ」


 トゥッチは、バギーのもとに戻る。車体後部のコンテナを開くと、内部に収められた無数のドローンが姿を現す。


 続いて、トゥッチは助手席側のドアを開ける。同乗者の代わりに座席に乗せられたのは、大型のガスボンベだ。


「例の試作装備か、これがな」


 にやり、と笑ったトゥッチは、漆黒の防刃コートの内ポケットから風船を取り出す。風船の口をボンベにつなげ、バルブをひねる。


 ガスが充填されて膨らんだ風船の根元を器用に結ぶと、今度はそれをドローンに取り付ける。ドローン全部に風船を結ぶと、バギーの運転席に戻る。


「準備完了、と。捜索開始だ、これがな」


 トゥッチは、タブレット型デバイスからドローンの制御プログラムを起動する。風船を頭に乗せたドローンたちは、一斉に空へ飛び立っていく。


 液晶画面には、ドローンたちが空撮したリアルタイム映像が映し出される。緑色の下草、石灰石、朽ちかけた遺跡の広がる荒野だ。


「どこまでも、つまんねえ景色だな。本当の僻地ってやつだ、これがな」


 トゥッチは、しばしハンドルのうえに足を投げ出し、無人機のカメラが送信してくる映像を眺め続ける。


 やがて、ドローンの一機は、広大な平原の一角に複数の人影を発見する。トゥッチは、カメラの望遠機能を起動する。


 原住民の男たちだ。どこから手に入れたものか、アサルトライフルで武装し、導子通信機らしきものを耳に当てている。


「ビンゴだ、これがな」


 トゥッチは、人影を発見した座標にドローンを集めさせる。自分自身も運転席に座り直し、アクセルを踏む。



 装甲バギーを走らせながら、トゥッチは、無人機のカメラで目標座標の周辺地形を精査する。


 なだらかな丘陵地だ。上空からでは影になっていてよく見えないが、人の動きから推測するに、地下に穴を掘って、拠点にしている可能性が高い。


「ほ……っ?」


 トゥッチは、興味深げに声をこぼす。バギーに先行した集まったドローンの一機に向かって、男の一人が何かを構える。


 望遠カメラで、地上の男を拡大する。手にしているものは、狙撃銃だ。指向性マイクが、銃声を拾う。


 ドローンの一機を、銃弾が貫く。フレームがひしゃげ、カメラが砕け、取り付けられた風船が破裂する。次の瞬間。


 しぼむ風船の内側からから、質量体が膨らんでいく。見る間にそれは、灰色の巨大な石柱へと姿を変える。


「ハッハァ! ハメ殺しだ!!」


 バギー車内で、トゥッチが歓声を上げる。断面の直径が10メートルはある石柱は、まっすぐ狙撃者に向かって落下し、押しつぶす。


「『質量煙霧(エアロマス)』だ、これがな!」


 トゥッチは、ドクターから譲渡された最新試作装備の名を叫ぶ。ボンベに充填され、風船を膨らませた漆黒のガスの呼称だ。


 『質量煙霧(エアロマス)』は、通常の大気成分と反応することで、保存則を無視して質量を具現化する。


 ユグドライトを気化し、質量のみを異なる次元世界(パラダイム)から召喚する──と、ドクターは原理を解説していた。トゥッチには、興味がない。


 エージェントであるトゥッチにとって、重要なことは運用法だ。ドローンとの併用で質量兵器として使える、と目を付けていた。


「いけるぜェ! このまま、レジスタンスどもをハメ殺しだ!!」


 石柱の落下を受けて、慌てふためくレジスタンスの狂騒をドローンたちが見下ろす。哀れな反逆者たちは、丘陵の影へと駆けこんでいく。


 ゲラゲラと哄笑するトゥッチを乗せた装甲バギーは、陣地として改造された丘の手前300メートルで停車する。


「さぁて。どうハメ殺してやるか、これがな……んん?」


 トゥッチは、タブレット型デバイスをのぞきむ。無人機の空撮カメラが、接近する新たな人影を捉えている。


「レジスタンスの増援……? にしては妙だ、これがな」


 ドローンの映像を拡大し、接近者の姿を確認する。黒髪の男だ。風貌は、グラトニア人らしくない。妙に軽装で、銃器で武装している様子もない。


 そして、ただ走っているだけだというのに、妙に足が速い。このままでは、一分とたたずにトゥッチと会敵する


「おれっちのバギーに併走できそうな速度だ、これがな……脚部を機械化でもしているのか? まあ……いい」


 トゥッチは、装甲バギーのコンソールパネルを開く。自動操縦プログラムを起動し、自分はタブレットデバイスを抱えて運転席から降りる。


 装甲バギーは、トゥッチが下車してから五秒後、レジスタンスたちの陣地である丘陵に向かって走り出す。


 慌てた反逆者たちが、ライフルを銃弾をバギーに乱射するが、装甲を貫くには至らない。バギーは、丘陵地の影に吸い込まれていく。


「順番に、ハメ殺しだ」


 装甲バギーは、地下陣地の入り口に突っこむ。衝撃で車体のフレームがひしゃげ、助手席に固定されたボンベが破裂する。


 『質量煙霧(エアロマス)』があふれ出し、丘陵地の根元から、灰色の石柱がでたらめに生えてくる。


「まずはよし、これがな」


 敵拠点の内部構造もわからずに突っこませただけだ。破壊できたのは、入り口付近だけだろう。それでも、当座の無力化には十分だ。


 というよりも、奥まで破壊してしまっては、まずい。レジスタンスに誘拐されたララが、内部にいる可能性は低くない。


「お嬢の身になにかあったら、怒り狂ったドクターに、おれっちがハメ殺しだ。モルモットにまわされるのは勘弁だぜ、これがな」


 身震いしたトゥッチは、タブレット型デバイスを手にして、第三の接近者に向き直る。100メートルの距離をとって、相手が足を止める。


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