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【呼出】

 観光都市の中央通りを、漆黒のリムジンが疾走する。


 日常の喧噪を忘れ、優雅なスローライフを提供する──実際はイミテーションにすぎないのだが──グラトニア・リゾートにおいては、奇異な光景だ。


 強い陽光に照らされた闇色の高級車は、都市部中央にそびえ、採光ドームを貫くほどの高さを誇る摩天楼へと向かう。


 リゾートと周辺地域を睥睨するのは、都市の運営、およびグラトニアの植民政策の中枢を担う、セフィロト・コーポレーションの支社ビルだ。


 やがて真黒いリムジンは、徐々に速度を落とし、支社ビルの正門前で停車する。待機していたセフィロト社員が、慌てた様子で高級車のドアをあける。


「即応態勢は、エージェントの基本……とはいえキツいぜ、これがな」


 リムジン内から出てきたのは、車体同様の漆黒のコートを羽織った長身の男だった。胸元には、銀色の輝きを放つネームプレートをつけている。


 男のヘアスタイルは特徴的で、頭皮のすぐうえで髪がいくつもの三つ編みに結い上げられている。遠目からは、地肌と編み込みの縞模様にも見える。


「……ったく。おれっちを、過労でハメ殺す気かよ」


 サングラス越しに、心底めんどうくさそうに、男は摩天楼を見上げる。


「ご案内します」


「あぁ」


 緊張を隠せていない社員に先導され、黒コートの男は、セフィロト支社のビルの内部へと歩を進めていく。




「なんとなれば、すなわち……よく来てくれた。このワタシとしては助かったが、キミとしては迷惑だったろうかナ?」


「その通りだ、これがな」


 遮光カーテンを閉め切り、薄暗い部屋に案内された男は、背筋の伸びた白衣の老人に出迎えられた。


 白衣のうえにつけられたゴールドのネームプレートと、赤く発光する機械式の義眼が闇のなかに輝きを放つ。


「申し訳なくは思っている。なにせ、いま、この都市はおろか、グラトニアにいるエージェントはキミだけだ。あー、えーっと……コーンロウくん」


「ヘアスタイルの名前だ。ドクター、これがな」


 男──トゥッチ・ミリアノは、自分の頭部を人差し指で、とんとん、と叩く。白衣の老人は、自分の薄い白髪をぽりぽりとひっかく。


「で、バカンス中のエージェントを緊急呼び出ししてまで、頼みたいミッションってのは、なんだ。ドクター?」


「個人的な依頼かナ。このワタシの孫娘、ララが迷子になった。探して欲しい」


「ドクター。過保護に過ぎるんじゃないか、これがな」


 トゥッチは、馬鹿にするように肩をすくめてみせる。ドクターと呼ばれた老人は、動じる様子もなく、手にした端末を操作する。


 暗闇のなかに、映像が浮かび上がる。グラトニア・リゾートの業務区画の地図だ。


「第三ゲートがハッキングされて、内側から開けられた。痕跡が巧妙に偽装されていて、解析に時間がかかった。さすがは、このワタシの孫娘かナ」


「爺バカだ、これがな」


「なんとなれば、すなわち。ララは、都市の外に出てしまった可能性が高い。わざわざ休暇中のキミを呼んだ理由が、わかったかナ?」


 トゥッチは、大げさにため息をつく。


「埋め合わせは、期待していいのか?」


「査定へのボーナスは、取りはからっておく。それに、手付け金といってはなんだが、キミが以前希望していた試作装備を地下ガレージに搬入させておいた」


「了解。愛しの孫娘が向かった心当たりはあるか、ドクター?」


「無論だ。データを送信しておく」


 トゥッチは、芝居がかった敬礼をドクターに返すと、暗室から退出する。無人の廊下を横切り、エレベータに乗り込む。


 リズムよくボタンを押すと、エレベータは地下へ向かってゆっくりとすべり降りていく。トゥッチは、なんとはなしに天井をあおぐ。


 観光都市内部の治安は完璧だが、一歩外に出れば事情は異なる。


 この次元世界(パラダイム)には、セフィロト社の支配をよしとしないレジスタンスが活発に動いていることを、トゥッチは知っている。


 原住民を、セフィロト社の事業の労働力として使おうとしたことが災いした。


 民族意識の強いグラトニア人たちは、警備の武器を強奪し、工場の一部技術を盗みだした。


 彼らがレジスタンスとして武装し、抵抗活動をおこなうようになって久しい。銃火器の独自生産をおこなっている、とのウワサもある。


「現住の蛮人なんざ、死なない程度にハメ殺して、徹底的に再教育してやればいいんだ。これがな」


 トゥッチは、つぶやく。少なくとも、ここ、グラトニアおける植民政策は上手くいっていない。そう思っている。


──ポーン。


 エレベータの間の抜けた電子音が、地下ガレージへの到着を告げる。


 扉が両開きする。大股で入ってきたトゥッチに対し、整備員たちは生真面目に敬礼する。ガレージ中央には、防弾装甲の施されたバギーが用意されていた。


「ドクターの試作装備とやらは?」


「助手席に固定しておきました」


「いつもの装備も、抜かりはないな?」


「荷台のコンテナに格納してあります」


 トゥッチは鷹揚にうなずくと、装甲バギーの運転席に乗り込む。目前のシャッターが開き、都市外部へとつながる極秘の地下道が見える。


「手短に片づけるとするか。まさにガキの使いだ、これがな」


 ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。トゥッチの装甲バギーは、地下道から未開の荒野に向けて走り出した。


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