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【坑道】

「他のエージェントに貸しを作るのは気に入らないのだが、仕方ないものなんだな」


 グレッグは、『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』を前面に展開し、自身は岩壁の隙間に身を隠し、導子通信を起動する。


「CQ、CQ……こちら、グレッグ・コクソン。ミッション遂行中に、崩落によって、洞窟内に閉じこめられた。救援を求む……」


 ザリ、ザリザリ……救難通信に対するオペレーターのレスポンスは、ほとんどノイズまみれで聞き取れない有様だ。


「導子通信が不安定なんだな……地理的な影響か?」


 少なくとも、応答はあった。ならば、本社側も状況を把握するはずだ。グレッグは、そう判断する。あとは救援が来るまえに、ターゲットを始末するだけだ。


 銃のグリップの感触を確かめつつ、迷彩コートのエージェントは立ちあがる。進行方向に、『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』を九機三個小隊、先行させる。


「なるほど……これが、原因なんだな……」


 坑道の奥に進むにつれて、『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』と多機能ゴーグル間の導子通信の乱れが大きくなる。


 『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』の遠隔操作にも、当然影響が出ているだろう。ターゲットに、ことごとく撃墜された一因である可能性は高い。


「ヌヌ……ッ!」


 先行する『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』のカメラが、人型の動態反応を検知する。射撃型が、ニードルガンを発射し、相手は地形を利用し、回避する。


 黒い人影は、身をひるがえしつつ、地面から岩を拾い上げ、投げつける。鳥型マシンに命中し、送信される映像がノイズとなり、沈黙する。


「ずいぶんと器用なんだな」


 格闘型の鳥型マシンが、攻撃者に追撃しようと爪型のブレードを展開する。これ以上の交戦は、無意味だ。グレッグは、静止命令を送る。


 しかし、『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』は止まらない。人影に向かって、急降下攻撃をしかける。


 相手は、カウンター気味にチョップを繰り出して、鳥型マシンを難なく叩き落とす。ようやく静止命令を受信したのか、自爆型の個体はホバリング状態を維持する。


 黒い人影は、その隙をついて、洞窟のさらに奥へと駆けこんでいく。


「……導子通信の乱れなんだな」


 グレッグは、舌打ちする。『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』に対するコマンド送信とタイムラグの原因だ。


 グレッグは、焦ることなく、人影が逃げこんだ方角にゆっくりと歩を進めていく。表情は動かないが、内心、背筋が冷える感覚を覚える。


機械化鳥隊(バード・カンパニー)』の迎撃、退路をふさぐブービートラップ……グレッグは洞窟の全容をつかめず、導子通信も不安定だ。


「予想以上の、手練れなんだな……」


 エージェントは、生唾を呑みこむ。明らかに、ターゲット側に有利な状況へと追いこまれつつある。


 この次元世界(パラダイム)の人間が、導子理論を知っているとは思えないが、ターゲットは「通信が乱れやすい洞窟」を迎撃のために選んだ可能性がある。


「他の次元世界(パラダイム)のエージェントどもがやられたのは……慢心でも、偶然でもなかったのかもなんだな……」


 それでも、後退という選択肢はない。グレッグは、覚悟を決めて前進する。


「……ヌヌッ」


 やがて、迷彩コートのエージェントの眼前に広大な空間が現れる。多機能ゴーグルのパラメータを調整し、視界を最適化する。


「地底湖なんだな。これほどの規模のものが……」


 グレッグは、嘆息する。セフィロト社の存在も知らなかったころ、故郷の次元世界(パラダイム)で冒険者をやっていた記憶がよみがえる。


 それでも、グレッグの表情はすぐに、次元間企業の非合法工作員のものへと戻る。『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』ともに、ゆっくりとほとりへと近づく。


 地面に、足跡を発見する。先ほど交戦した人影……ターゲットのものと思しきそれは、湖のなかへと向かっていた。


「水中に隠れたのか? つくづく、厄介な行動を選ぶ男なんだな……」


 グレッグが装備するゴーグルの性能では、地底湖の水中深くまでは見通せない。『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』の搭載カメラも同様だ。


 手にしたオートマチックピストルをいつでも射撃できるように構えながら、グレッグは『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』を湖上に展開する。


 水中に潜んでいるのなら、波か泡のようなものが立つはずだ。わずかな気配でも、見逃すつもりはない。ゴーグルに送信される画像情報に、神経を集中する。


──パラッ。


「ヌヌ……ッ?」


 エージェントの頭上に、小石が落ちてくる。反射的に、顔をあげる。視界をふさぐように、なにかが落下してくる。


「……ぐアグはッ!?」


 グレッグは、天井からの落下物が人間であることに気づくために、わずかな時間を有する。人影は、エージェントのうえに肩車するような体勢で着地する。


「ウラア……ッ!」


 突然の荷重によろめくグレッグのうえに陣取った男は、エージェントのあごに両手を回し、思い切り上方に引っ張る。


「……ヌヌッ!!」


 グレッグとそのうえに肩車する男の重心が崩れ、二人はともに背後へと転倒する。倒れこむ先には、地下淡海が待ち受ける。湖面に、大きな水しぶきが立つ。


 水中に沈みこんだグレッグは、とっさに背後を仰ぎ見る。多機能ゴーグルは潜水用ではないが、雨天用の防水処理が施されているため、かろうじて稼働を続けている。


 ノイズまみれの視界に、攻撃者の姿が映る。追跡のターゲットである、あの男の顔が眼前にある。


(迂闊……!)


 グレッグは、胸中で悔恨の叫びをあげる。地底湖は、ターゲットの潜伏場所ではなかった。自分をしとめるための、最後の戦場だった。


(ヌヌッ! 重い……ッ!!)


 水中での戦闘行動をとろうと、グレッグはもがく。防弾処理のほどこされた迷彩コートが水を吸い、エージェントの動きを阻害する。


 あがくグレッグをあざわらうように、軽装の男は身軽にエージェントの背後をとる。青年の両腕が、グレッグの首にからみつく。


「あぐッ、ゲボぉ!!」


 グレッグののどから、空気の泡がもれだす。相手の頸部にアームロックを極めたターゲットの男は、万力のごとく力をこめていく。


(まだ、だ……まだ、なのだな……ッ!!)


 瀕死の多機能ゴーグルを通して、グレッグは『機械化鳥隊(バード・カンパニー)』に攻撃指示を飛ばす。


 コマンド受信までの数秒のタイムラグが、いまは数時間にも感じられる。鳥型マシンたちのカメラ映像が、ゴーグルの視界に重なって映し出される。


 ニードルガンの軽量の針は、水圧を突破できない。高振動ブレードを装備した個体は、そもそも水中に侵入できない。自爆型は、論外だ。


 打開策を見いだせぬまま、グレッグの血中酸素濃度が低下していく。酸素欠乏で、視界が暗くなっていく。


「ぐアッぐ……ゲはオ……ッ!!」


 限界まで開かれたグレッグの口から、ひときわ大きな空気の泡が生じたかと思うと、そのまま、四肢はぐったりと脱力する。


 背後から極められたアームロックが、解除される。


 グレッグには、もはや、指一本動かす余裕は残されていない。肺腑のなかの空気をすべて吐き出した肉体は、ゆっくりと暗い湖底に向かって沈んでいく。


 意識が消えゆくグレッグの脳裏には、少年のころ、故郷の湖に潜った記憶がよみがえっていた。


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