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【宮仕】

 常闇におおわれた都において、天文寮の鳴らす鐘の音が時刻を知る唯一の手段だ。ミナズキは、陽麗京に刻を報せる音が響く少し前に、目を覚ました。


「ふわぁ……んっ」


 起き抜けのミナズキは、幼いころからそうしているように沐浴をおこない、身を清める。簡単に朝食を済ませ、銅鏡を持ち出して身支度を整える。


 式神の侍女が、ミナズキの黒い長髪をくしですく。鏡面には、ミナズキの顔が映される。整った風貌に、余人の倍は長さのある耳が見える。


 背後の侍女は、ミナズキの髪の毛を糸のように使って、長耳を黒髪のなかへと器用に編み込み、隠す。


 ミナズキの耳は、一目でわかるほどに長い。養父は、この耳を他の人間に見せてはならない、と厳しく言いつけ、ミナズキもそれを守ってきた。


「いってきます。留守をよろしくね」


「ワゥン」


 身なりを整えたミナズキは、宮中への仕事に向かう。暗い都の大路を抜けて、職場である符術寮にたどりつくのは、業務開始の刻よりもだいぶ早い。


 ミナズキは、おのれの机を前にして座り、山積みにされた書状を見やる。


「符術の仕事だけで終われないのが、宮仕えのつらいところかしら」


 符術寮から各官府へと送った誓願の返答、逆に府術寮へ向けられた命令や注文、なかには貴族個人の厄除け祈願の依頼も混ざっている。


 ミナズキは、目前の紙の山を優先度順に仕分けしていく。そうこうしているうちに、同僚の符術巫たちも、一人、また一人と集まってくる。


「おはようございます、ミナズキさま」


「おはようございます、みなさま」


 ミナズキと符術巫たちは、互いに挨拶を交わす。宮中の業務開始を告げる鐘の音が、響く。ミナズキは書状を横にのけ、符術巫たちとともに仕事に取りかかる。


 符術寮の現在の主業務は、食糧召喚の儀式に関わるものだ。まずは手分けして、霊紙に霊墨で呪紋を描き込み、呪符を用意する。


 単純労働ながら、精密作業でもあり、符術の専門知識も必要となるため、素人に任せることはできない。


 ミナズキは、他の符術巫よりも一足先に担当分の呪符を作りあげ、書類仕事に取りかかる。


「いまの八角堂の霊脈も弱まっていたわね。新しい場所を探さないと」


 儀式をおこなうためには、霊気に満ちた土地でなければならない。そして、場所を移すとなれば、新しい八角堂も建て直さねばならない。


「土木寮に、八角堂移築の書状を届けてきます」


「ミナズキさま。それは下の者に任せればよいのでは?」


「此方が直接行ったほうが、話は早いでしょうから」


 ミナズキは符術寮の仕事場をそそくさと抜け出すと、建築を司る土木寮との折衝を手短に済ます。


 本来の仕事を終えたミナズキは、符術寮へは戻らず、宮中の一角──検非違使の詰め所へと向かった。


「符術之守、ミナズキです。検非違使之輔、シジズさまは居りますか?」


「おう。どうしたんだぜ」


 目的の人物は、他の検非違使の鍛錬を見つつ、部屋の奥であぐらをかいていた。


「お話があります。少し、お時間を」


 ミナズキの呼びかけを受けて、武官装束のシジズは表に歩み出る。ミナズキは、シジズを建物の裏へと導きつつ、周囲の気配に気を配る。


 いまだけは、明けない夜闇のおかげで、他人の目にふれる心配は少ない。


「……内密の話か?」


「はい。実は、『禁足地』の調査を考えていまして」


 ミナズキの言葉を聞いたシジズは、暗天を仰ぎつつ、耳の裏をかく。


「どれ……そいつは、おすすめできないぜ」


「しかし、『常夜の怪異』の原因があるとすれば、あの場所以外には」


「だとしても、貴族たちは猛反発だろうぜ。帝だって、納得しない」


「それでも……!」


 ミナズキは、真摯な瞳で屈強な検非違使を見上げる。


「……貴殿は、昔から強情だったからなあ」


 シジズは視線をそらしつつ、こめかみをぼりぼりとかく。


「どれ。つてのある貴族さまに、奏上できるよう取り次いでみるぜ」


「シジズさま!」


「上手くいくと、決まったわけじゃないぜ。期待されすぎても、困る。結果が出次第、書状で知らせるか」


 検非違使之輔、シジズは、手を振りながら、詰め所へと戻っていく。


 男の背中を見送りながら、しばしミナズキは、その場に立ち続けた。静かな高揚が、こみ上げてくるのを感じる。


 やがてミナズキも、自らの持ち場である符術寮へと足を向ける。その胸のなかで、『常夜の怪異』を自らの手で解決する決意を新たにしていた。


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